『弊社は買収されました! 総務部・真柴さん最後のお仕事』文庫化記念「会社が買収された朝、私は原稿を送っていた」——額賀澪と原田ひ香が語るお仕事小説のリアル&『弊社は買収されました!』誕生秘話
インタビュー・対談
2026.01.08
「起きたら、自分の原稿を送った先の出版社が買収されていた」——。あまりに強烈な実体験から生まれた、額賀澪さんの痛快お仕事小説『弊社は買収されました!』が文庫化、重版も決まり注目を集めています。本作の刊行を記念して2022年に行われた作家・原田ひ香さんとのスペシャルトークを、文庫版刊行にあわせWebで初公開します。
「企業買収」という大きな転機を作家はどう物語に落とし込んだのか。そして、原田さんが「思わずドラマ化の企画書を書きたいと思った」と絶賛する本作のキャッチーな魅力とは? 作家同士だからこそ語り合える創作の舞台裏と、「働くこと」の本質に迫ります。
(文/青木千恵 写真/編集部)
――まずは額賀さん、企業買収を小説の題材にしたきっかけを教えてください。
額賀 「お仕事ものを書きませんか?」という依頼がきっかけでした。実は以前、とある本の刊行直前に、当の出版社が買収されるという騒動がありました。『弊社は買収されました!』は、主人公が朝、出勤前にテレビで自分の会社が買収されたことを知る場面で始まるんですけど、私も担当の編集者に原稿を送って、寝て起きたらその会社が買収されたのを知って……。その後の経過にも、強烈な印象を抱いていました。
――原田さん、お読みになっていかがでしたか?
原田 タイトルをSNSで見かけて、即、面白そう! と思いました。私は20代の頃に国鉄清算事業団に勤めていて(編集部注・1987年の国鉄の分割・民営化にあたり、旧国鉄の債務を処理し人員の再就職等を進めるために設立された特殊法人)。仕事をすればするほど、ひとつの会社が終わっていく感じが、どこか通じるものがあるんじゃないかなと。その実、終わることから始まる出発の物語なんですよね。
額賀 はい。企業買収を一から調べる中で、買収っていろんなキャラクターが集まるカードバトルの一面があるなと。見知らぬ人が突然オフィスにやって来て、「今日から同僚です」とバトルが始まる。そんな中で、「つなぎ」の役割を果たす総務部の主人公が生まれました。
原田 両社の部署もひとつになるわけで、リストラを予感しながら仕事をする感じがよくわかりました。総務部って、細かい「名もなき仕事」がたくさんあるのに仕事をしていないと思われているのでは? という額賀さんの視点も感じられました。
額賀 売ってます、作ってますの部署でなく、同僚たちがしっかり働けるように働いている人を描くのは、とても楽しかったです。
原田 あと、人物が見事に描き分けられていましたね。私は常々、会社員って描き分けるのがすごく難しいと思っているので。
原田 私は国鉄清算事業団を退職してシナリオライターの卵だった頃、ドラマ化の企画書を毎日書いてテレビ局のプロデューサーに送っていました。もしこの作品を書店で見たら、絶対に企画書にしていますね。まず題名がキャッチーだし、すぐドラマにできそうな雰囲気があって。タイトルはいつ決まったんですか?
額賀 題名は書く前から決まっていました。総務部員を主人公にするという案も出ていない段階で、「とりあえず『弊社は買収されました!』にしておきましょう」と話して、それからずっと変わりませんでした。題名がバチッと決まっているときは、コンセプトがはっきりしているので執筆も割とスムーズにいきますね。
原田 執筆の舞台裏というお話でいうと、額賀さんが出版業界をルポした『拝啓、本が売れません』(文春文庫)は、小説家を目指す人には必読の作家作法の本ですね。作家になって2、3年目でお書きになっていてすごくリアルで。私は読者を想定して書いてこなかったので、拝読して「やっぱり考えた方がいいのかな」と反省したんです。
額賀 ええっ!? それは意外です。
原田 『三千円の使いかた』(中公文庫)の読者は、40、50代の女性が圧倒的に多いらしいです。私は担当の編集者さんに楽しんでもらえるもの、つまりひとりの読者しか意識していなかったので、勉強になりました。
額賀 私は原田さんの小説はF2層(編集部注・マーケティング用語で35~49歳の女性のこと)どんぴしゃで、読者層を意識して書かれていると思っていました。40代前後の女性って、本を読むし、買うし、狙えるものなら狙いたい層ですよね。実は私、原田さんの作品って「企画書が見える」といつも思っていたので、ドラマ化の企画書を書かれていたと伺って納得しました。『古本食堂』『三千円の使いかた』『母親からの小包はなぜこんなにダサいのか』。どの題名もすごく魅力的ですよね! 読みたくなる。
原田 実を言うと、『三千円の使いかた』は紆余曲折あったんです。初めは私が『節約小説』『節約家族』『節約物語』など10個くらいの題名を出して、連載時は『節約メリーゴーランド』でした。単行本になる時も二転三転したので、「じゃあ営業の方たちで決めてください」って言ったんです。それで提案いただいたのがこのタイトルでした。
額賀 ベストセラーになって、営業は「俺たちの力だ」ってますます張り切りますね(笑)。仮に『節約メリーゴーランド』や『節約家族』だったとしても、まず一瞬で説明できます。原田さんの新刊の『古本食堂』(角川春樹事務所)も、古本と食堂の組み合わせで、あらすじを言わなくても魅力的な小説だろうなと伝わってきます。一言で伝わるものが強いと、私は広告の仕事をしていたときに学びました。
原田 キャッチーなものをつけないと、忙しいプロデューサーに読んでもらえないんですよね。
額賀 そうなんですよね。実際の小説の中では、紙幅を尽くして表現したいことが確かにあるんですけれど。
原田 特にエンターテインメントだったら、スパッと伝わる方がいいと思いますね。私はそのあたりを『ランチ酒』くらいから意識しました。食べものの小説を書くときは、表紙を食べものにして題名もはっきりわかる方がいいような気がします。
原田 そういえば、額賀さんとご一緒したアンソロジー『ほろよい読書』(双葉文庫)もビールの表紙で、題名もお酒の話だとすぐにわかる(笑)。
額賀 『ほろよい読書』の依頼が来たとき、執筆者にお名前のあった織守きょうやさんと対策会議をしたんです。
原田 知らなかった(笑)。
額賀 織守さんはあんまり飲まない方で、私も語れるほどお酒に詳しくなくて、私たち以外の三人はとても飲む人たちだなと思って(笑)。あの作家さんはこういう小説を書くだろうと予想を立てて、織守さんはお酒を使ったお菓子、未成年の話はどなたもないだろうと、私は農大の醸造学科、という布陣で臨みました。
原田 あの小説集は皆さんの作品が本当に素晴らしくて、打ちのめされました。私は連作短編の第一話のつもりで書いたので、短編としての切れ味が鈍ってしまった気がして落ち込んじゃったんです。「定食屋『雑』」の題名で、続きを秋からウェブ連載する予定なんですけれどね。何もかも雑な居酒屋の話です。
額賀 じゃあたぶん表紙は雑な料理の絵で(笑)。まとまるとすごく切れ味のいい本になるんじゃないですか? どの料理もすき焼きのたれで味をつけている(笑)。
原田 すき焼きのたれで、大体の日本料理は作れるんですよね。お酢を入れたら酢のものが作れるし。まあ、なんでも作れる、雑な居酒屋の感じを出したいんです。
――会場からおふたりに質問なんですが、登場人物の名前はどんな感じで決まるものなんですか?
額賀 『古本食堂』は、美希喜ちゃんの名前がいいですよね。
原田 いろんなものを見て、人の話を聞きなさいという意味でつけたんですけど、数年前から機会があればつけようと思ってメモしていた名前なんです。でもストックするのは珍しくて、私はいつもその場その場で考えます。私の年代で「ひか」という名前は珍しくて、逆に人物に「~子」をつけちゃうんですよね。「ほとんどの人物に『子』がついているのはおかしい」とデビュー間もない頃に言われたことがあって(笑)、ちょっと意識するようになりました。
額賀 私は「子」が絶滅した世代と言われていて、逆に、「子」がつく名前っていいなと思います。それで人物に「子」を使ったり、いつか使いたくてストックしている名前もあります。あとはキャラクターの性格ですね。名前って、現実では性格がわかる前につけられるものだけれど、小説の場合はそのキャラクターを表す感じでつけたりします。
原田 『弊社は買収されました!』の主人公、真柴忠臣さんって、ただの人という意味を含んでますか?
額賀 平凡なただの人だし、忠誠を誓う意味の漢字なので、会社に対する忠義みたいなものを込めたいなと思って。ニュアンスとか、そういう感じでつけることが多いかなあ。題名と同様に、今回は最初から忠臣でした。
――さらに質問です。作家はひとりで仕事をする職業ですが、気分転換の方法は?
額賀 私は煮詰まると、いったんやめてみる、食べてみる、飲んでみる、寝てみる、お散歩してみるくらいです。大学に、創作の授業をしに週2回通っていて、それが切り替えになってもいますね。家で煮詰まっていても、学校ではキリッと先生モードになって、帰ってくると、「もうダメだ」と思っていた自分がいなくなっているというのはあります。
原田 私は喫茶店やカフェで仕事をして、一日6枚書いているんです。月に20日間書くと120枚くらいになるペースで、午前中の2、3時間に6枚、気分をはっきり変えて。その時以外は普通の人というか(笑)。ただコロナ禍で喫茶店も閉まっていたときは、自宅で書くことになってすごく辛くて、自分はこう書くと決めてしまうのはよくないな、どこでも書けるようにしようと反省しました。
額賀 外で書くのが習慣の方は、あの時期大変そうでした。公園のベンチしか行くところがないとか。私は逆に、家じゃないと書けないんですよね。
――買収は、時間が経つ中で「いい買収」「悪い買収」かがわかってくるものだと思います。続編の予定はありますか?
額賀 今回の小説は、3月に買収が発表されてからおよそ一年間の物語ですが、そのあとも会社は続いていきますし、役員や社員が出入りして変わっていくのが会社というものなんですよね。この一冊の中ではうまくいっているかもしれないけれど、2年、3年経つと、彼らのしたことが悪い方向に出る可能性も大いにあるなと思っています。続きを書くかどうかはともかく、まだまだ続いていく話なんだろうなあと思っています。
*この記事は2022年4月16日に東京・八重洲ブックセンター本店で開催されたトークイベントの採録です。
「企業買収」という大きな転機を作家はどう物語に落とし込んだのか。そして、原田さんが「思わずドラマ化の企画書を書きたいと思った」と絶賛する本作のキャッチーな魅力とは? 作家同士だからこそ語り合える創作の舞台裏と、「働くこと」の本質に迫ります。
(文/青木千恵 写真/編集部)
買収は、終わることから始まる出発の物語
――まずは額賀さん、企業買収を小説の題材にしたきっかけを教えてください。
額賀 「お仕事ものを書きませんか?」という依頼がきっかけでした。実は以前、とある本の刊行直前に、当の出版社が買収されるという騒動がありました。『弊社は買収されました!』は、主人公が朝、出勤前にテレビで自分の会社が買収されたことを知る場面で始まるんですけど、私も担当の編集者に原稿を送って、寝て起きたらその会社が買収されたのを知って……。その後の経過にも、強烈な印象を抱いていました。
――原田さん、お読みになっていかがでしたか?
原田 タイトルをSNSで見かけて、即、面白そう! と思いました。私は20代の頃に国鉄清算事業団に勤めていて(編集部注・1987年の国鉄の分割・民営化にあたり、旧国鉄の債務を処理し人員の再就職等を進めるために設立された特殊法人)。仕事をすればするほど、ひとつの会社が終わっていく感じが、どこか通じるものがあるんじゃないかなと。その実、終わることから始まる出発の物語なんですよね。
額賀 はい。企業買収を一から調べる中で、買収っていろんなキャラクターが集まるカードバトルの一面があるなと。見知らぬ人が突然オフィスにやって来て、「今日から同僚です」とバトルが始まる。そんな中で、「つなぎ」の役割を果たす総務部の主人公が生まれました。
原田 両社の部署もひとつになるわけで、リストラを予感しながら仕事をする感じがよくわかりました。総務部って、細かい「名もなき仕事」がたくさんあるのに仕事をしていないと思われているのでは? という額賀さんの視点も感じられました。
額賀 売ってます、作ってますの部署でなく、同僚たちがしっかり働けるように働いている人を描くのは、とても楽しかったです。
原田 あと、人物が見事に描き分けられていましたね。私は常々、会社員って描き分けるのがすごく難しいと思っているので。
小説の題名を決めるタイミング
原田 私は国鉄清算事業団を退職してシナリオライターの卵だった頃、ドラマ化の企画書を毎日書いてテレビ局のプロデューサーに送っていました。もしこの作品を書店で見たら、絶対に企画書にしていますね。まず題名がキャッチーだし、すぐドラマにできそうな雰囲気があって。タイトルはいつ決まったんですか?
額賀 題名は書く前から決まっていました。総務部員を主人公にするという案も出ていない段階で、「とりあえず『弊社は買収されました!』にしておきましょう」と話して、それからずっと変わりませんでした。題名がバチッと決まっているときは、コンセプトがはっきりしているので執筆も割とスムーズにいきますね。
原田 執筆の舞台裏というお話でいうと、額賀さんが出版業界をルポした『拝啓、本が売れません』(文春文庫)は、小説家を目指す人には必読の作家作法の本ですね。作家になって2、3年目でお書きになっていてすごくリアルで。私は読者を想定して書いてこなかったので、拝読して「やっぱり考えた方がいいのかな」と反省したんです。
額賀 ええっ!? それは意外です。
原田 『三千円の使いかた』(中公文庫)の読者は、40、50代の女性が圧倒的に多いらしいです。私は担当の編集者さんに楽しんでもらえるもの、つまりひとりの読者しか意識していなかったので、勉強になりました。
小説も、題名と一行で説明できるかが勝負
額賀 私は原田さんの小説はF2層(編集部注・マーケティング用語で35~49歳の女性のこと)どんぴしゃで、読者層を意識して書かれていると思っていました。40代前後の女性って、本を読むし、買うし、狙えるものなら狙いたい層ですよね。実は私、原田さんの作品って「企画書が見える」といつも思っていたので、ドラマ化の企画書を書かれていたと伺って納得しました。『古本食堂』『三千円の使いかた』『母親からの小包はなぜこんなにダサいのか』。どの題名もすごく魅力的ですよね! 読みたくなる。
原田 実を言うと、『三千円の使いかた』は紆余曲折あったんです。初めは私が『節約小説』『節約家族』『節約物語』など10個くらいの題名を出して、連載時は『節約メリーゴーランド』でした。単行本になる時も二転三転したので、「じゃあ営業の方たちで決めてください」って言ったんです。それで提案いただいたのがこのタイトルでした。
額賀 ベストセラーになって、営業は「俺たちの力だ」ってますます張り切りますね(笑)。仮に『節約メリーゴーランド』や『節約家族』だったとしても、まず一瞬で説明できます。原田さんの新刊の『古本食堂』(角川春樹事務所)も、古本と食堂の組み合わせで、あらすじを言わなくても魅力的な小説だろうなと伝わってきます。一言で伝わるものが強いと、私は広告の仕事をしていたときに学びました。
原田 キャッチーなものをつけないと、忙しいプロデューサーに読んでもらえないんですよね。
額賀 そうなんですよね。実際の小説の中では、紙幅を尽くして表現したいことが確かにあるんですけれど。
原田 特にエンターテインメントだったら、スパッと伝わる方がいいと思いますね。私はそのあたりを『ランチ酒』くらいから意識しました。食べものの小説を書くときは、表紙を食べものにして題名もはっきりわかる方がいいような気がします。
アンソロジーでは作家同士で対策会議!?
原田 そういえば、額賀さんとご一緒したアンソロジー『ほろよい読書』(双葉文庫)もビールの表紙で、題名もお酒の話だとすぐにわかる(笑)。
額賀 『ほろよい読書』の依頼が来たとき、執筆者にお名前のあった織守きょうやさんと対策会議をしたんです。
原田 知らなかった(笑)。
額賀 織守さんはあんまり飲まない方で、私も語れるほどお酒に詳しくなくて、私たち以外の三人はとても飲む人たちだなと思って(笑)。あの作家さんはこういう小説を書くだろうと予想を立てて、織守さんはお酒を使ったお菓子、未成年の話はどなたもないだろうと、私は農大の醸造学科、という布陣で臨みました。
原田 あの小説集は皆さんの作品が本当に素晴らしくて、打ちのめされました。私は連作短編の第一話のつもりで書いたので、短編としての切れ味が鈍ってしまった気がして落ち込んじゃったんです。「定食屋『雑』」の題名で、続きを秋からウェブ連載する予定なんですけれどね。何もかも雑な居酒屋の話です。
額賀 じゃあたぶん表紙は雑な料理の絵で(笑)。まとまるとすごく切れ味のいい本になるんじゃないですか? どの料理もすき焼きのたれで味をつけている(笑)。
原田 すき焼きのたれで、大体の日本料理は作れるんですよね。お酢を入れたら酢のものが作れるし。まあ、なんでも作れる、雑な居酒屋の感じを出したいんです。
登場人物の名前とキャラクターの関係
――会場からおふたりに質問なんですが、登場人物の名前はどんな感じで決まるものなんですか?
額賀 『古本食堂』は、美希喜ちゃんの名前がいいですよね。原田 いろんなものを見て、人の話を聞きなさいという意味でつけたんですけど、数年前から機会があればつけようと思ってメモしていた名前なんです。でもストックするのは珍しくて、私はいつもその場その場で考えます。私の年代で「ひか」という名前は珍しくて、逆に人物に「~子」をつけちゃうんですよね。「ほとんどの人物に『子』がついているのはおかしい」とデビュー間もない頃に言われたことがあって(笑)、ちょっと意識するようになりました。
額賀 私は「子」が絶滅した世代と言われていて、逆に、「子」がつく名前っていいなと思います。それで人物に「子」を使ったり、いつか使いたくてストックしている名前もあります。あとはキャラクターの性格ですね。名前って、現実では性格がわかる前につけられるものだけれど、小説の場合はそのキャラクターを表す感じでつけたりします。
原田 『弊社は買収されました!』の主人公、真柴忠臣さんって、ただの人という意味を含んでますか?
額賀 平凡なただの人だし、忠誠を誓う意味の漢字なので、会社に対する忠義みたいなものを込めたいなと思って。ニュアンスとか、そういう感じでつけることが多いかなあ。題名と同様に、今回は最初から忠臣でした。
創作に煮詰まったとき切り替えるコツ
――さらに質問です。作家はひとりで仕事をする職業ですが、気分転換の方法は?
額賀 私は煮詰まると、いったんやめてみる、食べてみる、飲んでみる、寝てみる、お散歩してみるくらいです。大学に、創作の授業をしに週2回通っていて、それが切り替えになってもいますね。家で煮詰まっていても、学校ではキリッと先生モードになって、帰ってくると、「もうダメだ」と思っていた自分がいなくなっているというのはあります。
原田 私は喫茶店やカフェで仕事をして、一日6枚書いているんです。月に20日間書くと120枚くらいになるペースで、午前中の2、3時間に6枚、気分をはっきり変えて。その時以外は普通の人というか(笑)。ただコロナ禍で喫茶店も閉まっていたときは、自宅で書くことになってすごく辛くて、自分はこう書くと決めてしまうのはよくないな、どこでも書けるようにしようと反省しました。
額賀 外で書くのが習慣の方は、あの時期大変そうでした。公園のベンチしか行くところがないとか。私は逆に、家じゃないと書けないんですよね。
――買収は、時間が経つ中で「いい買収」「悪い買収」かがわかってくるものだと思います。続編の予定はありますか?
額賀 今回の小説は、3月に買収が発表されてからおよそ一年間の物語ですが、そのあとも会社は続いていきますし、役員や社員が出入りして変わっていくのが会社というものなんですよね。この一冊の中ではうまくいっているかもしれないけれど、2年、3年経つと、彼らのしたことが悪い方向に出る可能性も大いにあるなと思っています。続きを書くかどうかはともかく、まだまだ続いていく話なんだろうなあと思っています。
*この記事は2022年4月16日に東京・八重洲ブックセンター本店で開催されたトークイベントの採録です。

