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柴田亜美の「浮世の氣楽絵」
第9回 「因幡の白兎」

 中学の時、すでに学年で1番絵が上手いと言われていたが、歯磨き週間ポスターコンクールで2位だった。私は当時話題の映画『ジョーズ』の鮫が牙を剥いている絵を描いた。1位を取ったのは、『ピーターラビット』の可愛い兎がレタスを齧っている絵だった。鮫の方が歯は強いけど食べるモノが良くなかったのだろうか。

 鮫と兎といえば古事記に記された『因幡の白兎』の話が有名だ。隠岐の島に住む白兎が因幡の国へ行くために、兎と鮫どちらの仲間の数が多いか比べようとワニザメ達を騙し向こう岸まで並べさせ、その背をピョンピョンと渡っていった。
 もう少しで岸に着こうという時に、嬉しさのあまり口を滑らせワニザメに騙した事を白状してしまう。怒ったワニザメは白兎の体中の毛をむしり取ってしまった。その後あれやこれやあって、大国主命[おおくにぬしのみこと](大黒様)に真水で体を洗い蒲の穂を付けるという治療法を教えてもらい白兎の毛は元通りとなり、その恩返しに白兎の取り持った縁で大国主命は因幡国の八上姫[やかみひめ]と結婚するのである。古代医療とラブストーリーが織り混ざった素敵な神話だ。

 画家になって兎の絵も描くようになったので、『因幡の白兎』の舞台でもある鳥取県の白兎神社[はくとじんじゃ]に取材に行ってきた。大国主と八上姫の縁結びの神様といわれている白兎に因み、こちらの神社は2010年に「恋人の聖地」に認定されたそうだ。
 神社の階段下にあるピンクの郵便ポストには、兎と大きなハートマークがこれまたピンクで描かれている。恋人の聖地だけあって、カップルやご夫婦が多い。歯磨きポスターで人喰い鮫を描く独身女が来てしまって申し訳ない気持ちにすらなる。

 鳥取には八頭町[やずちょう]にもう一つの白兎神社がある。こちらは海岸沿いにある白兎神社とは真逆で山の白兎伝説の神社である。神代の頃、この地域の山に天照大神が降臨された時に現れ道案内を務めた白兎を祀った神社だそうだ。
 二つの白兎神社を巡ってみて、かつて鳥取県東部を占めていた因幡の地では、いにしえより兎を神の使いとした白兎神の信仰が脈々と息づいているのだなぁと感じた。可愛さだけで私の鮫のポスターに勝ちおってと捻くれていた事が恥ずかしい。

 帰りに因幡の白兎を助けた大国主を祀った出雲大社にも立ち寄った。こちらの広い境内には至る所に数多くの兎の石像が。
 あまりの愛らしさにスマホのバッテリーが残り少なくなるまで撮影しまくった。うん、やはり兎の可愛らしさには敵わないや。




因幡の白兎 アクリル、キャンバス 40× 20cm 2025 年