MOROHA・アフロ × 詩人・黒川隆介、新刊イベントに又吉直樹と東出昌大が登場 “詩”と“言葉”を大いに語る

アフロ × 黒川隆介 豪華新刊イベントレポMOROHA・アフロ × 詩人・黒川隆介、新刊イベントに又吉直樹と東出昌大が登場 “詩”と“言葉”を大いに語る

レポート

2025.09.05

 音楽ユニット「MOROHA」のMC・アフロ氏と、詩人の黒川隆介氏。旧知の仲である2人が、同じ日に『東京失格』(アフロ/著、実業之日本社/刊)と、『生まれ変わるのが死んでからでは遅すぎる』(黒川隆介/著、実業之日本社/刊)の新刊を刊行した。
そして新刊発売を記念し、2人は「自らの言葉を自ら届ける」ためにトークツアーへと出発、全国各地を巡って思い思いの言葉をファンに届けてきた。

 そして、2025年7月4日、旅の最終地点として選ばれたのが、歴史と静謐さを感じさせる「自由学園明日館」である。
今回のツアーファイナルの豪華ゲストとして、俳優の東出昌大氏、お笑い芸人で作家の又吉直樹氏が登壇したスペシャルセッションは、約2時間に及ぶ濃密な内容に。
作品に込めた想いをはじめ、アフロ氏のラップに黒川隆介氏のポエトリーディングという表現を通して見えてきた世界について、存分に語りつくすイベントとなった。
文=山内貴範、写真=林直幸

■全国を回って絆が深まった

 東京都豊島区西池袋にある重要文化財「自由学園明日館」の一角にあり、1927年に完成した講堂には、開場前から多数のファンが列を作っていた。
「よろしくお願いします!」と一礼をして登場したアフロ氏。
ポップで哀愁あるシンプルなピアノの旋律に合わせて、まずはラップを披露。
「面白ければ売れる…面白ければ売れる…面白ければ売れるんだ…」と魂込めたラップが講堂内に響き渡り、アフロ氏のパフォーマンスと世界観にいきなり引き摺り込まれる。

冒頭から魂を込めたラップで会場の空気を一気に変えたアフロ氏

 その後静寂に戻った講堂内に黒川隆介氏が登壇。
今回の『生まれ変わるのが死んでからでは遅すぎる』に掲載された詩「ショートカット」「コイントス」などを朗読。
また、アフロ氏が黒川氏の「コイントス」から着想を得た詩「反論」、「父」から着想を得た詩「乾杯」を披露するなど、黒川氏の朗読とアフロ氏のラップという掛け合いとトークセッションという構成が続く。

アフロ氏の後に黒川隆介氏が登場。アフロ氏とは真逆とも言えるような自作の詩を、一つひとつの言葉を紡ぎながら朗読する

自由学園明日館は、国の重要文化財に指定されている。フランク・ロイド・ライトが設計をし、遠藤新が手がけた歴史的建築物だ

 2人にとって今回がツアーの最後であることを感慨深げに話し、重要文化財である会場の感想を「東京で一番静かな会場」「静けさがいとおしくなるほど」と静謐な舞台がとても気に入ったようで、これまでのツアーを振り返る。
黒川氏は詩を何を読むかはその場で決めているそうで、本は持ってはいるが朗読する際には見ていないという独特のスタイルを語る場面も。
ツアーの最中には、黒川氏が沈黙のまま詩を長く選んでいたことがあったそうで、本を捲る紙の音だけがずっと響いていたという。
そのイベントの後にアフロ氏から「あの度胸はすごい」と褒められたことがあったことも良い思い出だと語っていたことも印象に残る場面であった。

 そして、2人のプライベートにまつわるトークを展開。
黒川氏の飲みの席にまつわるエピソードや、アフロ氏がそれに付き合っているうちにお酒が飲めるようになり、気づいたらゴールデン街のバーで常連になっていた話など、会場も笑いが起こる和やかなムードになる。
2人のプライベートにまつわるトークでは、ラップと詩を朗読する姿とは一変。笑顔溢れる姿が多く見られた

■豪華なスペシャルゲストが登場

ラフなスタイルで登場した東出昌大氏

全国で10回行われたこのトークイベントに又吉直樹氏は4回も足を運んだと話し会場を沸かせた

 そしてスペシャルゲストとして、又吉直樹氏と東出昌大氏が登場。
会場から大きな拍手が送られた。
ツアーでは全国10カ所を巡ったが、又吉氏はなんとそのうち4カ所を訪問しているという。
お酒好きの黒川氏とは気の置けない仲で、2人のゲストのお酒にまつわる話が語られる。
又吉氏は日頃からお酒を飲みながらネタを考えるという、創作の裏話も語っていた。
 東出氏は元々アフロ氏のファンだったそうで今ではプライベートでも仲が良い友人だという。
又吉氏と東出氏は今回が初対面だというレアな共演となった。
アフロ氏は、東出氏とのさまざまなエピソードを披露。
新宿のゴールデン街を歩いていたところ缶チューハイを持っている若者に「お前松潤に似てるな」と言われ「ありがとう!」と応えて相手の缶チューハイを一気飲みしたことや、ワイドショーで時の人となっている時には大衆居酒屋で「領収書、東出で!」とお店の中に響き渡る大声で店員さんに声をかけるなど、豪快伝説を語り、会場は爆笑の渦となる。

4人のトークでは、普段では聞けないようなプライベートの話が満載で会場は大いに盛り上がる

 黒川氏は、アフロ氏とのツアー中の思い出を語る。
各地を回っている間に陰と陽の2人が、いいコントラストになったと振り返った。
アフロ氏は、ツアーのなかで即興で生まれた詩がたくさんあったと語り、函館のツアーではその場で創作した「ナビゲーション」「笑う」などの詩を朗読する。
アフロ氏は黒川氏が「目の前で詩を書くところは一回も見られなかった」と話し、まるで『鶴の恩返し』のようだったと話し会場の笑いを誘った。

 また、又吉氏と東出氏も「溝の口からはじまった今回のツアーを経て、どんどん2人の関係がコンビのようになって行った」と指摘。
実際、お互いの作品から着想を得て詩を読むこともあるそうで、二人はラップと詩というジャムセッションを繰り広げるうちに創作家としても特別な関係になったといえるかもしれない。

■詩はもっとも自由度が高い

 東出氏と又吉氏の詩に対する考え方も語られた。
又吉氏曰く、詩はもっとも自由度が高い創作物なのだという。
それを受けて黒川氏は、詩はときに無形であり、表すのに適切な言葉が世になかったときには“造語”も入れていると述べた。

 また、東出氏は萩原朔太郎を読んでいると話し、読者家としての一面も垣間見えた。
いつもはリラックスしながら読書をしているというが、今回のイベント前に黒川氏の『生まれ変わるのが死んでからでは遅すぎる』を読み、「みっちゃん」という詩に思わず涙が出そうになったと話す。
感慨深い気持ちになり、「言葉っていいな」と感じたと言う。

 黒川氏は、アフロ氏のサービス精神の旺盛さに感銘を受けたと話し、自身の「人に届けることへのサービス精神のなさ」を痛感したと告白。
それを受け、アフロ氏が「真摯に詩と向き合う黒川氏の横顔を見て、力を貸してくれた人がいたから本を出せたのでは」と語ると、黒川氏は「詩に向き合い続けた姿勢が伝わったのかな」とコメントするなど、長年に渡り全国津々浦々旅をしながら詩を書いた日々を振り返りつつ、これまでの感謝の気持ちを口にすることも多かった。

東出昌大氏が「最も感動した」と話す黒川隆介氏の最新詩集『生まれ変わるのが死んでからでは遅すぎる』に掲載の「みっちゃん」を朗読する。会場も登壇者も圧倒的表現に思わず息を飲む
     
 終盤には東出氏と又吉氏が詩の朗読をする貴重な機会も。
東出氏は感動したという「みっちゃん」を朗読。
「ちょっと準備していい?」としっかりと詩を吟味するかのように自分の中に取り込む時間を要求する。
そして自分の体から紡ぎ出されるように詩を読む表現力に、会場は思わず息をのむ。
さすが俳優という表現に登壇者は全員感嘆。
ただ詩を読むだけの行為ではなく、読み方に性格が出るし、間のとり方も違う、それによって聞き手が受ける印象はこんなに変わるものなのか……と、ポエトリーディングの奥深さを実感できたファンは多かったのではないだろうか。

 また又吉氏は自作の詩「あれ、俺やで」「うるせえ」を披露する。
これがまた又吉ワールド全開、というような内容で、いかがわしいテレビプロデューサーのサングラスや容姿から始まりさまざまに「うるせえ」という言葉を交えてシニカルに徐々にユーモアに寄せながら、最後は自分自身に向かっていく詩を披露。
こちらにも多くの拍手が送られていて、小説だけではなく詩の表現者としても又吉氏のセンスを存分に発揮していた。

又吉氏も自作の詩を披露する。詩の表現者としてもユーモアを交えた高いセンスを発揮していて、会場からは大きな笑いと拍手が送られた

■対照的な2人の共通点とは

ファッションもスタイルも異なるふたりだが、黒川氏とアフロ氏には表現者として根底につながるものがあると話す

 ツアーを通じて、2人はお互いの強固な関係性を再認識。
黒川氏は、「対照的な2人だと言われるけれど、根底にある表現に対して歯を食いしばるところは共通している」と話し、「表現者同士通じ合える部分が多かった。贅沢な時間だった」と振り返った。

 ゲストが退席した後、アフロ氏は2人に宛てた詩を読んだ。
又吉氏には「百目鬼」、東出氏には「あいつが山から降りてくる」。
そして、黒川氏は「自分」「祖母」を朗読、アフロ氏が言葉を待ってくれている“沈黙の時間”をつくってくれたことに感謝を述べた後、再度黒川氏が10代の時に初めて賞をとったという「あしたの横顔」、最新の詩集から「思惟」で締めくくった。
付箋が多数つけられた自身の詩集を手に、今回のツアーの総括と感謝のコメントをする黒川氏

 ツアーの中で生まれた詩や様々なエピソードも披露され、ツアーの締めくくりにふさわしい総決算的な一日となった。
このイベントを2人はとても気に入ったようで、続編が行われるとの発表も。
来て欲しい場所があったらリクエストをとの要望に、ファンを沸かせる場面もあった。
イベントの中で何度も語られていたように、まるでコンビのように関係が深まった2人がどんな化学反応を起こし、どんな創作活動を行っていくのか楽しみである。