柴田亜美の「浮世の氣楽絵」第13回 そうだ、『河童』だ!

コラム

2026.06.25

 月刊美術さんから『オマージュ北斎2』の作品依頼がきて、私は悩んでいた。前回は《富嶽三十六景 神奈川沖浪裏》をオマージュした絵画にした。さて今回はどうしよう、葛飾北斎は数々の名作がありすぎるが故に迷う。
 ずっと題材を決めきれぬままに故郷の長崎に帰省して、ある妖怪が降りてきた。河童だ・・・、北斎は幽霊や妖怪画も多く描いているが、その中で私がとりわけ好きなのが河童の絵だ(『北斎漫画三編』所収)。

 長崎生まれの私にとって、最も馴染みが深い妖怪が河童である。長崎にはいくつもの河童伝説が残っていて、私が幼少の頃によく遊んでいた中島川にも河童の話が言い伝えられている。その昔、中島川近くに人家が多くなり川が汚れるようになったため、清流にしか住めない河童たちは生活できなくなり、たびたび人間に悪さをするようになった。そのため中島川の近くにある水神神社の神官が悪さをする河童たちを宴会と偽り呼び寄せ、自分にはタケノコ、河童たちには古い竹の輪切りを料理に出した。
 硬い竹の輪切りを噛みきれないでいる河童たちは、平気で美味しそうにタケノコを食べる神官を見て、「人間は何と歯が強いのだろう!」と驚いて神官を敬うようになり、それ以後は悪さをしなくなったそうである。また、神官は川を汚さないように人々にも伝え、付近の人たちの協力で川も綺麗になったという、めでたしめでたしの話だ。今はもう行われていないようだけれど、私が子供の頃にはこの伝説にちなんでか、5月には『中島川カッパ祭り』というものも開催されていて祭りを体験した(楽しんだ)記憶もある。
 その他、長崎市民に『お諏訪さん』の愛称で親しまれている諏訪神社にも、河童にまつわる物がある。蛙子(ひるこ)社の池の前に鎮座している、頭に皿がある『カッパ狛犬』である。ご祭神の蛭子の神は河川の水上安全や子どもの水泳上達など、水に関わる願い事成就の神として信仰されており、河童は蛭子の神の使いだそうだ。

 長崎の実家に帰ってさっそく諏訪神社のカッパ狛犬に会いに行った。頭にお皿を乗せたなんとも愛くるしい狛犬が2体並んでいる。何を描こうか悩んでいたのが嘘のように、頭のキャンバスに愛嬌あるポーズや色彩が湧き上がってくる。かくして、「オマージュ北斎2」の《河童狛犬》を無事に制作することができました。
 河童よ、イタズラ妖怪どころか私にとっては親切妖怪だよ。




《河童狛犬》 アクリル、キャンバス 8F 2026年






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