スマホ画面がそのまま小説に!? 知念実希人が仕掛ける新感覚「体験型ミステリー」の裏側

『このスマホで地下牢獄から脱出してください』刊行記念インタビュー スマホ画面がそのまま小説に!? 知念実希人が仕掛ける新感覚「体験型ミステリー」の裏側

インタビュー・対談

2026.08.06

『硝子の塔の殺人』や「天久鷹央」シリーズなど、次々とヒット作を送り出し、読者を魅了し続けるミステリー界の旗手・知念実希人。王道のミステリー長編から人気シリーズ作品、児童書まで幅広いジャンルでマルチな才能を発揮する著者が、新たに挑戦したのが「スマホの画面」をモチーフにした異色の新感覚ミステリーだ。ページを開けば、そこには暗闇の密室と1台のスマホ──。読者自身が主人公となり、タイムリミットまでに謎を解いて脱出を試みる没入型の読書体験は、いかにして生まれたのか?
写真/近藤篤 文/編集部


──本作で3冊目になりますが、あらためて、スマホサイズの判型を使用した「スマホBOOK」にトライした理由を教えてください。

知念実希人(以下、知念):小さな判型の本が人気があるということで、少し変わった仕掛けのある本を出したいというご相談をいただいたのがきっかけでした。ただ、二番煎じで全く同じものを作るのは嫌だなと。そこで「特殊な装丁でどういう表現が可能なのか」「どのような仕掛けが作れるか」と試行錯誤していたのです。その中で「この判型なら、ちょうどスマートフォンの画面に見立てて小説が書けるんじゃないか」と思いつきました。第1作の『スワイプ厳禁 変死した大学生のスマホ』(双葉社刊)のときは、単行本『閲覧厳禁 猟奇殺人犯の精神鑑定報告書』(同)と関連のある作品ということで、少し制限がありました。元々、スマホの判型の本をつくるなら、脱出ゲームにするのが一番面白いし、ポテンシャルを最大化できるはずだと考えていました。本作『このスマホで地下牢獄から脱出してください』は、それが具現化できたのです。

──読者にとっても、非常に没入感のある新しい「読書体験」になりそうですね。

知念:そうですね。昨今は「本を読むのが苦手」という方が増えています。そういった方々に向けて、読書の入り口にしてもらえたらうれしいです。本作なら、30分〜1時間ほどで簡単に読むことができます。「小説にはさまざまな楽しみ方がある」ことを伝えたかったのです。

──「脱出ゲーム」という設定は、知念さんの原点ともいえる『仮面病棟』などのクローズド・サークル(密室劇)を連想させます。

知念:やはり「制限時間」があることで、読者が本当にその場にいるようなハラハラ・ドキドキ感と没入感を味わえる構成にしています。作品によってアプローチは異なりますが、本作のような「シチュエーション・スリラー(限られた状況での恐怖を描く物語)」は、短時間で常に緊張感を持って読んでもらえるよう考えて執筆しています。

──本作のストーリーや見どころについて、読者の皆さんへご紹介をお願いします。

知念:目が覚めると、主人公は暗い部屋に閉じ込められています。そこには男の死体と、1台のスマホだけが残されている──。読者は、主人公と一緒にそのスマホしか使えない状況で、部屋に残された謎を解き明かしていきます。スマホの電源が切れるまでがタイムリミット。それまでに脱出して生き残ることができるか、主人公になりきって謎解きを楽しんでもらえる作品になっています。

──本作は「右ページがスマホの画面」「左ページが地の文」という独特な横組みの構成ですが、執筆や構成の際、苦労はありましたか?

知念:僕自身、普段からパソコンの横組み画面で原稿を執筆しているので、本文が横組みであることには全く違和感はありませんでした。大変だったのは「右ページのスマホ画面」の構成を考える部分ですね。こちらの画面がメインになり、左ページの文章はあくまで補足です。普段スマホ画面に見慣れている方々には、右のスマホ画面を見ながら物語を追って、補助的に左ページの文章を読む……というような体験をしてほしい。本文のテキスト量自体は短編1本分にも満たないくらいですが、スマホの画面デザインと合わさることで、圧倒的な没入感が生まれるように仕立てています。

──知念さんは本作に限らず、児童書やライトノベルなど、常に多岐にわたるジャンルで執筆されています。そのバイタリティの源泉はどこにあるのでしょうか?

知念:「小説や物語(フィクション)に、どんな可能性があるのか」「どこまで新しいものが書けるのか」を、自分自身で試したくなります。作家デビューしてからの約15年間で培ってきたものを発揮して、普段小説を読まないような人たちにも「物語の面白さ」を届けていきたいのです。休みは本当になくて……お正月ですら大体原稿を書いていますね(笑)。

──今後の活動についての意気込みをお聞かせください。

知念:その時々に思いついたアイディアを大切にしながら、読者の皆さんに楽しんでもらえるものをどんどん作っていきたいです。しっかりとした王道のミステリー長編やシリーズものを軸にしつつ、それとは別に、今回のような「少し変わり種の面白い企画小説」にも引き続き試行錯誤しながらチャレンジしていきたいと思っています。