私の○○ベスト３
Vol.58 小原晩 私の宝物短歌ベスト３
１位 歩道橋の上で西日を受けながら 自分yeah 自分yeah 自分yeah 自分yeah
（五島 諭）
２位 マーガリンの違いだったら知らねえなマーガリン野郎に訊けばいいだろ！
（工藤 吉生）
３位 「猫投げるくらいがなによ本気だして怒りゃハミガキしぼりきるわよ」
（穂村 弘）
宝物のようにとくべつな短歌を、こころのなかでつぶやく瞬間とともに発表します。
宝物度合いでいうと順不同になってしまいますので、つぶやく頻度が多い順に並べました。
三位 「猫投げるくらいがなによ本気だして怒りゃハミガキしぼりきるわよ」
恋人と喧嘩したあと、どうにもならないどうにもならない、とか思いながら皿を洗ったり、風呂を洗ったり、洗濯物を畳んだりしているとき、こころのなかでつぶやきます。
二位 マーガリンの違いだったら知らねえなマーガリン野郎に訊けばいいだろ！
友だちや、知り合いや、仕事関係のひとに、的を射た指摘をされたあと、夜道を歩きながらこころのなかでつぶやきます。
一位 歩道橋の上で西日を受けながら 自分yeah 自分yeah 自分yeah 自分yeah
祝うべき事柄があればすかさず、こころのなかでつぶやきます。
たとえば恋人と喧嘩したあとは「しつこかったかな」「でも伝えなきゃ伝わらないし」「かと言って伝えたかったように伝えられたかというとそうでもない」「もうだめなのか」「いやしかし」「だめってなにが」「それってどういう意味」などと頭のなかでうるさく話しはじめます。
たとえば他人に的を射た指摘をされたあとは「やっぱりわたしはくそ」「なにもできないくせにプライドばっかり高くして」「生き恥が飲むオレンジジュース」「治すにも治せない」「どうすれば他人に好いてもらえるのだろうか」などと頭のなかでうるさく話しはじめます。
たとえば祝うべき事柄があっても「でも、そんなのは一瞬のこと」「油断大敵」「光は長く続かない」「嘘かもしれない」「騙されているに決まっている」「ぬかよろこびにちがいない」などと頭のなかでうるさく話してしまいます。
そういう自分のうるさい声たちを、あっという間に吹き飛ばしてくれる短歌たちです。
小原晩（おばら・ばん）
1996年東京生まれ。2022年3月、初のエッセイ集となる『ここで唐揚げ弁当を食べないでください』を刊行。
【出典】
穂村弘. ラインマーカーズ The Best of Homura Hiroshi. 小学館. 2003.
工藤吉生. 世界で一番すばらしい俺. 短歌研究社. 2020.
五島諭. 緑の祠. 書肆侃侃房. 2013.
