製本現場ルポ “超ちっこい本”はどうやって生まれたか?
レポート
2026.08.04
この夏、書店店頭で、ごく小さいサイズの本が存在感を放っているのにお気づきだろうか。
『本を読むのが超速い人の頭の中ってどうなってんの殺人事件』(白井智之著・実業之日本社)。
A7サイズという、手のひらに収まる大きさも話題を呼び、発売3週間で4刷が決定している。史上最小級の本は、いったいどうやって作られているのか、その製本現場を訪ねた。
文・写真/編集部
手のひらに収まるサイズなんだから、ちゃちゃっと簡単に作れちゃうのでは? と思われるかもしれないが、さにあらず。
A5判、四六判といった通常サイズとは異なり、極端に小さいがゆえに、特殊な製本工程をとっているのだという。
『本速殺人』の宣伝文句は、 「たぶん世界最小(!?)の本格ミステリ」。
サイズにこだわる我々としては、本が物理的に誕生する場面に立ち会うべく、工場にお邪魔させていただくことにした。
2026年6月15日、東京都と埼玉県の境を流れる荒川のほとりに立つ、株式会社ブックアート・舟渡工場(東京都・板橋区)。1950年創業で、小社(実業之日本社)も古くからお世話になっている製本会社さんだ。
今日ここで、『本速殺人』の初版1万8000部が製本されるのだ。
小社を担当してくださっている鈴木利昌さんの運転で、最寄り駅から工場に到着。午前9時だが、すでに1階の荷受け場には、印刷会社から搬入されたばかりのシート状の印刷物の塊が、きっちりと積みあがっている。
まず案内されたのは、「突き揃え」という工程。
ここで、製本の一般的な工程を見てみよう。
1,「大断ち」
両面に印刷された大きな用紙の、四辺の余白を断裁する
2,「折り加工」
16ページからなるシートを折りたたむ。p1から順番に折りの束を重ね(=丁合い)、背を糊でくっつける
3,「貼り加工」
表紙や扉などを、本体に貼り合わせる
4,「三方断裁」
上側、下側、小口(ページが開く側)の端を断ち落とす
「突き揃え」は、「1」の大断ちの前に行われる、製本の最初のステップだそうだ。
まず、機械でシートの束をガタガタと揺らし、用紙1枚1枚の間に薄い空気の層を入れる。そして、用紙の角がきっちり揃うように、オペレーターさんがシートの束を上から手で優しく撫でつけ、整えていく。
小西社長によると「辞書のような薄い紙もあれば、絵本のような厚い紙もあり、狂いなく製本できるように、厚さや紙質に合わせて、まず人の手で調整しています」とのこと。
この工場で製本され、全国の書店さんに出荷されていく本たちは、もれなくオペレーターさんに「なでなで」されているのだと思うと、なんだか愛おしさが湧いてくる。
『本速殺人』は、荒川の対岸・埼玉県戸田市にある、中央精版印刷株式会社さんで印刷されている。印刷されたシートは、ブックアートさんに搬入後、さきほどの4階の「なでなで」から始まる工程を経て、いま3階で作業中だという。
小西社長のあとについていくと、あった!
「2号機」と書かれている大きなベルトコンベアー。
冊子状のものが、ベルトに乗って高速で動いている。
そして、みるみるうちに、黄色と黒の表紙と合体していく。
しかし、その形は、小さくはない。なんだかずいぶん細長い。なぜだ……!?
バインダー2号機のホワイトボード。9,000部×2丁=1万8000部を数時間で綴じていく
バインダー2号機。束ねられた本文の背に糊付けして、高速で表紙を貼り付けていく
本文に表紙を貼り付けたあとは、ホットメルト(糊)の温度を自然に下げるために、ベルトコンベアーは低速に変わる
その理由はちっこさにあった。通常の書籍の折り加工は、16ページ単位のシートごとに折ったものを、ページ順に重ねる。
ちっこい本も基本の流れは同じだが、そのサイズゆえに、「2冊を上下に並べた状態」で折り加工と貼り加工がなされるのだ(=2丁製本)。いま目の前で稼働しているベルトコンベアーは「バインダー」という機械で、上下に2冊並んだ本文の背の部分にホットメルト(糊)をつけ、そのあと、2冊並んだ表紙で本文を挟むように合体していく。
これまで平たい紙だったものが、次々と立体物に変身していく様に魅入られていると、突然、軽快なメロディーが鳴って機械がストップした。センサーが落丁を検知したらしい。
乱丁や落丁のチェックはセンサーで行なっているが、同時に、オペレーターさんの手作業も重要な役割を果たしている。「これは企業秘密」(小西社長)ということで詳細は省くが、ここでも、「なでなで」と同様に、オペレーターさんの観察眼と手技が光っているのだった。
「バインダー」で2丁製本が終わった段階。これで約8000部ある
ここでは「三方断裁」という仕上げの工程を行う。
フロアの真ん中に、巨大な包丁のような刃がついた、大きな断裁機が鎮座している。
まず、二人一組状態の2冊を切り離し、その後、手作業で「天側」「地側」「小口側」の3辺を仕上がりサイズ通りにカットしていく。
三方断裁で、1回にカットできるのは5冊程度。断ち落とした部分は、リサイクルされる
通常のサイズの本であれば、この工程も機械で行うことができるが、ちっこい本はそのサイズゆえに機械にかけることができない。
すべて手作業で断裁するのだ。
オペレーターさんは、作業の手を休めずに、にこやかにプロセスを教えてくださる。
しかし、目の前でザクッ、と音を立てる大きな包丁の切れ味が鋭すぎて、見ているこちらは冷や汗が出てくる。断裁作業は、小さければ小さいほど精度の高さが求められるとのこと。
『本速殺人』は、7月2日の発売から3週間で4刷(累計3万3000部)が決まった。
オペレーターさんたちは、この緊張感漂う場所に、どれだけの間、立っているのだろう。ザクッ、ザクッ、と心地よい断裁音を聞きながらその時間に想いを馳せた。
それにしても、なぜこんなに手をかけて、ちっこい本を作ったのか?
その理由は、読んでみればわかりますので、ぜひ、書店でお手に取ってみてください!
工場4階にある食堂からの眺め。オペレーターさんたちがリラックスできるよう、工場のなかでいちばん眺望の良い場所が充てられている
『本を読むのが超速い人の頭の中ってどうなってんの殺人事件』(白井智之著・実業之日本社)。
A7サイズという、手のひらに収まる大きさも話題を呼び、発売3週間で4刷が決定している。史上最小級の本は、いったいどうやって作られているのか、その製本現場を訪ねた。
文・写真/編集部
●超ちっこいゆえの、特殊製本
『本を読むのが超速い人の頭の中ってどうなってんの殺人事件』(以下『本速殺人』)は、A7サイズ(74mm×105mm)、ちょうどポケットティッシュの大きさだ。手のひらに収まるサイズなんだから、ちゃちゃっと簡単に作れちゃうのでは? と思われるかもしれないが、さにあらず。
A5判、四六判といった通常サイズとは異なり、極端に小さいがゆえに、特殊な製本工程をとっているのだという。
『本速殺人』の宣伝文句は、 「たぶん世界最小(!?)の本格ミステリ」。
サイズにこだわる我々としては、本が物理的に誕生する場面に立ち会うべく、工場にお邪魔させていただくことにした。
2026年6月15日、東京都と埼玉県の境を流れる荒川のほとりに立つ、株式会社ブックアート・舟渡工場(東京都・板橋区)。1950年創業で、小社(実業之日本社)も古くからお世話になっている製本会社さんだ。
今日ここで、『本速殺人』の初版1万8000部が製本されるのだ。
小社を担当してくださっている鈴木利昌さんの運転で、最寄り駅から工場に到着。午前9時だが、すでに1階の荷受け場には、印刷会社から搬入されたばかりのシート状の印刷物の塊が、きっちりと積みあがっている。
●製本は「なでなで」から始まる!?
出迎えてくださったブックアートの社長・小西惠介さんと向かったのは 最上階、4階。ここは、搬入されたシート状の印刷物(刷り本)の「断裁」「折り加工」「貼り込み加工」をするフロアだ。まず案内されたのは、「突き揃え」という工程。
ここで、製本の一般的な工程を見てみよう。
1,「大断ち」
両面に印刷された大きな用紙の、四辺の余白を断裁する
2,「折り加工」
16ページからなるシートを折りたたむ。p1から順番に折りの束を重ね(=丁合い)、背を糊でくっつける
3,「貼り加工」
表紙や扉などを、本体に貼り合わせる
4,「三方断裁」
上側、下側、小口(ページが開く側)の端を断ち落とす
「突き揃え」は、「1」の大断ちの前に行われる、製本の最初のステップだそうだ。
まず、機械でシートの束をガタガタと揺らし、用紙1枚1枚の間に薄い空気の層を入れる。そして、用紙の角がきっちり揃うように、オペレーターさんがシートの束を上から手で優しく撫でつけ、整えていく。
小西社長によると「辞書のような薄い紙もあれば、絵本のような厚い紙もあり、狂いなく製本できるように、厚さや紙質に合わせて、まず人の手で調整しています」とのこと。
この工場で製本され、全国の書店さんに出荷されていく本たちは、もれなくオペレーターさんに「なでなで」されているのだと思うと、なんだか愛おしさが湧いてくる。
●ちっこさゆえの「二人一組」
次に向かったのが3階、並製(ソフトカバー)の書籍を製本するフロアだ。『本速殺人』は、荒川の対岸・埼玉県戸田市にある、中央精版印刷株式会社さんで印刷されている。印刷されたシートは、ブックアートさんに搬入後、さきほどの4階の「なでなで」から始まる工程を経て、いま3階で作業中だという。
小西社長のあとについていくと、あった!
「2号機」と書かれている大きなベルトコンベアー。
冊子状のものが、ベルトに乗って高速で動いている。
そして、みるみるうちに、黄色と黒の表紙と合体していく。
しかし、その形は、小さくはない。なんだかずいぶん細長い。なぜだ……!?
その理由はちっこさにあった。通常の書籍の折り加工は、16ページ単位のシートごとに折ったものを、ページ順に重ねる。
ちっこい本も基本の流れは同じだが、そのサイズゆえに、「2冊を上下に並べた状態」で折り加工と貼り加工がなされるのだ(=2丁製本)。いま目の前で稼働しているベルトコンベアーは「バインダー」という機械で、上下に2冊並んだ本文の背の部分にホットメルト(糊)をつけ、そのあと、2冊並んだ表紙で本文を挟むように合体していく。
これまで平たい紙だったものが、次々と立体物に変身していく様に魅入られていると、突然、軽快なメロディーが鳴って機械がストップした。センサーが落丁を検知したらしい。
乱丁や落丁のチェックはセンサーで行なっているが、同時に、オペレーターさんの手作業も重要な役割を果たしている。「これは企業秘密」(小西社長)ということで詳細は省くが、ここでも、「なでなで」と同様に、オペレーターさんの観察眼と手技が光っているのだった。
●ちっこい本、仕上げは手作業で
最後に案内いただいたのは1階。ここでは「三方断裁」という仕上げの工程を行う。
フロアの真ん中に、巨大な包丁のような刃がついた、大きな断裁機が鎮座している。
まず、二人一組状態の2冊を切り離し、その後、手作業で「天側」「地側」「小口側」の3辺を仕上がりサイズ通りにカットしていく。
通常のサイズの本であれば、この工程も機械で行うことができるが、ちっこい本はそのサイズゆえに機械にかけることができない。
すべて手作業で断裁するのだ。
オペレーターさんは、作業の手を休めずに、にこやかにプロセスを教えてくださる。
しかし、目の前でザクッ、と音を立てる大きな包丁の切れ味が鋭すぎて、見ているこちらは冷や汗が出てくる。断裁作業は、小さければ小さいほど精度の高さが求められるとのこと。
『本速殺人』は、7月2日の発売から3週間で4刷(累計3万3000部)が決まった。
オペレーターさんたちは、この緊張感漂う場所に、どれだけの間、立っているのだろう。ザクッ、ザクッ、と心地よい断裁音を聞きながらその時間に想いを馳せた。
それにしても、なぜこんなに手をかけて、ちっこい本を作ったのか?
その理由は、読んでみればわかりますので、ぜひ、書店でお手に取ってみてください!
取材協力/株式会社ブックアート