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柴田亜美の「浮世の氣楽絵」
第12回 「冬の屋久島」

 南の島に行こう!
『南国少年パプワくん』の絵本制作が決まり南の島へ取材に行く事にした。
 パプワ島は絶海の孤島の設定だ。沖縄もいいがより原生な島、そうだ屋久島だ。
 そう息巻いて、単身いざ屋久島へ。しかし時期を誤った。1月、こんこんと降りしきる雪の中、樹齢3千年の紀元杉の前で私は寒さに震えながら立ちつくしていた。
 屋久島は南の島だから年中暖かいだろうというのは大きな思い違いだった。高い山々が 連なる屋久島は『洋上のアルプス』との異名を持ち、海岸部と山頂で10℃以上の気温差がある。標高1700m以上の山頂付近では2~3mもの雪が積もることもあるそうだ。南国少年どころじゃない。
 このままでは凍りついてしまうので、ガイドさんに下山を促し、車を出していただいた。海岸沿いまで降りるとハイビスカスが咲いていた。亜熱帯植物のガジュマルの木も多い。北海道からいきなり沖縄に来た気分だ。屋久島は海岸部は亜熱帯に近く、山頂部は亜寒帯に近いので、その気温の変化にしたがって南から北へと多様な植生の垂直分布が見られる。そもそもが亜熱帯の植物だけを目的とした取材旅行であったが、下調べの甘さから雪が積もる屋久杉を眺める事となった。
 屋久島滞在中にもう一つの季節違いの体験が。
 初日に宮之浦でフラリと立ち寄った『屋久島うみがめ館』の方に、屋久島に産卵にやって来るウミガメの話を伺うことができた。毎年国内に上陸するウミガメの約半数が屋久島で産卵を行うぐらい、屋久島はウミガメの産卵地として重要な場所らしい。屋久島での産卵期間は4月下旬から8月上旬頃までだそうで、次に島に来るときはその時期を選ぶと浜辺で産卵を見る事ができるかもしれないと勧められた。
 翌々日の朝、うみがめ館の方から連絡が来た。なんと季節外れにアオウミガメが産卵に来たので、今から海辺に行けば見れるかもとの事。車でホテルに迎えに来ていただき産卵場所に駆けつけたが、タッチの差で何時間もかけた産卵を終え母亀は海に戻って行った後。しかし、産みたての卵を確認し安全のため別の場所に移すという作業のお手伝いをする事に。袋に入れられた50個ほどのアオウミガメの卵を慎重にそろりそろりと運ぶ。
 南国の島で極彩色な植物の取材をするはずだったが、屋久島の思い出は真っ白な雪景色の中の屋久杉と真っ白なウミガメの卵となった。でもそれもきっと物語の貴重なエピソードとなるだろう。



屋久島 アクリル、キャンバス 4F 2026年