私の○○ベスト3
Vol.51 平居紀一 「私の作品でヒロインを演じさせてみたい〈あの映画の女優〉」ベスト3
第1位 『テス』ナスターシャ・キンスキー
第2位 『青い山脈』芦川いづみ
第3位 『キング・コング』ナオミ・ワッツ
まず第3位は2005年の『キング・コング』でヒロイン、アン・ダロウ役をつとめたナオミ・ワッツ。失業したボードビル芸人が、たまたま主演女優に抜擢されて、謎の島での映画撮影へ。だが、そこに待っていたのは……その後はおなじみの展開なのですが、この映画は登場人物それぞれの人生と情念が描かれていて、それがアンとコングの間に醸されていく信頼感、愛情と響き合っています。
ナオミ・ワッツは単なる「モンスター映画の美女」ではなくて、とんでもない状況の中でもめげず、挫けず、コングのまえでボードビル芸を披露してみせるガッツの持ち主。ラストシーン、銃撃されるコングを庇うため戦闘機に立ち向かう姿は、ほんとうに美しい。
続いて第2位。1963年の『青い山脈』で島崎雪子先生を演じた、芦川いづみです。原作は石坂洋次郎、5回も映画化された作品ですが、この芦川版島崎先生がジャストフィットだと思います。お話は、未だ旧弊な空気を残す地方の女子高を舞台に、新しい価値観を持つ女生徒と先生が周りの助けを借りながら、古い観念や因習と戦うというもの。
その後の学園ドラマにも影響を与えた作品ですが、「進取の気性を持ち、物怖じせず、かつ女性の優しさとかわいらしさを失わない」ヒロイン像と芦川いづみのイメージがぴったり。
そして第1位はトマス・ハーディの小説をロマン・ポランスキーが監督した『テス』の主演女優、ナスターシャ・キンスキー。1979年。こちらは逆境に抵抗する女性と言うより、不幸な宿命に押し流されていく悲劇のヒロインです。19世紀ヴィクトリア朝の風習と道徳が支配する農村に生きるテスの哀しさは、観るのが辛くなりますが、彼女は精一杯誠実に生きようとします。
最後にほんの短い至福の一夜を過ごした後、テスは殺人の罪を背負って絞首台の露と消えます。悲運に絡めとられながらも、自分らしく生きようとする主人公を、ナスターシャ・キンスキーがなんとも切なく、可憐に演じています。
ひらい・きいち
1982年、東京都生まれ。岐阜大学医学部卒業。現役医師。第19回『このミステリーがすごい!』大賞・文庫グランプリ受賞作『甘美なる誘拐』でデビュー。