心に光を灯す絵本『あしたは生きたい』制作秘話

Radio Archive | 制作陣が語る「あした」への軌跡心に光を灯す絵本『あしたは生きたい』制作秘話

インタビュー・対談

2026.01.28

実業之日本社が創業130周年記念プロジェクトとして送り出した絵本『あしたは生きたい いのちをすくういぬ』。殺処分寸前の犬が災害救助犬としての「役割」を見つけ、命を輝かせるこの物語は、どのようにして生まれたのでしょうか。
今回は、絵を担当したはせがわゆうじさん、文章を担当したもりのきつねさん、担当編集者の村嶋、そして進行役の国見による座談会の模様をお届けします。

「ナマケモノ」が引き合わせた奇跡


村嶋(編集) この企画の始まりは、僕がはせがわさんに「絵本を作りませんか」とメールを送ったことでした。最初にお会いした新宿の喫茶店で、雑談の中で「ナマケモノ」の話で意気投合したんですよね。

はせがわ そうそう。僕もナマケモノにはずっと興味があって。彼らは木に登って、食われる瞬間まで動かないんですよ。コアラでもカピバラでも、普段じっとしていても逃げる時はピュッと動くんですけど、ナマケモノは最後までやっぱりゆっくりしか動けない。その生態がすごいなと思って、いつか形にしたいと温めていたテーマだったんです。だから村嶋さんにそこを突かれた時、「おっ」と思った反面、初対面だし若いしで、最初はかなり警戒していました(笑)。

村嶋 僕自身も不器用にしか生きられない部分があって、ナマケモノに共鳴していたんです。その打ち合わせの終盤、はせがわさんが「実はこういう作品があって」と見せてくれたのが、すでに動画形式になっていた『あしたは生きたい』の原型でした。見た瞬間、「これは自分の物語だ」と直感して、「これを出しましょう」とその場で即決しました。

はせがわ あまりにトントン拍子だったので、実際に動き出すまでは「あとで落とし穴があるんじゃないか」と半信半疑でしたよ。編集の方って普通はもっと色々いじって直して……という工程があると思うんですけど、丸ごと受け入れられたので。

TikTokから「紙の絵本」へ


国見(進行) もともと、はせがわさんともりのさんのタッグはどうやって生まれたんですか?

はせがわ キーパーソンがいまして。TikTokで活動している関谷さんという方です。彼が僕の前作『もうじきたべられるぼく』をTikTokで朗読して広めてくれたことがきっかけで、「次はTikTokで朗読できるコンテンツを作ろう」という話になり、文章担当として紹介されたのがもりのきつねさんでした。

もりの 私は保護犬を災害救助犬に育成する団体へ取材を行い、執筆しました。でも実は、最初にはせがわさんにお見せした原稿(仮題『ここにいるよ』)は、今とは少し違っていて……。「殺処分」という重い現実を描くことに引け目があり、死のリアリティをあえて避けたマイルドな内容だったんです。

はせがわ その時、僕が「他の人には真似できない作品にしたい」と言ったんですよね。

もりの そうなんです。その言葉に見透かされた気がして、「自分たちだからこそ作れるものを作ろう」と決意しました。そこから殺処分されてしまうかもしれない恐怖や現実から逃げずに書き直し、現在の物語が完成しました。あの一言はダメ出しではなく、「私たちならもっとできる」という信頼の証だったんだなと思います。

言葉を超えた「瞳」と、塗りつぶされたページ


国見 絵についてはどうやって進められたんですか?

もりの 私はラフ画をお渡ししたものの、基本的にはせがわさんを信頼してお任せしました。完成した絵を見た時、言葉にならないほど感動しました。想像していた犬の瞳と、はせがわさんが描いた瞳が完全に一致していて……「頭の中を共有したわけじゃないのに、同じものを見ている人がいるんだ」と嬉しかったです。

はせがわ 特にもりのさんのラフにあった「地面にヒビが入る暗いページ」にはこだわりました。他のページはシンプルに仕上げていますが、あそこだけはとことん重く、印象的にしようと思って。実はペンで真っ黒に塗りつぶした後に、デジタル処理を加えているんです。

国見 あのページの迫力はすごいですよね。

はせがわ 実はあそこ、読者の方への「隠し文字」を入れているんです。お話し会などでネタばらしをすると盛り上がるんですが、ネット上でのネタバレは禁止にしています(笑)。ぜひ絵本を手に取って、目を凝らして探してみてほしいですね。

「青い肌」を隠す人たちへ


村嶋 この絵本は、どういう人に読んでほしいですか? 僕は個人的に、自分に自信がない人に読んでほしいと思って作っていました。

はせがわ そうですね。どこにも行き場がなくて、自分はもうダメだと思っている人に光を当てている本です。「どんな人にも絶対に何か役割がある」ということを掬い上げるような作品になっています。

もりの 私には好きな詩(シェル・シルヴァスタイン『The Blue Mask』)があって。肌が青いことを隠して生きている男女が、お互いに隠しているせいで、同じ悩みを持つ同士だと気づかずにすれ違ってしまうという話なんです。 この絵本も同じで、自分に自信がなくて辛い思いをしている人たちが、この作品を通じて「自分もそうだった」「一人じゃないんだ」とお互いを見つけ合えるような、そんなきっかけになれば嬉しいです。

役割を見つけるということ


国見 最後に、改めてこの絵本を朗読で聞いてみて、僕は「役割を持つことで、誰かを照らす光になれる」というテーマに深く共感しました。 出版社での仕事も、全部が全部好きなことではないけれど、役割を与えられることで自分が輝ける瞬間がある。この絵本は、大人になって忘れかけていた大切なことを思い出させてくれました。

はせがわ 以前、サイン会で、ある絵本専門家の方が「これは人間に置き換えると、社会に行き場がないと思っている人に光を当てている本だ」と解説してくださって。それがすごく腑に落ちたんです。 子どもだけでなく、大人の方にも、何かに迷っている人にも、ぜひ届いてほしいですね。

村嶋 絵本という媒体には、短いながらも膨大な解釈の余地があります。大人になっても、絵本に救われる可能性がある。この本が長く愛されるロングセラーになればと願っています。