
売上好調! 歴史小説の気鋭・近衛龍春の最新刊忠義に生き、野望を捨てなかった戦国の知将──『蒲生氏郷 信長に選ばれた男』とは!?
作品紹介
2025.05.19
乱世に生き、信長と秀吉という二大英雄の狭間で、自らの理想を貫いた一人の男──蒲生氏郷。その名は、戦国時代の中でも歴史の陰に埋もれがちだが、信長の「選んだ男」として、その才気と精神は決して凡庸ではなかった。
近衛龍春による歴史小説『蒲生氏郷 信長に選ばれた男』(実業之日本社文庫)は、そんな氏郷の真価に光を当てた一冊である。わずか享年四十──若すぎる死を迎えながらも、氏郷が歩んだ道には、重厚な人間ドラマと「志を貫く生き方」のすべてが詰まっている。2025年4月の刊行とともに熱い注目を集め、早くも重版が決定。売れ行き好調の本書は、戦国という時代の本質に鋭く迫る作品だ。
(文:実日オンライン編集部)
信長の魂を継ぎ、秀吉の下に生きる
蒲生氏郷は、織田信長の娘婿としてその信任を受け、信長亡き後は豊臣秀吉のもとで92万石の大名へと上り詰めた。しかし本作が描き出すのは、ただの忠臣ではない。表向きは秀吉に忠誠を尽くし、苛烈な命令にも耐えながら、その胸には常に「天下」の志を秘めていた。とりわけ印象的なのは、千利休の切腹直前、密かに交わされた会話の場面での一節である。
「某は右府様に選ばれし男にござる。殿下には先んじられましたが、こたびは誰の後塵も拝するつもりはござらぬ。世が乱れたならば、天下万民のため立ち上がる所存です」
この言葉には、信長の理想を受け継ぎながらも、秀吉に代わる新たな秩序を構想する氏郷の本心がにじんでいる。
矛盾に満ちた時代に、「己を持つ」ということ
秀吉の傘下に入りつつも、氏郷は常に冷静に時勢を読み、力を蓄え続けた。会津という辺境の地を、文化と軍備が共存する理想的な都市へと作り変えた姿には、真の国家経営者としての面目が表れている。従っているようで従わず、従わぬようで裏切らない──その矛盾を内に抱きながらも、自らの信念に従って行動した氏郷の姿は、現代を生きる私たちにも深い示唆を与えてくれる。
近衛龍春が描く「戦国の人間ドラマ」
著者・近衛龍春は、最新の歴史研究に基づいた確かな筆致で、戦国武将の内面を掘り下げることに定評のある作家だ。本作では、氏郷の知略や誠意だけでなく、その内に抱えた葛藤や限界までもが生き生きと描かれている。とくに、千利休との別離、秀吉政権下での冷徹な政略に晒されながらも信念を失わぬ姿は、人間味にあふれたドラマとして胸を打つ。
今こそ読みたい、「信念」と「策謀」の物語
本書は単なる歴史読み物ではない。組織に生き、時代に流されながらも、自分自身を見失わずに生きること──その困難と尊さを、蒲生氏郷という人物の生涯を通じて私たちに問いかけてくる。権威に屈せず、無謀にも走らず、ただ機を見て静かに力を備えた氏郷の姿は、混迷の現代を生き抜く読者にとって、確かな指針となるだろう。
そして何より惜しまれるのは、その志がようやく結実しようとした矢先、享年四十という若さでこの世を去ったことだ。もしあと十年──いや、五年でも生きていれば、戦国の地図はまったく違った姿になっていたかもしれない。