
『ここで唐揚げ弁当を食べないでください』累計5万部突破記念対談小原 晩×田辺智加(ぼる塾) “わたしなんて”を越えて話す「好き」と「失敗」のこと
インタビュー・対談
2025.08.01
小原 晩さんのデビュー作『ここで唐揚げ弁当を食べないでください』。23区内に上京してからの日々を綴ったこのエッセイ集は2024年11月に商業版を刊行し、2025年に累計5万部を突破しました。これを記念して、作品内に登場する喫茶店「茶亭 羽當」にて、小原さんとぼる塾・田辺智加さんの対談が実現。「好き」を語る時の悩み、食が大好きであること、失敗もネタや作品に変えるパワーについて……共通点の多い二人による止まらないお喋りの様子をお届けします。
対談の全容はSpotify・Amazon MusicのPodcastにてお楽しみください!
Spotifyはこちら→https://open.spotify.com/episode/5Cu7XiAdjCCRFJH4cCFCCF
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構成:白鳥菜都、齋藤由梨亜 撮影:小林真梨子
「好き」を語るのは難しい。けれど「好き」を語る人は輝いている
田辺:初めまして。初めましてなのに、小原さんのことは前から知っている人みたいな気持ちです。『ここで唐揚げ弁当を食べないでください(以下、唐揚げ)』を読んだから、勝手に知った気になっていて(笑)。決めつけないように、「知らない。 知らない」って言い聞かせながら来ました。わたし自身、最近ちょっと体調を崩しているなかで『唐揚げ』を読んだのですが、頑張ろうとか、わたしもこうでいいんだとか思わせてくれる本ですよね。本当に、5万部おめでとうございます!
小原: 嬉しい……。ありがとうございます!
田辺:すごく勝手なイメージで、小原さんはもしかしたら難しい人なんじゃないかって最初は思っていたんですけど、意外と共通の知り合いや話題があって話しやすくてびっくりしています。
小原:ありがとうございます。わたしは今日、田辺さんに初めてお会いして、目がすごくピュアだなって思って。目が合うたびにときめきます。そんな田辺さんと一緒に、「茶亭 羽當」に来られたのも嬉しくて。田辺さんは初めて来たんですよね?
田辺:そうです。入った瞬間から素敵で「うわー」って声が出ちゃいました。
小原:ふらふら歩いていたら見つけた喫茶店なのですが、本当に素敵ですよね。今日は『唐揚げ』にも出てくるかぼちゃプリンを一緒に食べたいなと思って。

田辺:決めきれず、二人してシナモンのシフォンケーキも頼んじゃって(笑)。プリンはかぼちゃの甘みと質感がしっかり感じられてとてもおいしいし、シフォンケーキも味がしっかり出ていておいしい……! わたし、自分でもシフォンケーキを焼くんですけど、シフォンケーキって味をよく出すのが難しいんですよ。
小原:間近で田辺さんが食べるところを見れたのが嬉しいです。こうやって、食べ物や好きなものについて田辺さんが喋る時に、「パーッ!」と、明るくなるというか、声のトーンが上がるのがすごく好きなんですよね。と言いつつ、わたし自身は好きなものについて書くのが少し怖い部分があって。わたしは、お笑いが好きなんですけど、「どんなところが好きなんですか」とか聞かれると、“わかってる風”になっちゃうのが怖くてなかなかうまく答えられないんです……。

田辺:「好き」を語るって、結構難しいですよね。わたしもスイーツとか「好き」を仕事にしてしまったから、めちゃくちゃ難しいなって感じることはあって。わたしの場合は「好きだけど、詳しくないよ」っていうのを最初に言っちゃいます。あと、人に語る時には、「本当に良いものだから、共有しよう」っていう気持ちが強いかもしれない。
小原:なるほど、人に共有したい気持ちみたいなものが前提であるんですね。
田辺:「好き」をきっかけに、友達を作ってきたからかもしれないです。人見知りなんですけど、好きなものの話だったらできるから、高校に入ったばかりの頃も相手がアイドル好きかどうかもわからないのに「好きなアイドル誰?」って聞いたりして。でも、一時期は考えすぎちゃうときもありました。 「わたしがこれを好きって言ってしまっていいんだろうか?」とか、「他にも好きな人なんていっぱいいるし」とか。
小原:そう、そうなんですよね。作り手側への気持ちみたいなのもあるじゃないですか。でも、さっきプリンとケーキを食べる田辺さんを見ていたら、本当に食べる喜び・味わう喜びに溢れていて、そういうことなら伝えられることがあるのかもって気持ちになりました。
田辺:誰かの「好き」を聞いてる時って一番楽しくないですか? 熱を持って喋ってる人って輝いてるなあって思う。
小原:確かに。わたし、今まで友達と喋っている時に、どちらかというと「こういうことがあって、最悪だった」みたいな不幸話をすることが多かったんですよね。でもある時、意外と「こういう嬉しいことがあって」とか「これがすごく良くて」って話をした方が、友達が嬉しそうだってことに気づいて。 なんか今までごめんねって思いました。
田辺:ごめんねとは思わなくていいですよ。ちょっとトホホな話も誰かの生きる希望にもなるから(笑)。
小原:ありがとうございます(笑)。でも今日、田辺さんとお話ししたことで、前よりは自信を持って「これが好きなんだ」って話ができそうな気がします。
田辺:リスペクトさえあれば、大丈夫。ただ、むやみやたらに「好き」とか、あと「可愛い」とかも似ているかもしれないけれど、巷に溢れた言葉で表現するのも違うと思ってよく悩みます。それこそ、小原さんの本ではありふれた言葉じゃなくて、今っぽいのに「本当の気持ち」が伝わる表現がたくさんあるように感じたのですが、文章表現はどうやって身につけたんですか?
小原:特に誰にも習ったりはしていないんですけど、独学だからよかったのかもしれません。大好きなピースの又吉さんのエッセイ『東京百景』を読んで、自分って言葉を面白いと思うのかもしれないと気付いて。そこから執筆活動を始めました。
田辺:じゃあ、まさに「好き」をきっかけに。そう思うと、又吉さんに帯書いてもらってるの、すごくないですか?! 宝だ!!!
小原:そう、宝なんです!(笑)
失敗も空回りも、笑ってくれる誰かがいたら消化できる
小原:さっき、トホホな話も誰かの生きる希望になるというお話があったのですが、田辺さんがサムギョプサル屋の店員さんを好きになって通い詰めた結果30kg太ったっていうエピソードが大好きで。人のこういう話に励まされることってありますよね。
田辺:わかります。わたし、人の失敗って大好きなんだよな(笑)。自分でも性格悪いなって思うんですけど。人が幸せなのももちろんいいことなんですけど、残念な話をしている人がいたら、その人のためにも笑ってあげた方がいいんだろうなって思います。
小原:本当にそうですよね。わたしも失敗をしたときは、笑ってもらえる方が嬉しい。芸人さんがするエピソードトークも、そういうところが大きい気がする。
田辺:そうですね。わたし、韓国の空港で「腕がこんなに不自然に太いわけがない」って止められてチェックされたことがあって。「肉だよ!」って言ったんですけど、ライト当てられたら光っちゃって。なんとか帰ってこられたんですけど……。当時はめっちゃ焦ったし嫌だったけど、今こうして話して笑ってくれる人がいるから、あの経験も良かったなって思います。
小原:一緒にするのは申し訳ないですが、わたしもエッセイに嫌だった体験のことを書いたとき、作品になった時点で満足感というか達成感があって。不思議だけど、そういうことってありますよね。
田辺:小原さんは最初、私家版で『唐揚げ』を出したことをきっかけにデビューされましたよね。わたし、そうやって自分で作品を作ったり、自分で動ける人を本当にリスペクトしていて。
小原:田辺さんだって、テレビなどで見ていていつもパッションを感じますよ。
田辺:いやいや、わたしはテーマパークでアルバイトしたり、ギャルになったりして、27歳から36歳まではほぼ無職だったので。36でようやく売れて今です。
小原:こうやって、芸人になった田辺さんと会えて嬉しいです。
田辺:本当によかったです。ちょうど昨日ぼる塾のメンバーに「もしわたしが芸人になってなかったら、才能がもったいなかった」とか言っていて(笑)。今もたまにこれでよかったんだろうかと思うこともありますが、結局今が最善だと思います。
小原:そういう自信は昔から持っていたんですか?
田辺:いや、30歳の時に酒寄さんに出会ってからですね。それまでは「わたしなんて……」な人生だったかもしれない。酒寄さんは出会って3か月ぐらいで、「田辺さんには才能がある!」「田辺さんにはお金がないっていう理由で芸人を辞めてほしくない。お金ならわたしがこれくらい持っているから。もし何かあったらわたしに言って」って通帳を見せてきて。それから13年、面白いって言い続けてくれたから、自信が出てきちゃったのかもしれない。
小原:わたしも結構、「わたしなんて」っていうタイプなんですけど、酒寄さんみたいに「好きだ」とか「面白い。あなたには才能があるんだ」みたいなことを言ってくれる人が近くにいてくれることで、初めて少しそういう気分になってくるの、わかります。
田辺:こんなに自分のこと好きだって言ってくれる人がいるのに、当の本人は「わたしなんて」って言ってたら、その人たちに失礼になってきますもんね。
小原:そうなんですよね。だから前は「いやいや〜」みたいな感じだったんですけど、最近少し「ふふ」って反応できるようになりました(笑)。
田辺:それは大きな変化だ。
一人で味わいたい「おいしい」もあれば、誰かと共有したい「おいしい」もある
小原:酒寄さんとのエピソードみたいに、人に救われることももちろんあると思うのですが、ご飯に救われることもあると思っていて。田辺さんは失敗や空回りをしたとき、心が救われたご飯、ありますか?
田辺:失敗とご飯というと酒寄さんと食べるご飯を思い浮かべることが多いですね。わたし、しょっちゅうネタを飛ばすので、酒寄さんからも「ネタだけは飛ばさないで」ってよく怒られてて。それでも飛ばす時があるんですけど、いつも酒寄さんとご飯を食べているから、ネタを飛ばしたとて、怒った酒寄さんとご飯を食べなきゃいけないんですね。
小原:食べなきゃいけない(笑)。
田辺:そう。嫌だなあと思いながら行くんですけど、酒寄さんって、「食べている時は楽しく」がモットーだから、食べ始めると怒らないんですよ。だからあのタイ料理屋のパッタイはネタ飛ばして怒られた後に食べたなあ、とかそういう思い出がたくさんあります。
小原:そのルールはありがたい! 怒られながら食べるご飯は味がしないですもんね。わたしは、何かやらかした時は、がっつり、それも一人で食べたくなっちゃうんですよね。
できるだけジャンクでカロリーの高そうなものを「うるせえ」みたいな気持ちで食べるとゼロに戻っていく気がして。一方で、人と食べるご飯の良さもあると思います。
田辺:人と共有する「おいしい」の良さ、ありますよね。最近は、食を通じて仲良くなる人ばかりかもしれない。好きな食べ物が一緒だったりすると、急に心の距離も近づく気がして。「この人、あれが好きなら絶対気が合うじゃん」と思っちゃうことあります。一人でご飯を食べている時も、「これ、〇〇さんに食べさせてあげたい」っていうのが思い浮かんで。
小原:すごくいい人生……。
田辺:確かにすごくいいかもしれない。 特にわたしは、「酒寄さんに食べさせたい」って思うことが一番多いです。ロケとかでおいしいものを食べさせてもらうたびに酒寄さんに教えなきゃと思います。
小原:食を通じて仲良くなった人に、「最初に会った時、あれ食べましたよね?」みたいなこともずっと言っちゃう。きっと今日のことも「あの時、わたしたちデザート絞りきれなくて二つずつ頼みましたね」って言っちゃうと思います。
田辺:今日も、食を通じた嬉しい出会いでしたね。こんなおいしいものを食べながら話す機会があったら、ぜひまたお願いします。 そうだ、『唐揚げ』に出てきたあのコーヒー屋さんも行ってみたいですね。 下北沢の……。
小原:トロワ・シャンブルですね! 一緒に行きたい。ぜひ行きましょう!
▼今回のゲスト
田辺智加(たなべ・ちか)
1983年、千葉県生まれ。お笑い芸人。きりやはるか、あんり、酒寄希望とともにお笑いカルテット「ぼる塾」を結成。“芸能界のスイーツ女王”とも呼ばれるスイーツ好き。
▼今回訪問した喫茶店
茶亭 羽當
(東京都渋谷区渋谷1丁目15-19)
渋谷の喧騒から一歩離れた場所に佇む「茶亭 羽當」。木のぬくもり溢れる店内には季節の草花が飾られ、時間がゆっくりと流れる別世界のよう。香り高く、ふんわり軽やかな口当たりのシフォンケーキは長く愛される定番。しっとりとした食感のかぼちゃプリンは、素材の甘みとほろ苦いカラメル、きめ細やかなホイップクリームが絶妙で癖になる味わい。丁寧に淹れられた珈琲や紅茶とともに、心ほどける穏やかなひとときを楽しめます。
▼作家プロフィール
小原 晩(おばら・ばん)
1996年、東京都生まれ。2022年、自費出版(私家版)にて『ここで唐揚げ弁当を食べないでください』を刊行し、異例の1万部を突破する。2024年11月に17篇を加えた『ここで唐揚げ弁当を食べないでください(商業版)』を刊行。
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構成:白鳥菜都、齋藤由梨亜 撮影:小林真梨子
「好き」を語るのは難しい。けれど「好き」を語る人は輝いている
田辺:初めまして。初めましてなのに、小原さんのことは前から知っている人みたいな気持ちです。『ここで唐揚げ弁当を食べないでください(以下、唐揚げ)』を読んだから、勝手に知った気になっていて(笑)。決めつけないように、「知らない。 知らない」って言い聞かせながら来ました。わたし自身、最近ちょっと体調を崩しているなかで『唐揚げ』を読んだのですが、頑張ろうとか、わたしもこうでいいんだとか思わせてくれる本ですよね。本当に、5万部おめでとうございます!
小原: 嬉しい……。ありがとうございます!
田辺:すごく勝手なイメージで、小原さんはもしかしたら難しい人なんじゃないかって最初は思っていたんですけど、意外と共通の知り合いや話題があって話しやすくてびっくりしています。
小原:ありがとうございます。わたしは今日、田辺さんに初めてお会いして、目がすごくピュアだなって思って。目が合うたびにときめきます。そんな田辺さんと一緒に、「茶亭 羽當」に来られたのも嬉しくて。田辺さんは初めて来たんですよね?
田辺:そうです。入った瞬間から素敵で「うわー」って声が出ちゃいました。
小原:ふらふら歩いていたら見つけた喫茶店なのですが、本当に素敵ですよね。今日は『唐揚げ』にも出てくるかぼちゃプリンを一緒に食べたいなと思って。


小原:間近で田辺さんが食べるところを見れたのが嬉しいです。こうやって、食べ物や好きなものについて田辺さんが喋る時に、「パーッ!」と、明るくなるというか、声のトーンが上がるのがすごく好きなんですよね。と言いつつ、わたし自身は好きなものについて書くのが少し怖い部分があって。わたしは、お笑いが好きなんですけど、「どんなところが好きなんですか」とか聞かれると、“わかってる風”になっちゃうのが怖くてなかなかうまく答えられないんです……。

田辺:「好き」を語るって、結構難しいですよね。わたしもスイーツとか「好き」を仕事にしてしまったから、めちゃくちゃ難しいなって感じることはあって。わたしの場合は「好きだけど、詳しくないよ」っていうのを最初に言っちゃいます。あと、人に語る時には、「本当に良いものだから、共有しよう」っていう気持ちが強いかもしれない。
小原:なるほど、人に共有したい気持ちみたいなものが前提であるんですね。
田辺:「好き」をきっかけに、友達を作ってきたからかもしれないです。人見知りなんですけど、好きなものの話だったらできるから、高校に入ったばかりの頃も相手がアイドル好きかどうかもわからないのに「好きなアイドル誰?」って聞いたりして。でも、一時期は考えすぎちゃうときもありました。 「わたしがこれを好きって言ってしまっていいんだろうか?」とか、「他にも好きな人なんていっぱいいるし」とか。
小原:そう、そうなんですよね。作り手側への気持ちみたいなのもあるじゃないですか。でも、さっきプリンとケーキを食べる田辺さんを見ていたら、本当に食べる喜び・味わう喜びに溢れていて、そういうことなら伝えられることがあるのかもって気持ちになりました。
田辺:誰かの「好き」を聞いてる時って一番楽しくないですか? 熱を持って喋ってる人って輝いてるなあって思う。
小原:確かに。わたし、今まで友達と喋っている時に、どちらかというと「こういうことがあって、最悪だった」みたいな不幸話をすることが多かったんですよね。でもある時、意外と「こういう嬉しいことがあって」とか「これがすごく良くて」って話をした方が、友達が嬉しそうだってことに気づいて。 なんか今までごめんねって思いました。
田辺:ごめんねとは思わなくていいですよ。ちょっとトホホな話も誰かの生きる希望にもなるから(笑)。
小原:ありがとうございます(笑)。でも今日、田辺さんとお話ししたことで、前よりは自信を持って「これが好きなんだ」って話ができそうな気がします。
田辺:リスペクトさえあれば、大丈夫。ただ、むやみやたらに「好き」とか、あと「可愛い」とかも似ているかもしれないけれど、巷に溢れた言葉で表現するのも違うと思ってよく悩みます。それこそ、小原さんの本ではありふれた言葉じゃなくて、今っぽいのに「本当の気持ち」が伝わる表現がたくさんあるように感じたのですが、文章表現はどうやって身につけたんですか?
小原:特に誰にも習ったりはしていないんですけど、独学だからよかったのかもしれません。大好きなピースの又吉さんのエッセイ『東京百景』を読んで、自分って言葉を面白いと思うのかもしれないと気付いて。そこから執筆活動を始めました。

田辺:じゃあ、まさに「好き」をきっかけに。そう思うと、又吉さんに帯書いてもらってるの、すごくないですか?! 宝だ!!!
小原:そう、宝なんです!(笑)
失敗も空回りも、笑ってくれる誰かがいたら消化できる
小原:さっき、トホホな話も誰かの生きる希望になるというお話があったのですが、田辺さんがサムギョプサル屋の店員さんを好きになって通い詰めた結果30kg太ったっていうエピソードが大好きで。人のこういう話に励まされることってありますよね。
田辺:わかります。わたし、人の失敗って大好きなんだよな(笑)。自分でも性格悪いなって思うんですけど。人が幸せなのももちろんいいことなんですけど、残念な話をしている人がいたら、その人のためにも笑ってあげた方がいいんだろうなって思います。
小原:本当にそうですよね。わたしも失敗をしたときは、笑ってもらえる方が嬉しい。芸人さんがするエピソードトークも、そういうところが大きい気がする。
田辺:そうですね。わたし、韓国の空港で「腕がこんなに不自然に太いわけがない」って止められてチェックされたことがあって。「肉だよ!」って言ったんですけど、ライト当てられたら光っちゃって。なんとか帰ってこられたんですけど……。当時はめっちゃ焦ったし嫌だったけど、今こうして話して笑ってくれる人がいるから、あの経験も良かったなって思います。
小原:一緒にするのは申し訳ないですが、わたしもエッセイに嫌だった体験のことを書いたとき、作品になった時点で満足感というか達成感があって。不思議だけど、そういうことってありますよね。
田辺:小原さんは最初、私家版で『唐揚げ』を出したことをきっかけにデビューされましたよね。わたし、そうやって自分で作品を作ったり、自分で動ける人を本当にリスペクトしていて。
小原:田辺さんだって、テレビなどで見ていていつもパッションを感じますよ。
田辺:いやいや、わたしはテーマパークでアルバイトしたり、ギャルになったりして、27歳から36歳まではほぼ無職だったので。36でようやく売れて今です。
小原:こうやって、芸人になった田辺さんと会えて嬉しいです。
田辺:本当によかったです。ちょうど昨日ぼる塾のメンバーに「もしわたしが芸人になってなかったら、才能がもったいなかった」とか言っていて(笑)。今もたまにこれでよかったんだろうかと思うこともありますが、結局今が最善だと思います。
小原:そういう自信は昔から持っていたんですか?
田辺:いや、30歳の時に酒寄さんに出会ってからですね。それまでは「わたしなんて……」な人生だったかもしれない。酒寄さんは出会って3か月ぐらいで、「田辺さんには才能がある!」「田辺さんにはお金がないっていう理由で芸人を辞めてほしくない。お金ならわたしがこれくらい持っているから。もし何かあったらわたしに言って」って通帳を見せてきて。それから13年、面白いって言い続けてくれたから、自信が出てきちゃったのかもしれない。
小原:わたしも結構、「わたしなんて」っていうタイプなんですけど、酒寄さんみたいに「好きだ」とか「面白い。あなたには才能があるんだ」みたいなことを言ってくれる人が近くにいてくれることで、初めて少しそういう気分になってくるの、わかります。
田辺:こんなに自分のこと好きだって言ってくれる人がいるのに、当の本人は「わたしなんて」って言ってたら、その人たちに失礼になってきますもんね。

小原:そうなんですよね。だから前は「いやいや〜」みたいな感じだったんですけど、最近少し「ふふ」って反応できるようになりました(笑)。
田辺:それは大きな変化だ。
一人で味わいたい「おいしい」もあれば、誰かと共有したい「おいしい」もある
小原:酒寄さんとのエピソードみたいに、人に救われることももちろんあると思うのですが、ご飯に救われることもあると思っていて。田辺さんは失敗や空回りをしたとき、心が救われたご飯、ありますか?
田辺:失敗とご飯というと酒寄さんと食べるご飯を思い浮かべることが多いですね。わたし、しょっちゅうネタを飛ばすので、酒寄さんからも「ネタだけは飛ばさないで」ってよく怒られてて。それでも飛ばす時があるんですけど、いつも酒寄さんとご飯を食べているから、ネタを飛ばしたとて、怒った酒寄さんとご飯を食べなきゃいけないんですね。
小原:食べなきゃいけない(笑)。
田辺:そう。嫌だなあと思いながら行くんですけど、酒寄さんって、「食べている時は楽しく」がモットーだから、食べ始めると怒らないんですよ。だからあのタイ料理屋のパッタイはネタ飛ばして怒られた後に食べたなあ、とかそういう思い出がたくさんあります。
小原:そのルールはありがたい! 怒られながら食べるご飯は味がしないですもんね。わたしは、何かやらかした時は、がっつり、それも一人で食べたくなっちゃうんですよね。
できるだけジャンクでカロリーの高そうなものを「うるせえ」みたいな気持ちで食べるとゼロに戻っていく気がして。一方で、人と食べるご飯の良さもあると思います。

田辺:人と共有する「おいしい」の良さ、ありますよね。最近は、食を通じて仲良くなる人ばかりかもしれない。好きな食べ物が一緒だったりすると、急に心の距離も近づく気がして。「この人、あれが好きなら絶対気が合うじゃん」と思っちゃうことあります。一人でご飯を食べている時も、「これ、〇〇さんに食べさせてあげたい」っていうのが思い浮かんで。
小原:すごくいい人生……。
田辺:確かにすごくいいかもしれない。 特にわたしは、「酒寄さんに食べさせたい」って思うことが一番多いです。ロケとかでおいしいものを食べさせてもらうたびに酒寄さんに教えなきゃと思います。
小原:食を通じて仲良くなった人に、「最初に会った時、あれ食べましたよね?」みたいなこともずっと言っちゃう。きっと今日のことも「あの時、わたしたちデザート絞りきれなくて二つずつ頼みましたね」って言っちゃうと思います。
田辺:今日も、食を通じた嬉しい出会いでしたね。こんなおいしいものを食べながら話す機会があったら、ぜひまたお願いします。 そうだ、『唐揚げ』に出てきたあのコーヒー屋さんも行ってみたいですね。 下北沢の……。
小原:トロワ・シャンブルですね! 一緒に行きたい。ぜひ行きましょう!

▼今回のゲスト

1983年、千葉県生まれ。お笑い芸人。きりやはるか、あんり、酒寄希望とともにお笑いカルテット「ぼる塾」を結成。“芸能界のスイーツ女王”とも呼ばれるスイーツ好き。
▼今回訪問した喫茶店

(東京都渋谷区渋谷1丁目15-19)
渋谷の喧騒から一歩離れた場所に佇む「茶亭 羽當」。木のぬくもり溢れる店内には季節の草花が飾られ、時間がゆっくりと流れる別世界のよう。香り高く、ふんわり軽やかな口当たりのシフォンケーキは長く愛される定番。しっとりとした食感のかぼちゃプリンは、素材の甘みとほろ苦いカラメル、きめ細やかなホイップクリームが絶妙で癖になる味わい。丁寧に淹れられた珈琲や紅茶とともに、心ほどける穏やかなひとときを楽しめます。
▼作家プロフィール
小原 晩(おばら・ばん)
1996年、東京都生まれ。2022年、自費出版(私家版)にて『ここで唐揚げ弁当を食べないでください』を刊行し、異例の1万部を突破する。2024年11月に17篇を加えた『ここで唐揚げ弁当を食べないでください(商業版)』を刊行。