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私の○○ベスト3
Vol.38 遠野 遥 イケてる名前の国内バンド ベスト3


1位 漁港
2位 凛として時雨
3位 Official髭男dism



「イケてる」という言葉が既にイケてないという自覚はあるが、キャッチーさを重視してこのタイトルとした。それでは3位から。


3位 Official髭男dism (「ノーダウト」https://youtu.be/EHw005ZqCXk

 4人組のピアノPOPバンド。2019年は紅白にも出場し、世間的に広く受け入れられているためスルーしてしまいそうだがよく見るとかなり変な名前をしている。漢字をアルファベットで挟む構成がまず普通じゃない。「ダンディズム」を「男dism」と表記するところまでは10人に1人くらい思いつきそうだが、「Official」を冠してしまうところに他の追随を許さないセンスを認めた。髭の似合う歳になってもこのメンバーでずっと続けていきたいという思いを込めたらしいが、長く使い続けることを考えるとシンプルで無難な名前を選びそうなところ、逆に攻めている点が興味深い。口に出してみるとわかるが語感も相当いい。「髭」部分に一瞬の浮遊感があり癖になる。

 
2位 凛として時雨 (「Sadistic Summer」https://youtu.be/idJkLAB3-y4

 強烈な個性を持った3ピースロックバンド。最初に「凛として」があり、曲を聴いて「急に降ってくる雨みたいだね」と言った人がいて「時雨」が決まったらしいが、この「急に降ってくる雨みたいだねと言った人」のセンスも相当なものだと思う。紹介するまでもなく有名なバンドで、いい曲はいくつもあるのだが、あえてひとつ挙げるならSadistic Summerだろうか(真冬だが)。夏を歌った曲の多くに私は共感できず、長らく違和感や疎外感を覚えていたがこの曲は違った。暑さから来る倦怠感や攻撃的な気分を思い出し、そうだよな、夏ってそういう季節だよなと思った。異国で初めて日本語の通じる人と出会った時のようだった。特にAメロがいいが、サビもいいし、全部いいかもしれない。


1位 漁港 (漁港 GYOKO OFFICIAL WEB SITE:http://gyoko.com
 「日本の食文化を魚に戻し鯛!」を運営方針に掲げるフィッシュロックバンド。水産庁でのアルバム発表記者会見、バンドとして初めて日本武道館でマグロをさばくなど数々の伝説的エピソードを持つ。漁港の港の字は反転しているものが正式な表記で、さんずい部分を脚と見ればまるで毛蟹のようだ。わずか2文字のシンプルな名前ながら、本来存在しない文字を使っている点でどのバンド名より独創的と言えるかもしれない。村田英雄、北島三郎、新巻鮭、FRANK ZAPPA、DISCHARGE、YMO、PUBLIC ENEMY、インドマグロ等に影響を受けたというバンドの”船長”森田釣竿氏の作る楽曲は唯一無二の鮮魚商的世界観と音楽性を持つ。森田氏は千葉県浦安魚市場「鮮魚 泉銀」の三代目でもあり、バンドの公式サイトからCDや魚を注文できるようだ。





とおの・はるか
1991年、神奈川県生まれ。慶應義塾大学法学部卒業。東京都在住。2019年、『改良』で第56回文藝賞を受賞。 Twitter:https://twitter.com/TONOHARUKA