私の○○ベスト3Vol.92 仁科裕貴 私の「警察学校で体験した衝撃的事件ベスト3」

コラム

2026.07.28

「元公安警察官の小説家」という、少々いかつい肩書きで活動している仁科裕貴です。
 そんな私ですが、デビュー後しばらくは警察小説の執筆依頼がなく、妖怪ものや青春ものをメインに書いてきました。しかし、十二周年を迎えた今になって急に警察小説のオーダーが急増。「今さら当時の記憶を掘り起こせと?」と内心かなり困惑している次第です。
 そこでリハビリを兼ねまして、今回は「警察学校で体験した衝撃的事件ベスト3」をお届けすることといたしました。

第三位:入校「前日」に同期が辞めた
 私のいた頃、警察学校は前日入校制でした。「一般人最後の日」を噛み締める暇もなく、午後九時に講堂へ集められるや否や、始まったのは国歌の合唱練習と行進訓練。
 いきなり教官から大声で恫喝され、「揃うまで眠れないと思え!」と深夜まで続けられたこの洗礼。
 あまりの理不尽さに絶望し、同期の一人が泣きながらタクシーで帰っていきました。
 警察学校とは、警察官に相応しくない者を「ふるい落とす」施設なのだと、身をもって知った事件です。

第二位:食堂の壁、器物損壊事件
 警察学校の食堂の隣には、唯一酒類を販売している自販機コーナーがあり、重宝されていました。
 地獄の訓練を終えた後に流し込むビールは、まさに至福の味でしたね。
 しかしある日、誰かが付近の壁を蹴り、足の裏の形に穴を開けるという事件が発生。全校生徒が緊急招集され、その場でリアル鑑識実習がスタート。
 警察官の卵たちが総出で足跡を採取し、靴跡のデータを照合。見事な連携で被疑者を割り出し、壁を蹴った当人は当然クビに。身を挺して教材になってくれました。

第一位:同期が教官に銃口を向けてしまう
 拳銃操法の授業中のこと。横一列に並んで実弾を撃っていたところ、私の隣から「あれっ?」という声が聞こえてきました。
 引き金を引いたのに弾が出ない、いわゆる不発弾のようですが……。
 人間は極度の緊張下におかれると、普段なら絶対にしないようなミスもしてしまいます。
 隣の同期は何を思ったか、拳銃を構えた姿勢のまま、くるっと教官の方を振り返って一言。
「教官! 弾が出ません!」
 瞬間、血の気が引きました。何故なら、撃鉄が落ちてから数秒のタイムラグを経て発射される「遅発(ハングファイア)」という現象があるからです。
 幸い、弾は出ませんでしたが、銃口を向けられた教官は心臓の辺りを押さえ、荒い息を吐きつつ「今日の授業はここまで」と言い残して訓練場から出ていってしまいました。
 些細なミスが死に直結する、それが警察官という仕事の現実なのです。


仁科裕貴(にしな・ゆうき)

広島県生まれ。奈良教育大学卒業。元公安警察官。第19回「電撃小説大賞」応募を経て、2014年に作家デビュー。主な著書に、実写映画化された『初恋ロスタイム』や「座敷童子の代理人」シリーズ全10巻、「識神さまには視えている」シリーズ(いずれもメディアワークス文庫)など多数。最新刊の警察ミステリー『こちらはただの「落とし物係」です!──警察行政職員・音無遠子の流儀』(潮文庫)が増刷を重ね、好評を博している。