東野圭吾氏は、なぜ絵本を執筆したのか

作家生活40周年東野圭吾氏は、なぜ絵本を執筆したのか

作品紹介

2025.05.30

日本を代表する作家・東野圭吾氏が、2025年に作家生活40周年を迎えた。その記念すべき年に初の子供向け絵本『少年とクスノキ』を刊行した。なぜ、作家である東野氏によって絵本のストーリーは執筆されたのか。担当編集者が聞いた。


 累計120万部を突破した「クスノキ」シリーズの第2弾『クスノキの女神』の作中に登場する絵本が『少年とクスノキ』だ。小説の中では架空の物語なので、一部しか書かれていないが、それだけでも充分に心を打つものがあり、なくてはならない要素になっている。

 なぜ物語を小説に組み込んだのか東野氏に聞くと、「主人公の伯母の病気がきっかけでした。現代の医学では救えない病気だから主人公にどう受け止めさせるかを考えた。なんとか救う方法はないかと考えましたが、そんな都合のいい話はない……。葛藤の中から見つけ出した答えが、絵本のストーリーに乗せて伝える方法でした」。詳しくは書けないが、『クスノキの女神』の読者ならその方法は見事に成功しているとわかるはずだ。

 架空の絵本のままにしておくにはあまりにも惜しく、『クスノキの女神』の読者から「この絵本が欲しい」と、多くのコメントが寄せられたこともあり、実物の絵本にするために加筆を依頼したところ「子ども達に、読書の喜びや楽しみを知るきっかけとなる作品を届けたい」という思いを持つ東野氏の快諾を得ることができた。

 そこで重要となるのが、物語のイメージを表現するイラストだ。担当するのは、絵本作家としてだけではなく、画家として国内外で活躍する吉田瑠美氏。絵を見た東野氏は、「クスノキの女神の登場人物に、絵が上手な少年がいます。彼は、ある有名な物語が好きなのですが、その世界観と描いていただいた絵に通じるものがあって、すごく気に入りました」と語っていた。色彩豊かに描かれた作品は、実際に少年が描くならこんな画風だろうと、想像に難くない仕上がりになっている。

 日本を代表する作家が執筆したストーリーと、それを的確に捉えて描かれた画が彩る絵本は、老若男女問わず多くの人に感動をもたらしてくれるだろう。

 最後に「ふと思いついた物語に素敵な絵をつけていただきました。主人公はあなたかもしれません。楽しんでいただけたなら幸いです」と東野氏からメッセージをもらった。


ストーリー
不幸なことが続き、大切な人たちを失ってしまった少年は、将来が不安で泣いていました。その様子が心配になった旅人は、未来を見せてくれるというクスノキの女神に会いに行くように勧めました。様々な困難を乗り越え、出会えたクスノキの女神は、少年の願いを聞き未来の姿を見せてくれます。そこで見た未来の姿とは……。

クスノキシリーズ
東野圭吾氏によるベストセラー小説『クスノキの番人』(2020年2月刊行)、『クスノキの女神』(2024年5月刊行)による累計120万部を突破したシリーズ。不思議な力を持つクスノキと、その番人を任された青年の元へ訪れる人々が織りなす物語。2026年には、『クスノキの番人』がアニメーション映画として公開される。

文:東野圭吾(ひがしの・けいご)
1958年、大阪府生まれ。大阪府立大学工学部卒業。85年『放課後』で第31回江戸川乱歩賞を受賞しデビュー。99年『秘密』で第52回日本推理作家協会賞、2006年『容疑者Xの献身』で第134回直木賞、第6回本格ミステリ大賞、12年『ナミヤ雑貨店の奇蹟』で第7回中央公論文芸賞、13年『夢幻花』で第26回柴田錬三郎賞、14年『祈りの幕が下りる時』で第48回吉川英治文学賞、19年に第1回野間出版文化賞、23年に第71回菊池寛賞を受賞。24年に第28回日本ミステリー文学大賞受賞。多彩な作品を長年にわたり発表し、その功績により、23年に紫綬褒章を受章。スノーボードをこよなく愛し、ゲレンデを舞台にした作品に『白銀ジャック』『疾風ロンド』『恋のゴンドラ』『雪煙チェイス』がある。『あなたが誰かを殺した』『ブラック・ショーマンと覚醒する女たち』『クスノキの女神』『架空犯』など著書多数。


絵:よしだるみ(吉田瑠美)
1983年、東京都生まれ。ニューヨークで幼少期を過ごし、青山学院女子短期大学芸術学科卒業。2017年より絵本作家として活動をはじめ、著書に『ロバのおはなし』(国土社)『おすよおすよI push andgo』(エディションエフ)『あめあがりのしゃぼんだま』『ぼくのそりすべり』 ( 福音館書店)、『いつかはぼくも』をはじめとする『よしだるみの動物の家族絵本』( 国土社) などがある。22年に初のエッセイ『ルルオンザルーフ』( エディションエフ) を刊行。24年公開の日台合作映画『青春18×2 君へと続く道』の劇中画を担当したのを機に、近年は日本だけでなく台湾やベトナムなど各地に滞在し、その土地の物語を内包する壁画や絵画を制作、発表している。
公式サイトhttps://www.ruruontheroof.com/


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