J_novel+ 実業之日本社の文芸webマガジン

私の○○ベスト3
Vol.47 辻堂ゆめ 私の仕事に行きたくなる曲 ベスト3


1位 氣志團「喧嘩上等」
2位 Superfly「愛をからだに吹き込んで」
3位 SHISHAMO「宿題が終わらない」



 1位のタイトルからして不穏な空気にまみれていて、大変申し訳なく思っている。

 私は五年半ほど前から小説家として働いているが、大学四年生の終わりにデビューしたため、しばらくは会社員との兼業をしていた。昼間は大手通信企業で働き、夜は小説の執筆をするという、端的に言って非常に疲れる日々を送っていたのである。これらは、当時私が出社する際によく聴いていた曲だ。

 3位から語ろう。まずはSHISHAMO「宿題が終わらない」。これは何が素晴らしいかというと、タイトル、歌詞、メロディ、歌い方のすべてに、いい意味でやる気がないところだ。『あぁ 眠い眠いよ 瞼が閉じちゃうの』『始める前にまずは捜し物 原稿用紙はどこやったっけ やだやだあれも見つかんないわ 英語のプリントどこだっけ?』『来ないで明日 まだ宿題が全然終わってないの』などとボーカルの宮崎朝子さんの柔らかい声で歌われると、「そうだよねぇ、みんなやりたくないのは一緒だよねぇ。ま、今日も気楽にいきますか」というように、不思議と気分が緩んでくる。ちなみに、同様の理由でサンリオのキャラクター「ぐでたま」も大好きなのだが、それはまた別の話。

 2位のSuperfly「愛をからだに吹き込んで」は、純粋に前向きになれる曲だ。歌詞と歌詞の間に、ボーカルの越智志帆さんが『Oh Oh Oh Oh Oh Oh』と旋律を歌いあげるパートがあるのだが、それを聴くだけで、会社へと歩く自分に追い風が吹いているような、はたまた大編成の応援団が自分に向かって旗を振ってくれているような、そんな錯覚をすることができる。

 ただし、どうしようもなく心がささくれ立っている場合は、まっすぐな歌詞やメロディはかえって胸に響かないかもしれない。そんなときは、1位の氣志團「喧嘩上等」の出番だ。

 そりが合わない上司。やることに意味を感じられない業務。足を容赦なく痛めつけてくるパンプスや、動きにくいストッキング。それらをすべて跳ね飛ばす勢いで、『例えあなたが死んだって 私はくたばりはしないから』『うらんでもいい WOW…生き抜くのよ そうよ 女だったら』『WOW…血祭りだわ かかってこいや 喧嘩上等』といった歌詞とともに会社へと闊歩していく。元はそういう意味の歌ではないかもしれないが、関係ない。曲の解釈は、聴く側の自由なのだから。

 あまりにも模範解答すぎるのでランキングからは除外したが、B'z「ultra soul」もよく流していた。「ウルトラソウル! はーい!」の掛け声とともに会社に飛び込めば、もう後には引けない。否が応でも、仕事に取り組まざるをえなくなる。そういえば、大学受験のときにもよく聴いていたっけ。

 え? 怖いって? でも人生、それくらい気合いを入れないと、やってられないじゃないですか。





つじどう・ゆめ
1992年神奈川県生まれ。東京大学卒。第13回『このミステリーがすごい!』大賞優秀賞を受賞し『いなくなった私へ』でデビュー。ほかの著作に『卒業タイムリミット』(双葉社)、『あの日の交換日記』(中央公論新社)など多数。今注目の若手作家のひとり。