選⼿を守り、思いを伝える――プロ野球広報と いう使命 堂場瞬⼀×⼩泉 匡(横浜DeNA ベイスターズ広報部)

『ザ・ミッション』⽂庫化記念対談選⼿を守り、思いを伝える――プロ野球広報と いう使命 堂場瞬⼀×⼩泉 匡(横浜DeNA ベイスターズ広報部)

インタビュー・対談

2026.04.06

「選手の本業は野球」という信念のもと、グラウンド外の「雑音」を遮断し、選手の思いを世の中に届けるーー華やかなプロ野球界を陰で支える広報業務のリアルとは? 『ザ・ミッション』著者・堂場瞬一が、現役広報・小泉匡氏との対話を通じ、プロフェッショナルとしての矜持と、知られざる舞台裏の物語に迫ります。
(構成・写真/編集部)


◎「選手の本業は野球」が前提

堂場:プロ野球チームにとって、一番大事な商品は「選手」だと思います。娯楽が多様化した現代では、ファンを獲得すべく、様々な施策に取り組んでおられると思います。選手の売り出しのため、今、一番力を入れているのはどんなことですか。

小泉:今も昔も変わらない点で、我々が一番の前提と考えているのは、選手たちは「野球が本業」ということです。広報の仕事は多岐にわたりますが、最大のミッションは、選手たちのパフォーマンスに影響を及ぼさず、最大限に力を発揮できるようサポートする。これに尽きますね。

堂場:いかに「雑音」を入れない環境を作るか、ですね。

小泉:はい。今はSNSでファンの皆さまと選手が気軽に繋がれる時代ですが、それは諸刃の剣でもあります。例えば、成績が思うように上がっていない選手がメディアに露出すると、それが球団側のプロモーションの一環だったとしても、ファンの方から「もっと野球を頑張れ」「そんなひまがあるなら練習しろ」といった厳しい声が、選手に直接届いてしまうので。

堂場:バランスが難しいですね。広報としては、露出を増やしたい。でも、選手も守らなければならない。

小泉:ですから、チームとの密な連携は欠かせません。期待する若手選手の情報や、コーチの「まだ結果は出ていないけれど、練習態度は素晴らしい」という声など、現場からのインプットを常に受けるようにしています。露出をコントロールしながら、現場の評価と、世間の見え方のギャップを埋めるのが我々の役割ですね。

◎ファンの裾野を広げる工夫

堂場:一方で、年齢層高めの男性が中心のコアな野球ファンだけでなく、ファンの裾野を広げていく工夫も必要ですよね。

小泉:そこは最も注力している部分です。特に若年層や女性層とどう接点を作るのかは課題ですね。最近では女性誌とコラボして、選手の私服チェックを企画したりもしました。

堂場:昔のプロ野球選手のイメージからは、考えられない企画ですね(笑)。

小泉:確かに(笑)。でも、野球そのものに興味がなくても、「この選手、清潔感があっておしゃれで素敵だな」という入り口があってもいいと思っています。新規の若年層や女性をどう取り込み続けていくか、ファンビジネスとして避けては通れない永遠の課題です。

堂場:他競技との「時間の奪い合い」も激しくなっていますよね。

小泉:かつては「野球が一強」でしたが、今はサッカーやバスケット等の人気競技と競うので、ハードルは高いです。コアなサッカーファンを急に野球ファンにするのは難しい。でも、まだどの競技にも強く触れていない若年層は必ずいて、そこに接する意味でも、地域貢献も、常に意識して力を入れ続けるべき分野だと思っています。

堂場:具体的にはどんな取り組みを?

小泉:今年、球団がDeNA体制になって十五年目を迎えました。その記念施策として、神奈川県全域の小学生に野球帽を配る活動を行いました。

『横浜DeNAベイスターズ 15th ANNIVERSARY』
https://www.baystars.co.jp/ydb15th/

堂場:お金も手間も、かかりそうですね。

小泉:相当な規模になりますが、県内全自治体の協力のおかげで実現できています。例えば、炎天下で遊ぶ子供たちが野球帽を被ることで熱中症対策にもなる。そういった「今の社会課題」と「地元球団が地域に還元できること」をマッチさせ、地道に接点づくりを積み重ねることで、ようやく地域に愛される存在になれるのだと感じています。

◎「番記者」は敵か、味方か

堂場:本書の中で、広報と番記者とのせめぎ合いは書き甲斐がある部分でしたが、実際のところ、メディアとの関係性はどのように構築されているのですか?

小泉:メディアの方々は、共にプロ野球業界を盛り上げる「仲間」という意識が非常に強いですし、番記者さんは選手やチームをリスペクトして、シーズン中行動を共にし、取材をしてくださる、とても心強い存在です。つい最近まで、新年最初の全社会に番記者さんも参加されて「××新聞の〇〇です。今年一年間担当します」と一人ずつ挨拶される習慣もありました。

堂場:一般企業では考えられない距離感ですね。

小泉:私の前職は芸能関係のPR会社の広報でしたが、全く違います。球団に入ったばかりの時は、その一体感の強さを目の当たりにして、驚きました。

堂場:最近、プロ野球関係の特ダネが何なのか、わからなくなったんです。昭和の時代には「新聞で自分のトレードを知った」なんて話もよく聞きましたが、最近は見かけなくなりました。広報で情報のコントロール等をされているんですか?

小泉:番記者さんは、我々が知らない情報を裏で持っていることも多いのですが、事前にまず「こういう話を聞いています」と当ててくれます。そこで「今はちょっと待って」と下交渉を行うわけです。
 例えば選手が引退する場合、ファンの皆さまには一番に知らせたいし、カッコよく送り出すため、ビジュアル等の制作にも時間をかけたい。けれど球団からは、まだ本人に言っていないから勝手に動くな、と止められることもあります。

堂場:複雑な調整事項が多いんですね。

小泉:万が一、準備を始めたことが漏れて、本人の耳に入る前にニュースになってしまうと、選手と球団の信頼関係は崩壊します。だからメディアには「事情があるから、まだ出さないでほしい」と頭を下げます。番記者さんとは、お互いにプロとして、切磋琢磨している感覚です。

堂場:最近はメディアの形も多様化して、フリーランスや、個人で発信力を持つ方も増えていますが、取材許可の線引きはどうされていますか?

小泉:そこは非常にデリケート、かつ厳格に運用している部分で、一見のメディアに対しては、しっかりルールを設けて対応しています。以前フリーランスの方が、雑誌の取材で得た情報を個人の動画メディアで発信、収益化したことが問題になりました。我々が情報を出す相手はあくまでもメディア。現場の秩序が乱れないように、調整が必要です。

◎メディアの「特性」の使い分け

堂場:現場では、新聞記者(ペン)とテレビ記者(ムービー)が入り混じっていますよね。両者はメンタリティが大きく異なると思うのですが、違いをどう捉えて対応されていますか。

小泉:両者は、書きたいこと聞きたいことが全く異なりますから、明確に意識して、取材の場を分けています。ペン記者は、言葉の裏側や、時間の経過とともに深まるストーリーをじっくり書きたい欲求が強いですね。一方でムービーの皆さんは、今まさに起きていることの「熱」や、一瞬の表情、強い言葉を求めています。

堂場:ムービーは、取材される側が自身の「パブリックイメージ」を表現する媒体として活用している印象もあります。以前、星野仙一監督時代の楽天の取材に行ったことがありますが、星野監督は、テレビカメラの前では皆が知っている、あの豪快な笑顔で話すのに、ペン取材になると、急に声が低くなってガラッと雰囲気が変わったので驚きました。

小泉:監督も選手も、メディアの特性の違い、自分の立場や見られ方をよくわかっていて、取材を受けるときに使い分けていますし、最近の選手はセルフプロデュースが上手いなあと感じます。

堂場:取材対応の際に、広報として重要視されていることはなんですか?

小泉:媒体によって露出のタイミングが異なることは、意識しています。翌朝に記事が出る新聞なら、前日の試合結果や選手の現状と大きなズレは生じません。しかし雑誌やテレビだと、露出まで数週間、下手を受ければ数ヶ月のタイムラグが発生します。

堂場:取材した時は絶好調でも、コンテンツが出る頃にはスランプに陥っていたり、怪我で離脱している恐れもある。スポーツ選手は、商品としてはとても不安定ということですね。シビアだ……。

小泉:企画自体はかなり前から動いていても、ファンの方にとっては「今」がすべて。良かれと思って進めた企画が批判されて選手を傷つけたり、プレーにも悪影響を与えてしまわないよう、メディア側に「露出の時期を相談させてほしい」とお願いすることもあります。

堂場:メディアの特性によって対応を変えるだけでなく、時間軸もコントロールしなければならない。気を使いますね。伺っていると、メディアとの距離の取り方も、かなり難しそうな印象を受けます。

小泉:先ほど、メディアは「仲間」と申しましたが、親しき中にも礼儀ありで、距離の取り方は本当に難しいです。近づきすぎると、当たり障りのないことしか書いてもらえず、つまらなくなります。逆に、距離感を間違えると、意図しないことが発信されかねません。選手が番記者さんと親しくなることも多く、うっかり内密な話を喋ってしまい「言っても大丈夫でしたか?」と相談されることもあります。「出すのはちょっと待って」と止められる距離感である必要もあります。

◎理想の広報施策とは

堂場:球団の魅力を発信する広報施策は、どんな形が理想だと考えていますか?

小泉:選手やチームの思い、意図を汲みながら、メディアに記事にしていただき、ファンに伝わるのが理想です。広告ではないので、各メディアの特徴を踏まえて、いかに「調理」してもらうか。素材の提供の仕方を戦略的に考えるのが、現代の広報の面白さかもしれません。

堂場:何か印象的なエピソードがあれば、お聞かせください。

小泉:最近だと、WBCオーストラリア代表との練習試合に関する事例があります。実はうちの球団とオーストラリアのあるプロチームは、八年前から戦略的パートナーシップを結び、若手をウィンターリーグに派遣して、国際交流や技術向上に努めてきた経緯があるんです。

堂場:積み重ねた絆があって、試合が実現したと。

小泉:そうなんです。当時、一緒にプレーした仲間が今はオーストラリア代表の主力に成長していたりする。そのストーリーを事前にメディアに伝え、「数年越しの再会、かつての戦友との対決」という切り口で記事を書いてもらうよう仕込みました。

堂場:ファンにも「これは単なる練習試合じゃない、貴重な一戦なんだ」と関心を持ってもらえますね。

小泉:ストーリーを紡いで伝える、という我々の地道な広報活動が、記事の深みに繋がっていけばと願っています。

堂場:メディアの怖さも影響力の大きさも分からない新人選手への、メディア対応に関する教育はどうされていますか?

小泉:毎年一月に、広報部長が新人向けに講習を行っています。SNSの使い方、メディアの前での立ち振る舞いなど、「こんなふうにして」ではなく、「これは絶対にやってはダメ」なことを教えます。やることをガチガチに制限すると、みんな同じような、無味乾燥な受け答えになってしまいますから。

堂場:SNSで炎上しそうな、他人の悪口は投稿しない、といった基本的なこと、これはNGということは伝えて、そこを守ればあとは自由でいいよ、と。

小泉:はい。うちの球団は「和気藹々としたチームカラー」がファンの方にも浸透しているので、選手のナチュラルな個性は尊重したいですね。
 ただし、プロスポーツ選手なので、支援してくださるスポンサーへのケアの仕方には、厳しく注意を促します。貶すような発言をしないのは当然のこと、「ステルスマーケティング」のような企業色が出る投稿は控える、もちろん反社会的な勢力と接触しない等、いかにプロとしての節度を守らせるかに主眼を置いて、教えています。

◎ライバルから教わった「ビールかけ」のノウハウ

堂場:球団の垣根を越え、広報同士で、現場のノウハウを共有することはありますか。

小泉:年に一回、十二球団の広報が集まる広報会議が開かれ、情報共有をします。困った記者がいるけど対応はどうしてますか? といったシビアな相談から、実務的な話まで様々です。また、例えば試合後の取材の動線についてホーム球場の広報に尋ねたり、メディアにとって不都合のない環境を整えるため、チーム側では日常的に、密に連携しています。

堂場:編成の人同士だと、裏でトレード話を進めてるんじゃないかと、勘ぐられそうですが(笑)、広報の場合は、あくまで実務を円滑に進める上での連携ですね。

小泉:はい。そして、これは個人的な話になるのですが……チームが優勝したら「ビールかけ」をしますよね。会場には必ずメディアも入るので、うちの球団は広報が準備をしており、僕が担当になったんです。

堂場:広報にとっては、一大イベントですね。

小泉:二年前にチームが日本一になりました。優勝の可能性が高まったとき、「ビールかけ」の準備を始めたのですが、残念ながらうちの球団は過去にあまり経験がなくて。設営はどうするのか、メディア対応の仕方など、わからない……。恥を忍んで某他球団の広報さんに電話しました。「すいません、ビールかけのやり方を教えてください!」と。

堂場:敵陣営に「祝杯のあげ方」を教わると(笑)。

小泉:相手の方は「もちろん、いいよ!」と快く教えてくださり、無事実施できました。いまだに恩義を感じています。
 グラウンド上ではライバルでも、興行として、文化としてのプロ野球を盛り上げたいという点で、広報には「プロ野球という大きな一つのチームの仲間」という意識があるように思います。

◎コミュニケーション能力がすべて

堂場:プロスポーツって、つくづく特殊な世界だと思いますが、そこが職場となる広報にとって、最も必要な能力とは何だと思われますか?

小泉:様々な利害関係が交錯する世界ですから、適切な距離感を保ちながら、相手の意図を汲み取る力、自分たちの思いを正確に伝える力、そして物事を「言語化」する力が重要だと考えています。詰まるところ、コミュニケーション能力がすべてだと思いますね。

堂場:プロ野球選手として活躍するレベルの人たちは、ある種「エゴイスト」でなければ生き残れませんよね。監督も選手も全員が個人事業主で、みんなクセが強くて。その一人一人と、コミュニケーションを取るのって大変そうです。

小泉:いい意味で「ぶっ飛んでいる」部分がないと、やっていけないでしょうね。逆に、周りに気を使いすぎる「いい人」ほど意外と早く引退してしまったりする。強い個性を持つ彼らの思いを、どう世の中に翻訳して届けるか。そこに広報が存在する意味があると考えています。

堂場:常人離れした人たちを、常識の枠の中に当てはめて、彼らの思いを言語化して言葉として発信する。広報って、猛獣使いかもしれませんね(笑)。

※本対談は文庫『ザ・ミッション』巻末に収録した記事を転載しました。