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9月の新刊『スローバラード Slow ballad』刊行に寄せて
仲間たちの物語は続く 小路幸也

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『スローバラード』は『モーニング』から始まった〈ダイ・シリーズ〉の四作目にあたる。そして、シリーズの特徴から考えて概ね〈これで一区切りがついた〉という作品になっている。〈シリーズ終了〉ではなく、〈一区切りがついた〉という微妙な表現をした理由は、このシリーズ、人に説明するのには少々ややこしい時系列になっているからだ。

一作目の『モーニング』自体まったくシリーズにするつもりなどなかった。その内容は四十五歳になった主人公ダイたちが、友人の葬式に久しぶりに集まり十九歳だったあの頃をロングドライブしながら回想する、というものだ。だから、十九歳のダイたちと四十五歳のダイたちが交互に物語には登場する。それで終わればよくある形式の物語だからどうということもなかったのだけど、シリーズでやってみませんかと言われてしまった。

さて、と、考えた。

十九歳と四十五歳の頃を同時に進行した物語の続編なんだから間を取って三十歳ぐらいか? という安易な考えで、二作目『コーヒーブルース』は、ダイが三十歳のときに巻き込まれた事件にした。ここでもダイが二十五歳の頃の過去の事件を扱いながら進行する。

じゃあ次は、と、なって三作目『ビタースイートワルツ』では、ダイがほぼ四十歳のときの事件を描いてみた。しかしはたと気づいたが、ここまで書いてもまだ一作目の四十五歳までは追いついていなかったのだ。

そして今回の『スローバラード』だ。ようやく物語の時代もほぼリアルタイムに追いつき、そして一作目の年齢をとうに追い越した五十三歳になったダイの姿を描くことができた。〈一区切りがついた〉と思ったのも理解していただけると思う。

ダイの年齢は僕と同じに設定した。だから、主人公である〈弓島大〉は、一九六一年生まれで現在五十五歳のオッサンだ。一般企業なら部長か取締役クラスの年齢だろうし、孫がいてもギリギリおかしくはない年齢だ。現実の僕を考えるなら、今は子育ても終わって、妻と二人でのんびりと暮らしている。たまにしか実家に顔を出さない二人の息子たちは、一作目や二作目の〈ダイたち〉と同じような年齢になっている。それぞれに社会の荒波の中で、同級生や同僚たちと日々の暮らしを送っているんだろう。

それは、そのまま僕が通ってきた道だ。まったく違う人生ではあるものの、友人たちと語らい、笑い合い、時には反目し合い、助け合って支え合って生きてきた、生きていく日々だ。

ささやかな幸せもあるだろうけど、押し寄せる孤独もあるだろう。悲しい別れもあるかもしれないし、嬉しい偶然の出会いもあるかもしれない。

この物語は仲間たちの物語だ。出会いは偶然でも、出会った瞬間からこれは必然だったんだと思えるほどに、強く結びついた仲間たちの物語。

遠くの親戚より近くの他人と言うが、夫婦だって元々は赤の他人だ。血の繋がりよりも心で深く繋がった仲間を得られる人生がどんなに貴重であるかは、たぶん読者の皆さんも実感しているだろう。
繋がった仲間たちは、死ぬまで腐れ縁が続くもの。

だから、この〈ダイ・シリーズ〉もきっとまだ続いていくような気がしています。

※本エッセイは月刊ジェイ・ノベル2016年10月号掲載記事を転載したものです。

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