私の○○ベスト3Vol.99 川上佐都 私の「小説に登場させたいと思った・カフェでの会話」ベスト3
コラム
2026.09.22
第1位 A「今日家具買いに行こうかなー」 B「いいね、家具買えなかったらパン買お」
第2位 A「ウケるー。あ、いまの“ウケる”は“かわいい”って意味です」 B「えっ、そうなの? じゃあありがとう」
第3位 「シロナガスクジラが、地球ができて一番でかい生きものなんだよ。あれ、待ってやばい、違った」
カフェで仕事をする日もあるのですが、集中力が切れるとつい、他のお客さん同士の会話が耳に入ってきてしまい、その内容にキーボードをたたく指が止まることもあります。話している人の顔を見るわけにはいかず、喋り方や声で、その人たちがどんな人か・どんな関係かを想像し、そして惹き込まれるやりとりに、(いつか自分の小説でも、登場人物たちに似たような会話をさせたいなあ)と密かに思いながら、その日の日記に書き留めます。しかしいざ執筆しているとこれらの会話は忘れてしまい、なかなか小説に出すタイミングが訪れないので、この場を借りて好きだと思った会話の一部を紹介します(性別・関係性は想像です)。もしかしたら今後私の小説に、しれっと似たような会話が出てくるかもしれませんが、その際は見過ごしていただけますと幸いです。
第一位 A「今日家具買いに行こうかなー」 B「いいね、家具買えなかったらパン買お」
友だち同士の雰囲気がある二人の会話で、Bは趣味で家具を自作しているらしく、最近作った家具の写真をAに見せたあとのことだった。私にとって家具はさくっと買いに行くものではないし、買いに行くにしても「椅子がほしい」とか「箪笥がほしい」とか具体的な家具が浮かぶので、「家具買おうかな」と漠然と思うことはない。それをさらりと言うAの生活はかっこいいと思ったし、もし買えなくてもパンが買えるならまあいいか、と思わせてくれるBの返答もよかった。それにもし家具を買ったとしても、結局パンも買うと思う。
第二位 A「ウケるー。あ、いまの“ウケる”は“かわいい”って意味です」 B「えっ、そうなの? じゃあありがとう」
女性二人の会話で、歳がいくつか離れている印象があり、バイトやパート先の先輩後輩のようだった。その前段階でBがなんと言ったかはわからない。でもAは、言い間違えたとか意地悪いごまかしではなく、淡々と「ウケる」の別の意味を説明するような言い方をした。だからBと同様に隣に座る私も安心した。そして、たしかに「じゃあ」ありがとうだな、と思った。世代で使う言葉の意味が変わったときは、てっきり寂しさや恐ろしさを感じるかと思っていたけれど、その都度分かり合えればいいのだと、二人の気配で実感した会話だった。
第三位 「シロナガスクジラが、地球ができて一番でかい生きものなんだよ。あれ、待ってやばい、違った」
若い男女二人組の、男のほうが言った。スマートフォンで調べながら話していたのか、修正が早すぎて笑ってしまいそうになった。どうやら一番大きな動物はシロナガスクジラだけど、菌類や植物も含めるとキノコの仲間にもっと大きな生きものがいるらしい。この会話を聞いた当時、私の友だちのまわりでは結婚や出産にまつわる話ばかりが蔓延していたから、「でかい生きものの話をする時間」「しようと思った心」「別に詳しくはないこと」のすべてが愛おしく聞こえた。
川上 佐都(かわかみ・さと)
1993年生まれ、神奈川県出身。『街に躍ねる』で第11回ポプラ社小説新人賞特別賞を受賞しデビュー。他の著書に『今日のかたすみ』『ほころぶしるし』『贅沢な関係』がある。