私の○○ベスト3Vol.95 楠谷 佑 普段BLを読まない人にも読んでほしいBL漫画ベスト3

コラム

2026.08.18

1位 山中ヒコ『500年の営み』

2位 春泥『ガンバレ!中村くん!!』

3位 櫻川なろ『真夏のサイレン』


 私はBL漫画が好きだ(今や注釈の必要はないかもしれないが、BL=ボーイズラブとは、男性同士の恋愛模様を主題的に描く作品の総称である)。
 ゆえに本稿執筆のご依頼を受けてすぐ「推し作品の話をする好機だ」と意気込んだのだが、愛する作品は足の指を使っても数えきれないほどあるので、3作だけ順位をつけて選ぶのは困難だった。
 そこで、「普段BLを読まない人にも薦めたい理由が特にある作品」という基準を設けて選出した。

3位 櫻川なろ『真夏のサイレン』(全1巻、KADOKAWA)
 作家としての私は、BLではなくミステリが専門である。というわけで、ミステリ好きに推薦したいのが本作。
 キャンプに行った男子高校生4人組のうち1人が、橋から転落して帰らぬ人となった。残されたメンバーは10年後に同窓会で再会し、「あれは事故ではなく殺人だったのではないか」と話し始める……という話。
 被害者が事件前に「この後ここにいる誰かにこっそり告白する」と言っていたことから、恋愛模様が謎解きに関わる。まさにBLミステリだ。各話のラストに事件の異なった解釈が示される構成は「多重解決ミステリ」の趣すらある。ミステリとしてもBLとしても読み応え十分の一作。

2位 春泥『ガンバレ!中村くん!!』(既刊2巻、ヒーローズ)
 ストーリーはシンプル。内気なゲイの高校生である中村くんが、明るくて可愛い同級生の広瀬くんに片思いして、お近づきになろうと奮闘する学園ラブコメディである。
 逆説的だが、本作は「普通であるがゆえに特別」な作品だ。性的マイノリティが同級生相手に恋をしても、性的指向が相手と嚙み合う可能性は低い。それ以前に、内気な中村くんにとっては、広瀬くんに声をかけるだけでも大勝負。でも、こういう子って普通にどこにでもいるはず。そんな、普通のゲイの「イケてない」恋模様を描いた学園ラブコメは、ありそうでなかった。そこが『中村くん』の特別さなのだ。
 突飛な出来事も多発する愉快なラブコメだが、同性の同級生に片思いする心理のリアルさは、経験者の共感を呼ぶであろう。少なくとも私はとても共感した。このリアリティこそ、BLに詳しくない人にも本作を薦めたい理由である。
 なお、この漫画を原作としたアニメが今年放送されたが、異様に高いクオリティでの素晴らしい映像化だったので、こちらも必見。

1位 山中ヒコ『500年の営み』(全1巻、祥伝社)
 2012年の刊行だが、生成AIが花盛りの(あるいは猖獗を極めている)今こそ広く読まれてほしい名作である。
 恋人の後追い自殺を図った青年・寅雄が主人公。一命を取り留めた彼はコールドスリープ状態となり、250年後に目を覚ます。そんな寅雄の目の前に現れたのは、愛する男に似たアンドロイドであった……。
 BLであり、未来が舞台の壮大なSFでもある。本作を最初に読んだときは「人間とアンドロイドの恋愛を描いた話」だと思ったが、のちに解釈が変わった。これは恋愛や性愛に限らず、「何かを愛してしまう人間の性質」について描いた話なのだ。クライマックスで寅雄がアンドロイド相手に語る「…お前こそ人間のことがわかってない」に続く一連の台詞は、このAI時代にこそ嚙みしめたい真理だと思う。
 ところで、優れたBL作品、ことにジャンルミックス要素の強い作品を褒める際に「BLの枠を超えた」という表現がしばしば使われる。言わんとすることはわかるが、BLを愛好する私としてはこう言いたい。枠を超えているのではなく、BLは「そんなすごいこと」まで表現できてしまう、懐が深いジャンルなのだ――と。だから、ここに挙げた3作はいずれも「優れたBL漫画」なのである。


楠谷 佑(くすたに・たすく)

1998年、富山県富山市生まれ。高校在学中に、『無気力探偵 ~面倒な事件、お断り~』(マイナビ出版)で商業出版デビュー。他の著書に「家政夫くんは名探偵!」シリーズ(マイナビ出版)、『案山子の村の殺人』(東京創元社)、『ルームメイトと謎解きを』『猫鳴く森で謎解きを』(いずれもポプラ社)などがある。