私の○○ベスト3
Vol.78 金子玲介 私の好きな「ベスト3」ベスト3
第1位 「第3位」
第2位 「第1位」
第3位 「第2位」
1位がいちばん良いとは限らない。人生の折々で、さまざまな順位付けにさらされてきたが、当然ながら1位を獲り続けられるわけもなく、1位も2位も3位も4位も5位も、100位や1000位や10000位にだって、それぞれの「良さ」があるはずと、私は信じてきた。そこで、大真面目に、私の好きな「ベスト3」ベスト3を発表したい。
第3位 「第2位」
最も悔しい順位である。私はデビューまでの公募歴が長く、六度目の最終候補でようやく世に出ることが叶ったが、うち三度が次点、すなわち2位評価での落選であり、その傷は今も癒えていない。幻を掴んだ感覚は、人生に深く根ざし、他のあらゆる順位とは比べ物にならない悔しさが残る。2位の痛みは、その後1位を獲ったとしても、完全には払拭できない。あまりにも悔しい記憶ばかりが蘇るので『第3位』に選出したが、その痛みがなければ、ここまで来られなかっただろうとも思う。
第2位 「第1位」
最も美しい順位である。誰もが目指す栄光であり、人生が輝く瞬間ではあるのだが、問題はそれを味わった後にある。まず、1位を獲った後の推移が、維持か下降しか残されていない点が、非常に厳しい。もちろん、連覇の喜びは代えがたいものがあるだろうが、王者として挑む重圧は計り知れない。重圧を回避し、次の勝負を避けた先に待つは、虚無感である。歓喜と虚無を併せ持つ美しさが、「第1位」にはある。
第1位 「第3位」
最も劇的な順位である。この世のあらゆる事象が「ベスト3」で語られがちだが、そこにかろうじて滑り込んだのが3位であり、喜びと悔しさが理想的なバランスで配合されている。たとえばトーナメントの場合、準決勝で負けた後、3位決定戦に勝つと3位が与えられる。一度味わった悔しさが晴らされた結果の順位であり、喜びもひとしおである。3位には、2位ほどの痛みも、1位ほどの虚無感もなく、滑り込んだドラマ性、ちょうどいい達成感、ちょうどいい悔しさがあるため、『第1位』に選出した。
ということで、「第2位」が第3位、「第1位」が第2位、「第3位」が第1位と決まった。「第3位」が第1位ということは、「第1位」が第2位なのだから、実質的には「第3位」が『第2位』となるが、「第2位」が第3位なのだから、実質的には『第3位』になるわけで、しかし「第3位」が第1位なのだから、すなわち『第1位』となり――螺旋を描き、あらゆる順位が、無限に上昇していく。たとえ何位であっても、そこにはあなたの成果が、あなた以外の想いが、揺るぎない価値が、未来への光が、必ず含まれている。人は一生、順位付けから逃れられない。無限に続く螺旋を、昇ったり、降りたり、笑ったり、泣いたり、はみ出したり、ぶら下がったりしながら、死ぬまで楽しく生きていたい。
かねこ・れいすけ
1993年神奈川県生まれ。慶應義塾大学卒業。2023年、『死んだ山田と教室』で第65回メフィスト賞を受賞しデビュー。24年に刊行された同作はブランチBOOK大賞2024を受賞、2025年本屋大賞にもノミネートされた。ほかの著書に『死んだ石井の大群』『死んだ木村を上演』がある。25年5月に四冊目の単著『流星と吐き気』を刊行予定。