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私の○○ベスト3
Vol.39 斜線堂有紀 私が舌を巻いた詐欺事件 ベスト3


1位 「マンハッタン島切断計画」
2位 「皇帝メネリク2世の電気椅子」
3位 「エッフェル塔売却詐欺」



詐欺と奇術とミステリーをテーマにした『詐欺師は天使の顔をして』という小説を書くにあたって資料を買い込んだ結果、私は人類史に遍(あまね)く存在する詐欺事件というものの魅力にとりつかれてしまいました。勿論詐欺は犯罪であるのですが、現実に直に干渉するフィクションである詐欺事件は、得も言われぬ魔力があります。というわけで今回は、私が舌を巻いた魅力的な詐欺事件ベスト3をご紹介します。

■3位「エッフェル塔売却詐欺」

 エッフェル塔の解体が決まった為、解体の際に出る鉄屑を買い取るスクラップ業者を募集、という1925年の詐欺事件。今では誰も騙されなさそうですが、当時はそれがもっともらしく聞こえるほどエッフェル塔の立ち位置は微妙だったのです。世相を読み、元手ゼロから手付金として大金を騙し取った詐欺師ルースティヒの手腕もさることながら、今では信じられない情勢を覗けます。


■2位「皇帝メネリク2世の電気椅子」

 少し詐欺とは毛色が違いますが、お気に入りの逸話を。
 1890年代後半、エチオピアの皇帝メネリク2世は電気椅子に興味を持ち、アメリカからその先進的な処刑器具を輸入しました。しかし、当時のエチオピアには電気が通っておらず、それはただの無用の長物に。これを悔しがったメネリク2世はその電気椅子をなんと王座に採用。それを見た補佐官は『偉大なる皇帝メネリク2世は白人の作った殺人道具に免疫がある』と国民に喧伝し、彼の威光を広めました。
 転んでもタダでは起きない意気込みがたまらないです。


■1位「マンハッタン島切断計画」

 栄えある1位は『与太話というのは壮大であれば壮大であるほどいい』という私の趣向にぴったりの1824年の事件。当時のマンハッタン島は島の南側にビルが建ち過ぎて地盤沈下を起こしていました。それを解決する為に持ち上がったのが、マンハッタン島を真ん中で切断し、回転させて接続し直すというこの計画です。スケールが凄い! 当然無理ですが、当時は数百人の人間がこれに騙され、大真面目に島を割る為の労働に身を窶(やつ)しました。人の背丈より大きなノコギリや、島を動かす為の七十五メートル越えのオールや、切断された島が流されないようにする為の巨大な錨などを職人たちが大真面目に構想したわけです。
このホラ話を広め、労働者を思うままに操ったのはセンター市場で働いていた一介の肉屋デヴォーと親友のロジエーでした。巨額な経済的損失を生んだ事件を二人が起こした理由は、なんと単なる暇潰し。来たる決行の日、数百人の労働者たちはマンハッタン島が切断される地点に向かいましたが、肝心の二人の姿は無く、彼らがこの街を出たという報でようやく詐欺が露見しました。
スケールの大きさや当時の状況を反映していることもそうですが、この詐欺の一番魅力的なところは、人間の想像力が共同幻想に昇華されていった過程なのかもしれません。





しゃせんどう・ゆうき
第23回電撃小説大賞にて『キネマ探偵カレイドミステリー』がメディアワークス文庫賞を受賞し、デビュー。『私が大好きな小説家を殺すまで』『夏の終わりに君が死ねば完璧だったから』(メディアワークス文庫)、『死体埋め部の悔恨と青春』(ポルタ文庫)、『コールミー・バイ・ノーネーム』(星海社FICTIONS)、『不純文学 1ページで綴られる先輩と私の不思議な物語』(宝島社文庫)といった著書のほか、漫画原作として『魔法少女には向かない職業』(ウルトラジャンプ)も担当している。近刊に『詐欺師は天使の顔をして』(講談社タイガ)がある。