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柴田亜美の「浮世の氣楽絵」
第6回 「蛙の子」

蛙の子

「亜美さん、もうそろそろ蛙から卒業なさい。」
 仕事部屋に所狭しと置かれた蛙のグッズを見て、母から呆れ果てた口調で言われたのはもう20年以上前になろうか。
 子供の頃は狸の置物を集めるのが好きだったのだけれど、大人になって、いや漫画家になって無性に蛙に惹かれるようになり、蛙グッズ収集癖が発動した。玩具や民芸品はもちろん食器や文具といった日用品、高級ブランドのクリスタル製品まで、博物館でも開くのかという勢いだった。その後今の住まいに引っ越して整理したのでだいぶ数は減ったが、それでも家の中のあちこちに蛙グッズが潜んでいる。

 そもそも今の住まいを購入する決め手となったのも蛙である。飽きっぽい性格あまり一つの処にとどまらずに賃貸で数年おきに引っ越しを繰り返していたが、周りからそろそろ家でも買って1カ所に落ち着けと勧められ、めんどくさいなあと思いつつ仕事の合間に家探しを。
 何軒か候補を見て回ったけれど、これといった決め手がなく、もういっそ遊牧民のごとく各地を転々とした暮らしをするか半ばヤケになっていたところで、ふとある神社に目がいった。
 そこにはドーンと立派なガマガエルの石像が。
「よし!この地に住もう!!」
 と、いうわけで『かえるさん石像』に導かれ、この像を祀っている麻布十番の十番稲荷神社近くのマンションを購入しもう20年近く住んでいる。

 住み始めて知ったのが、麻布という土地は蛙と縁深く『がま池伝説』なる言い伝えが残っている。いくつかの説はあるが簡単に説明すると、麻布一帯が大火事になった時に『がま池』のほとりの屋敷のみが池に棲む大蛙が口から水をふいて猛火を吹き消し難を免れたとのこと。その故事に因んだ『かえる御守』は今でも十番稲荷神社で授与されている。 大火事を消すほどの巨大蛙に守られているとは、これほど蛙好きにふさわしい土地はない。

 このような経緯で購入した住まいに、前の住居からの家財道具を運び入れる時、引っ越し作業の手伝いに来ていた母が大量の蛙グッズの中からラリックのイボイボのクリスタルガエルを手に取り、「これいいわね。私イボガエルのこのイボイボが子供の頃大好きで触ってかぶれちゃってたの。」と愛おしそうに撫でているではないか。そんな話は初めて聞いたので驚いた。なんだ、私の蛙好きは遺伝か。
 蛙の子は蛙だったのね。



蛙の子 アクリル、キャンバス 4F 2025年