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私の○○ベスト3
Vol.76 赤神 諒 私の「現代日本でちょっといいなと思った情景」最近のベスト3


1位 何といってもこの日、しんみりと……

2位 やっぱり、まじめで正直な……

3位 平和で、のどかで、ほんわりと……



昔からありそうで、現にまだあって、でも、もしかしたら消えてしまいそうな情景。ほんのり感傷的に、限りない哀惜を込めて。


3位
晩秋の金曜夜、ほろ酔い加減で、ふだんより街をゆったりと歩いて、帰宅の途中。
一軒家の洋風レストランから、電球色の灯りが漏れています。
その暖かみに、足を止めました。
詩情があって、無条件に好きな光景です。
窓越しに、常連と思しき5、6名の中年男女がテーブルを囲み、カウンターに立つお店の主人と談笑しています。
外まで笑い声は聞こえませんが、明日には忘れる他愛ない話かも知れません。
たまたま同じ時代に生まれ落ち、めぐり逢い、人生のひと時を楽しそうに共にしている人たちを見ると、幸せをおすそ分けしてもらえる気がするのです。



2位
うかつにも私はちょくちょく病気をするのですが、夏の終わりに医師から薬を処方され、町中の薬局で順番待ちをしていた時のことです。
向かいに座る若い男性に、白衣の女性が「本当に申し訳ありません」と頭を下げて、お詫びを始めました。
職業柄、小説に使えるネタかもと、耳を澄ませていますと、どうやら何年か前に会計ミスがあり、「いただき過ぎてしまったので、百三十円お返しいたします」という話でした。
男性は当惑気味に、「はい」と小銭を受け取っていました。
今回の会計時に、たまたま前回の間違いに気づいたのでしょう。
連日大量の詐欺メールを浴びせられ、犯罪報道が世を騒がす日常で、すがすがしい気持ちになりました。



1位
年末が近づき、街がクリスマスモードになり、さらに25日を境にお正月ムードへ変わってゆく。
この、現代日本ならではの情景が、子供の頃から好きでした。
サンタさんは本当はいないのだと知っても、通りや広場のライトアップに、澄んだ夜空の星々に、ワクワクしたものです。
やがて、門前にしめ縄や門松などが現れ、西洋から一気に和風へ。
年が暮れるまで、あと何日。
過ぎ去ってゆく年を惜しみながら、町をそぞろ歩き、どこからか寺鐘の音が響いてくると、やっぱりいいなと思うのです。




あかがみ・りょう
1972年京都府生まれ。上智大学教授、弁護士。2017年『大友二階崩れ』(「義と愛と」改題)で第9回日経小説大賞を受賞しデビュー。23年『はぐれ鴉』で第25回大藪春彦賞、24年『佐渡絢燗』で第13回日本歴史時代作家協会賞作品賞、第14回本屋が選ぶ時代小説大賞を受賞。近著に『友よ』『誾(ぎん)』『火山に馳す 浅間大変秘抄』『碧血の碑』などがある。