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1月の新刊『6月31日の同窓会』刊行に寄せて
そのスキャンダル、〝同窓会〟系 真梨幸子

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どうして「同窓会」なのか。

記憶を辿ってみますと、担当さんと初めてお会いしたとき、「ぜひ、〝同窓会〟をネタに、お願いします」

とお題を出されたんじゃなかったかしら。

正直、「うーん、同窓会か……」と、思ったものです。

というのも、「同窓会」をネタにした作品は、ドラマ、小説、漫画と世の中に沢山あり、もはや、「同窓会」系という名のジャンルができる勢いで、私の出る幕などなかったからです。「同窓会」系の名作もあまたあり、そんな名作揃いのジャンルに特攻するほど、私は勇敢ではありません。

私は今まで、人があまりやらないようなネタを選んで作品にしてきました。理由は簡単です。比較されにくいからです。または、目立つからです。最小のエネルギーで最大の効果を生み出すことを信条としているからです。

なのに、実日の担当さんは、「同窓会」というお題を提示してきました。しかも、かなり前のめりで。もうこれ以外のお題はないとばかりに。鼻息も荒く。

その熱意に押されて、うっかり承諾してしまったわけですが、どれほど、後悔したことか。

同窓会、同窓会、同窓会……。

そう何度も繰り返していると、ふと、その言葉のいかがわしさに気がつきました。なんなんでしょう、この淫靡(いんび)な響きは……。この背徳的なイメージは……。

そういえば、同窓会をネタにした作品も、大概は、いかがわしい。同窓会で久し振りに再会した元クラスメイトが恋に落ちて、不倫だ、三角関係だ、四角関係だと、ドロっドロの泥仕合に発展します。または、過去の秘密やトラウマが引き金になり、事件が起きる……。

今、私の頭の中には、五つ程、「同窓会」系の作品が浮かんでいますが、どれも、なんらかのスキャンダルが起きています。過去と現在という落差から生じるエネルギーによって。しかも、ドロドロ、ぐちゃぐちゃ。

そうか、なるほど。

人がこれほど「同窓会」系の作品に惹かれるのは、「スキャンダル」を期待しているからなのね。しかも、「同窓会」というトリガーは誰もが経験し得る身近なもので、だから、より「あるある」なバーチャルリアリティを体感できる。……つまり、共感しやすいんだ。

ならば、天の邪鬼な私は、多くの人があまり共感できないような素材で勝負しようと思いました。

そこで、ふと浮かんだのが、〝六月三十一日〟という日付です。たぶん、ネットでカレンダーを確認しようとしていたんだと思います。「六月って、何日までだっけ?」と。そして、辿り着いた、意外な事実。

これは。……これは使える。

そのとき、私が辿り着いた意外な「何か」は、ぜひ、小説を読んで、ご確認ください。

ということで、タイトルは決まりました。

「6月31日の同窓会」。

タイトルが決まれば、半分は出来上がったようなものです……と言いたいところですが、実は、このあとの肉付けが、長い道のりでした。

三ヵ月に一度の連載でしたので、前回の話をまったく思い出せないまま次の話を書きはじめることも、度々ありました。そして、次回のことなど一切考え無しで、無責任にその回を終わらせること、毎回。まさに、「今日を生きよう、明日は明日の風が吹く」的な風来坊スタイル。

こんな感じでしたので、連載も終盤を迎えると、「これ、長編としてまとまるのかしら?」という不安で胃がシクシク痛みだしました。ここだけの話、白旗を上げて逃げ出そうと思ったことも。

……でも、創作の神様は、こんないい加減な私でも見放しはしませんでした。最後の最後、本当に土壇場で、見事にまとめることができました。

我ながら、よくやった……と。

でも、まだ再校が残っています。もうひと頑張りです。

※本エッセイは月刊ジェイ・ノベル2016年2月号掲載記事を転載したものです。

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