王の薔薇風呂入浴シーンに爆死!?──韓国専門家×漫画家が語る「韓国時代劇」の魅力

『マンガでわかる!韓国時代劇のすべて』刊行記念 【著者対談】康熙奉(カン・ヒボン)×hassaku王の薔薇風呂入浴シーンに爆死!?──韓国専門家×漫画家が語る「韓国時代劇」の魅力

インタビュー・対談

2025.05.15

韓国専門家の康熙奉(カン・ヒボン)と、漫画家のhassaku(ハッサク)が“沼落ち対談”を敢行。正祖(チョンジョ)に心を奪われた瞬間から始まったhassakuの韓ドラ人生、そしてオタク目線と専門知識が融合した制作の舞台裏などを語りつくす。登場人物や用語、時代背景が難しそう……そんな初心者の壁を乗り越えるヒントも満載。マンガで描く歴史の面白さ、そして韓服に宿る色気まで。韓国時代劇のすべてを、たっぷりお届けします。
構成/編集部

 もともと韓国時代劇がお好きでしたか?

hassaku 正直そこまで特別に好きという感じではなかったです。登場人物が多すぎたり、用語が難しかったりと視聴ハードルが高い印象がありました。

 韓国の歴史をある程度知らないと、時代劇に入っていけないところがあります。それでも、沼に落ちた作品があったわけですね。

hassaku 2022年に『赤い袖先』に沼落ちしました! 主人公の正祖(チョンジョ/本名はイ・サン)は、韓国時代劇で一番感情移入した歴史的な登場人物ですね。『愛の不時着』にハマったときに「母胎ソロ」(母親の胎内にいるときから現在に至るまで恋愛経験がない)という言葉を知ったのですが、正祖もそれなんです。すべてを持っているのに、一つも自由がない孤高のキャラです。

 あのドラマは大傑作ですからね。私も、『オク氏夫人伝』を見るまでは、『赤い袖先』が韓国時代劇のナンバーワンでした。主人公のジュノ(2PM)とイ・セヨンの主役コンビがとても良かったですね。

hassaku メイキング映像を片っ端から漁ってイチャイチャシーンを堪能し、2人のInstagramもフォローして追いかけました。ジュノが演じた正祖の場合、父親(思悼〔サド〕世子)が米びつに入れられて死んだというところが、すごいトラウマですよね。祖父(英祖〔ヨンジョ〕)との確執も痛々しくて、ジュノの迫真の演技でもらい泣きしました。オタク目線から言うと、ジュノが薄い衣を着たまま薔薇風呂に入るシーンを初めてみたときはRakutenvikiでコメントオンにして英語字幕で見たのですが、海外の人が薔薇風呂入浴シーンで「Take it off! Take it off!!(服脱げ!)」って大騒ぎしてましたね(笑)。

 私もその場面を見ていて、薄い衣が妙に邪魔だなあ、と思っていましたよ(笑)

hassaku 最終的に本当に脱いじゃったんで爆死しました(笑)。『赤い袖先』が好きすぎて、見る度にわからない部分をネットで調べたりしていました。もう少しちゃんと調べたのは、2024年にテレビ東京さんのWeb メディアで『太宗 イ・バンウォン~龍の国~』の冒頭あらすじの紹介マンガを描いたときです。康先生のご著書『いまの韓国時代劇を楽しむための朝鮮王朝の人物と歴史』(実業之日本社)もこの頃に拝読し、学ばせていただきました。

 拙著を読んでくださって嬉しいですね(笑)。その縁があって、今回の共著が実現したかもしれませんね。hassakuさんのマンガは本当に面白かったですよ。ご自身で『この1コマを見てほしい!』と気に入っている作画を教えてください。

hassaku 恐縮です。演技ドルについて描いたマンガの『半裸で歌っているジュノ』ですかね。オタクの底力で描きました(笑)。

 あれは危ない構図でしたね(笑)。ドキドキしました(笑)。まあ、歴史的なことをマンガにするのは難しい面もあると思いますが、韓国時代劇で扱うネタをわかりやすくマンガで伝えるために意識した工夫は何ですか?

hassaku 登場人物とセリフをできるだけ減らしました。また、スマホでも見やすいように文字を大きくしました。今回描いた歴史エピソードは1話6ページと短いので、物足りなさを感じられる方もいらっしゃるかもしれませんが、全体を概観する導入としてはこのくらいの難易度やボリュームがちょうどいいのではないかな、と思っています。

 セリフやコマ割りが独特で、どれも臨場感がありました。なにしろ、各エピソードを6ページでスリリングに10本紹介する手法は、どんどん読み進めていけました。ご自身でこだわった部分はどこですか?

hassaku 今回のコンセプトでは、史実から大きく外れないようにすることを重視しました。また、見やすさを重視して、あえてこだわらずにシンプルに同じコマ割りにしています。淡々と史実を語るリズムになっているかと思います。

 史実から外れない、という縛りがあったとはいえ、hassakuさんとしては『読者がこれは面白い!』と感じてくれそうな遊び心も随所に入れていたのでは?

hassaku シリアスなシーンをあえてギャグっぽくしたところですかね。たとえば、中宗(チュンジョン)が王妃との離縁を決断した場面は、実際には悲劇的な場面なのにあえて滑稽さを出しています。

 あのときの中宗は、愛していた王妃を守れなくて情けない男でした。そんな雰囲気がマンガでよく出ていました。実際、今回の本では歴史の名場面をhassakuさんが独特のタッチで描いていましたが、歴史に詳しくない人でも楽しめるようにかなり意識したのでは?

hassaku 現代の韓国ドラマやK-POPの話題も混ぜるようにしました。また、少しだけ日本の歴史も比較対象に使っています。推古天皇や織田信長とか。少しでも既存の知識とリンクさせると、新しい知識も入ってきやすいのではないかと思いました。

 今回は共同制作でお互いの持ち味を出したわけですが、その過程で印象に残っているやり取りは?

hassaku 良いものを作ろうと、お互いにアイディアを出し合う空気感がとても良かったです。私のような新参者の意見も真摯に聞いてくださって感謝しています。

 私もhassakuさんの制作時のエネルギーがとてつもないなあ、と痛感していました。ものごとを掘り下げようという熱意が凄いですね。私は淡白なところもあるのですが、hassakuさんに影響されて、いつも以上にエネルギーを出せたと思います。こういうところが共著のパワフルなところですね。

hassaku 直しを何度も入れたり、執筆中はいろいろとお手間をおかけしました……。良い機会をいただき、康先生には本当に感謝しています。今後は近現代の話も描いてみたくなりましたね。あとは、李舜臣(イ・スンシン)のエピソードも描けたら良かったかな、と思います。水軍を描くのが大変そうですが……。

 今回の新刊を手に取ってくださる読者に、どんなことを楽しんでほしいですか?

hassaku まずは、ドラマ視聴中に何だかわからない単語が出てきたときに辞書として使ってほしいですね。そして、ドラマを見たあとにじっくり読んで理解を深めていただければ、と。次はどんなドラマを見ようかと探すためのガイドブックとしても活用できると思います。韓国の歴史や文化を知るための導入本としてもお楽しみいただけるか、と。

 そうですね。さらに韓国時代劇を深めるうえで多くの方が本書をきっかけにしてくだされば嬉しいですね。私も全体の構成を考えるときに、『これだけはぜひ読者に伝えたい!』というポイントを突き詰めて文章を書いていました。

hassaku 本書では、長く手元に置いていただけることを目指して、必要で便利な情報をたくさん盛り込んでいます。康先生がアカデミックな専門家目線+コアな韓国時代劇ファンの目線から、私が初心者+オタク目線から執筆した本となっています。つまり、初心者も既存のファンの方もお楽しみいただける内容になっているかと思います。決して損はさせません!ぜひ、みなさん、2冊ずつ買ってください(笑)。

 素晴らしい、身がピリリと引き締まります(笑)。最後になりますが、hassakuさんにとって韓国時代劇とはどういう存在ですか?

hassaku 日本の時代劇映画『侍タイムスリッパー』を作った安田淳一監督が、困った人を助けるのが時代劇のいいところ、と仰っていたんですが、韓国時代劇にも共通するところがあると思います。『オク氏夫人伝』の主人公も、困った人たちを助けようと奮闘します。また、『六龍が飛ぶ』では、登場人物たちが既得権益と戦いながら『いい国を作りたい、誰もが安心して暮らせる国を作りたい』と必死にもがいています。そういった、人として忘れちゃいけない大切なことを正面から描きつつ、ラブロマンスやコメディもバランス良く混ぜて楽しませてくれるのが韓国時代劇ではないかと思います。

 私にとっての韓国時代劇とは、不遇や不運によって浮かばれなかった歴史上の人物に新たな光を当ててくれるものなのです。たとえば、国王になったら名君間違いなし、と称賛されていた孝明(ヒョミョン)世子が、わずか21歳で早世してしまいます。そんな彼を主人公にしたのが『雲が描いた月明り』で、パク・ボゴムが孝明世子を演じて彼の業績を現代に甦らせてくれました。とにかく、彼の韓服姿は絵になっていましたね。

hassaku パク・ボゴム氏は、内面も美しくていいですよね。推しの韓服姿は最高です!推しにはみんな韓服を着てほしいくらいです。韓服を着ることで色気と気品が加わります。これからも、現代劇だけでなく、時代劇もマイペースに視聴していきたいです。『赤い袖先』の他にも珠玉の人生ドラマをたくさん見つけたいなと思っています。

 これからもメチャ面白い韓国時代劇をたくさん見つけましょう。