
写真展「U.F.O」開催記念・書籍『U.F.O』を刊行するまで佐藤健寿のみる世界
インタビュー・対談
2025.06.16
写真家・佐藤健寿氏の写真展「U.F.O」が2025年6月24日までキヤノンギャラリーS(品川)にて開催されている。この写真展は、佐藤氏の20年あまりの写真家活動を振り返った内容となっている。
今回の写真展開催にあたり、佐藤氏はこんなメッセージを出している(以下、一部抜粋)。
「未知のもの/ Unknown、忘却したもの/ Forgotten、見過ごしたもの/ Overlooked―――写真が世界のネガとしてあるように、見えるものとは、常に見えないものの反照にすぎない」
書籍『U.F.O』はまさしく、佐藤氏の目にうつった光景と写真におさめてきた光景、その狭間をまるで未確認飛行物体のように漂い発信してきた彼の活動とその記憶に迫った一冊として現在制作中である。
今回、書籍刊行に先駆けて開催することとなった写真展「U.F.O」と書籍の制作裏側をたどる。(前編)

―この写真展『U.F.O』の開催には、制作中の書籍が関係しています。
今回の写真展は、自分の過去20年あまりの活動を時系列的に追ってみようという試みですが、実はもともとこの『U.F.O』は書籍として企画していたものだったんです。写真とそれに付随したフォトエッセイ的な。二年くらい前から準備していたんですが、昨年、ちょっと自分も担当編集者さんも、色々と仕事などが重なり遅れていたんですね。その間にキヤノンから写真展の話があり、イレギュラーですが、書籍に先駆けて先に写真展をすることになりました。
―書籍『U.F.O』の制作はエッセイ寄稿がきっかけでした。
もともとあるムック本に「忘れられない旅」というテーマで、エッセイを寄稿したんです。後にそうしたエピソードと写真を織り交ぜた書籍を作れないかと打診を受けました。今までも紀行文的なものはいくつか発表してきたんですが、そういう大きな旅の話ではなく、旅のふとした瞬間で印象に残っている出来事とかそういうのを集めた本なら作れるかなと思って、引き受けることにしました。今回の写真展はそのいわば写真版という感じですね。
―心に留まっているふとした瞬間のエピソード、ぜひ知りたいです。
例えば2022年にコロナが明けて、タイの田舎をお祭りで久しぶりに訪ねたんです。その時は現地に英語を話せる人はほぼいなくて、宿の手配さえも大変なところで。結局現地で見つけたキャンプ場の管理人室に泊めてもらって、お祭りにもそのキャンプ場のおばちゃんのバイクに二人乗りして連れて行ってもらったりとか。そういう旅のおまけみたいな、でも強烈に記憶に残っているような話ですね。
―印象に残っているささやかな記憶を写真とともにたどるのは、佐藤さんの書籍のなかでも新しい試みで新鮮です。写真展「U.F.O」の展示構成はどのように進めていきましたか?
空間構成はキュレーターの方にお任せしたんですが、時系列で並べるということは今回はじめてやりました。過去の展示では地域やカテゴリー的な括りでまとめて展示することが多かったので、あくまで被写体が中心でした。それが今回は時系列で、つまり自分の時間軸が中心にあることで、今までとはちょっと違った構成になったかなとは思います。
―写真展の年別ピックアップで、こだわった部分や工夫されたことを教えてください。
ここ数年の写真については、単純に被写体として興味深かったものをまとめています。2021年以前については、今回のコンセプトにあるような、なぜか記憶に残っている景色などを並べています。全体的にはコロナ禍で旅が中断した2021年頃を境にして、コロナ禍以降の作品を大きく、それ以前の作品は小さく、といった形で展示しました。
―写真展を振り返って、ターニングポイントだったと感じる年はいつ頃でしょう?
直近だと2020年、2021年は、やはりコロナ禍で移動ができないということのインパクトがありました。そこで代わりに過去の写真を見返して写真集をまとめて作ったこともあり、一つのターニングポイントだったなとは思います。それまであまり過去を振り返ることもできなかったので。
あとは2007年に最初の本を出したんですが、そこである程度自分の方向性が固まったこと。そして2010年に『奇界遺産』を出して、今に繋がる活動がはじまったことなどが大きいとは思います。写真として見ると、2003年〜2007年頃のただ旅をするのが楽しかった頃の写真は、今見ると良くも悪くも無邪気だなとは思いますね。今はある程度仕事として旅しているところがありますが、この頃は仕事でもなく、謎の行動力だけで動いていましたね。
―年を重ねるごとに、ともに旅するカメラやレンズ(機材)の選び方に変化は出てきましたか?
最初の頃はカメラのことも大して詳しくなかったので、適当に人に聞いておすすめのカメラなどを使っていました。最初に南米に行った時もアメリカでカメラ店に行って、適当に万能なやつをください、と言ったらキヤノンのEF24mm 1.4を勧められて。今にして思えばだいぶ広角だし、癖もあるレンズなんですけど(笑)。
特に撮影をはじめた最初期はまだフィルムの方が優勢な時代だったので、2003年の写真などはすべてモノクロのフィルムで撮影したものです。そのあとは「プロ」というのをある程度意識するようになって、結構重装備で撮影に臨んでいて、レンズはあればあるだけいい写真が撮れると思っていました。
ただ自分のような撮影をしていると、そういう重装備の撮影ってものすごく疲れるんです(笑)。下手すると装備が重すぎるせいで撮れない場合さえ出てきた。それからはどんどん機材はミニマムになっていきましたね。万能なカメラを用意すればなんでも撮ること自体はできるんですけど、撮るべきものを自分の距離感で撮ることの方が大事だなと年々思うようになっています。
―写真展「U.F.O」で来場者に体感してほしいこと・メッセージをお願いします!
これは誰にも共感されたことがないんですけど、ステートメントにも書いた通り、色んな場所に行っていると、色んな光景が記憶の中で混ざり合って、もはやどこの光景だかわからなくなることがたまにあるんです。例えば今年の前半も1月インド、2月台湾、インド、ドイツ、スイスと移動していて、それぞれの場所で割と強烈なものを見ている。そういう生活を数ヶ月ならともかく20年もしていると、本当にこんな場所行ったかな?みたいな場所も結構あって、自分でもわけがわからなくなることがあるんです(笑)。
今回の写真展ではそんな感じで、記憶の中にフラッシュバックする様々な光景みたいなものを暗い空間に展示しています。そういう私の脳内みたいな景色を追体験してもらえると面白いんじゃないかなと思っています。
書籍『U.F.O』を刊行するまで(後編)の公開を楽しみにお待ちください!
佐藤健寿(さとう・けんじ)
写真家。『奇界遺産』シリーズ(エクスナレッジ)は写真集として異例のベストセラーに。ほか著書に『世界』『PYRAMIDEN』『CARGO CULT』(朝日新聞出版)など。TBS系「クレイジージャーニー」ほか出演多数。写真展は過去、ライカギャラリー東京/京都、高知県立美術館、山口県立美術館、群馬県立館林美術館などで開催。「佐藤健寿展奇界/世界」は全国で巡回し13万人を動員。
●写真展「U.F.O」
開催日程 2025年5月15日(木)~2025年6月24日(火)
10時~17時30分(日曜・祝日休館)
会場 キヤノンギャラリー S(品川)
URL https://personal.canon.jp/event/photographyexhibition/gallery/sato-ufo