『名探偵誕生』刊行記念 似鳥鶏×芦沢央×wataboku トークセッション
思春期男子を描いたら日本一!? 似鳥鶏の新たな代表作誕生
似鳥鶏さんの最新刊『名探偵誕生』(実業之日本社刊)は、ミステリーとしての読み応えと、青春小説としてのきらめきが凝縮された作品。刊行を記念してデビュー前から親交のある作家・芦沢央さんと、創作の舞台裏について語り合いました。印象的な装画を担当したデジタルアーティストのwatabokuさんも登場!
本稿は、2018年5月26日に書泉ブックタワーで行われたトークイベントの採録です。
構成・撮影/Webジェイノベル編集部
◆ミステリー作家はいい加減?
似鳥:我々ミステリー作家は、案外いい加減な人が多いですよね。名探偵の推理のように、実生活もきちんと計画通りに遂行していると思われることもありますが。芦沢さんも私も方向音痴で、芦沢さんは、ホームに電車が来たら、逆方向でも乗っちゃうレベルだとか。
芦沢:まず行先表示はみませんね。来た電車が、運命(笑)。
(似鳥注:本当に来た電車に迷わず乗るので、慌てて止めたことがある。)
似鳥:計画より運命。それくらいいい加減な人種なので、小説を作るとき緻密な構成を考えているかと聞かれると困りますね。
芦沢:でも、似鳥さんはプロットを作ってから書き始めるタイプですよね?
似鳥:はい。プロットは作り込む方だと思いますが、なかなか予定通りにいきません。ある登場人物を物語の後半で活躍させるつもりだったのに、序盤で死んでしまうことがある。「せっかく3ページもプロフィール作ったのにもったいない」と。ただそういう時、無理やり生かそうとすると、ろくなことになりません。小説には、目に見えない流れがありますね。
芦沢:確かに。この『名探偵誕生』のすごいところは、本格ミステリーの結構を保ってトリックをふんだんに盛り込みながらも、青春小説としての抒情性があるところだと思います。この両立はすごく難しいことで。
似鳥:ありがとうございます。
◆「お姉ちゃん」の妄想が膨らみすぎて……
芦沢:『名探偵誕生』は、主人公の男の子・瑞人が、隣に住む千歳お姉ちゃんに憧れるわけですが、お姉ちゃんが推理をすればするほど、瑞人から遠ざかって手の届かない存在になっていく。この絶妙な設定は発明だと思いました。だからこそ、ミステリーが進展するにつれて、抒情性や切なさが醸し出されてくる。これは、最初から意図していたことなのでしょうか?
似鳥:瑞人は「恋するワトソン」なんです。本家のホームズは言ってみればダメ人間で、ダメ人間につきあうワトソン、というところに萌えるポイントがあるわけですが、これは珍しい例で。通常、ミステリーにおいて「名探偵」は、頭が良くて知識豊富、腕っぷしも強い。そういう人間を、側にいる人がどう見ているのかを書きたい、というのが出発点でした。あと、単純に、年上好き、という私の好みで……(小声)。
芦沢:そうでしたか!(笑)
似鳥:実は、原稿を書き始めた頃は、私の「理想の隣のお姉ちゃん」の妄想が膨らみすぎて、やばかったんです。
芦沢:それはそれで、読んでみたい(笑)。
似鳥:最終的に妄想にブレーキをかけて、千歳お姉ちゃんのキャラクターを作り込んでいきました。身近にモデルがいるわけではありません。
(似鳥注:身近ではないが、微妙に宮部みゆき先生の要素が入っているような……。)
芦沢:こんな人はなかなかいないですよね。
似鳥:はい。でも、小中学校の頃は、友だちのお姉ちゃんを好きになったり、教育実習生に憧れたり、ということは誰しも経験しますよね。
芦沢:実は私、経験ないんですよ。女子校だったので、男子の思春期の様子は読んでいて新鮮でした。それなのに、同時にどこか懐かしい気持ちになるのが不思議です。
似鳥:『名探偵誕生』では、主人公の瑞人が小学生、中学生、高校生と成長していきます。第一話、小学校時代に幽霊団地に探検に行く話は、ほぼ私の実体験なので、リアリティがあるのかもしれません。小学生の頃は、自転車で行動できる範囲が世界のすべて。街はずれの踏切が世界の果てだった。この世界観を書くのはとても楽しかったです。第一話を読んだ担当編集者の方が「似鳥版スタンドバイミー」と評してくれて。羽生結弦に似ていると言われたときと同じくらい調子に乗りました(笑)。
芦沢:大人が読むと、小・中・高・大と順に追体験できますね。似鳥作品の主人公は、正義感が強くて行動力のある人物が多いですが、瑞人は人間的な弱さも含めてその時々の等身大の姿で描かれています。
似鳥:はい。たとえば市立高校シリーズの主人公・葉山くんは、ある事情があって、すごくしっかりしているのですが、瑞人はもう少し自分自身に近づけて書いてみました。こんな至らないところの多い主人公を書いたのは初めてかもしれません。
◆トリックが生まれる意外な方法
芦沢:最終話は、クローズドサークルの事件が起きます。『名探偵誕生』に限らず、似鳥作品はトリックが非常に多彩ですが、どのようなときに思いつくのですか?
似鳥:散歩しているとき、猫と戯れているとき、不意に雷のように天啓が降ってきて……なんていうのは、嘘っぱちです(笑)。私の場合は、ほかの作家さんのミステリーを読んでいるときですね。推理しながら読み進め、作中の解決法のほかに、別の解決法を見出すようにしています。
(似鳥注:解決法が2つ思い浮かぶまで解決編を読まないのである。2つ浮かべば、1つが正解でももう1つは自分のものになる!)
芦沢:その読書法は、常に自分に課しているのですか?
似鳥:はい。ミステリー短編を10話読めば、新しい10のトリックを思いつきます。とはいえ、たくさんネタがあっても全部使えるわけではない。本格ミステリーを書く難しさは、トリックを考えることではありません。変わった方法で殺人が起きた場合に、犯人はなぜ平凡な方法で殺さなかったのか、を解決するのが難しい。それに作品のテーマに合ったトリックでないと「ただトリックをやっただけ」になってしまうわけで、そこも解決できないといけません。『名探偵誕生』は、小学生のときは小学生らしい、高校生のときは高校生らしいトリックを選びました。
芦沢:トリックありきではなく、物語がまず先にあったのですね。ミステリー作家としては比較的珍しい方じゃないですか?
似鳥:はい。私も普段はトリックが先なので、今回はチャレンジでした。
◆思春期男子のリアル
芦沢:以前、映画を観ているとネタを思いつく、ともおっしゃっていましたよね。
似鳥:「君の名は。」を観たときは恋愛もののネタを5~6個思いつき、一緒に観ていた人に「ずっとメモしてたけど、映画観てた?」と聞かれました(笑)。
(似鳥注:「シン・ゴジラ」の時は1個もメモをとらず、ただ感心していただけだった。)
芦沢:題材には困らないわけですね。
似鳥:書きたいことは尽きないです。ただ、そのときに来る出版社からの依頼と必ずしもマッチするわけではなく。『名探偵誕生』は、青春と恋愛の話で、ちょうどタイミングが合いました。教室のカーテンにくるまってぐるぐる巻きになるとか、アホな男子の生態も、かねてから書きたかったことでして、「こういう奴いたいた!」と思ってもらえるかなと。あ、芦沢さんは女子校でしたね。
芦沢:描写がとても魅力的なので、読みながら「いるいる!」と経験しているような気がしました。
似鳥:それは良かった。男子の野蛮さの程度は学校によってそれぞれでしょうが、私の頃は……(以降、無鉄砲な中学男子の実例を列挙)。
(似鳥注:小学校の頃、滑り台の上に皆でぶら下がり、鬼がその脚をつかんで引きずり下ろす「ワニ鬼」という遊びがあった。皆も鬼に引きずり下ろされないよう、鬼を本気で蹴落とす。なぜ怪我人が出なかったのだろう。いや、出たのに忘れているだけか。)
芦沢:いやぁ、怖いですね。 会場にいる男性のみなさん、よくぞ無事にここまで成長されて(笑)!『名探偵誕生』は、お姉ちゃんの匂いにムラムラしちゃうような、思春期特有の描写にも、リアリティがありましたね。「似鳥さん、そこまで書くの!」と驚きました。
似鳥:いやいや、私ではなく、男子一般のことですから(笑)。でもあの年代をしっかり描くには、避けてはいけない部分だと考えていました。
芦沢:それぞれの年代の「視野の狭さ」も丁寧に描かれていて、主人公の世界が広がり成長していく過程が、作品の根幹にもかかわっていて……おっと、これ以上話すとネタバレしてしまいそうですね(汗)。
――気になる方は、是非読んでみてください。ところで、芦沢さんの方も、新刊『火のないところに煙は』が、新潮社から間もなく発売されます。
似鳥:ゲラを読ませていただいたんですが、いやぁ、怖かった! でも嫌な怖さじゃないんです。ホラーかと思ったらミステリーで、ミステリーかと思って読み進めていくと最後に「!!!」となる。ホラーとミステリーが変幻自在に入れ替わり、短編の面白さが堪能できる傑作です。「短編の女王・芦沢」と呼びたいと、改めて実感しました。
(似鳥注:マジで怖い上に予想を裏切る展開になる。)
◆装画誕生秘話
――ここで、特別ゲストとして『名探偵誕生』の装画を担当したwatabokuさん登場です。
似鳥:『名探偵誕生』の装画は、似鳥史上かつてない美少年です。少年を描くのはお好きなのですか?
wataboku:実は、作品として描いたのは初めてです。
似鳥:どこか耽美な感じもあってとても美しいですが、どのような流れで描いていかれたのですか?
wataboku:ミステリアスな中にも美しさのある雰囲気がまず浮かびました。そこから、暗闇のなか、青い光と赤い炎で人物が浮かび上がるイメージを作り上げていきました。
似鳥:主人公の瑞人を描いてくださったのだと思うのですが、外見はどのように固めていったのでしょうか。
wataboku:最初に原稿を拝読したときは、優しくてちょっと華奢な少年をイメージしました。描き込んでいくなかで、彼が心に秘めた強い意志を表現するために、眉毛と目の距離や、白目と黒目のバランスなどを調整していきました。普段、男性を描くことがなかったので、自分のなかには「理想の男性の顔」はないのです。今回は、考えながら手探りしていきました。
似鳥:目に非常に力がありますよね。
wataboku:基本的には優しい少年ですが、このシーンに関しては、大きな決意をするイメージで描きました。
似鳥:苦労された点はありますか?
wataboku:最初のラフでは、やや顎を上にあげて、前を見下ろすような構図でしたが、顔の角度を下げてはどうか、という相談を編集者の方から受けました。ディテールの修正と違って、角度の修正は全体にかかわるので少し大変でした。
(似鳥注:この注文を出したのは似鳥。本当にありがとうございました。)
芦沢:このアナザーカバー も素敵です。お宝になりそうです。
似鳥:小説を最後まで読んでから、このふたつのカバーを改めて眺めると、わかることがあると思いますので、どうぞお楽しみに。
◆トークショー参加者からの質問
――それでは質問コーナーにまいります。事前にご参加の皆さまから、質問をいただいていますので、よろしくお願いします。
Q:似鳥作品には個性的な登場人物が出てきます。彼らの性格はどうやって決めるのですか?
似鳥:私のキャラクターの作り方の基本は「漫才」です。主人公が常識人なら相方がボケになります。この主人公に対して、どうやってツッコむかと考えつつ性格を肉付けしていきます。
芦沢:簡単に漫才といいますが、人を笑わせるのは泣かせるよりずっと難しい。
似鳥:笑いは怖いですよね。上滑りしがちなので。自分のデビュー作などは読み返すと赤面してしまいます。
Q:芦沢さんだけが知っている似鳥さんのエピソードをお願いします。
芦沢:似鳥さんは千葉大学の先輩で、作家デビューする前からの知り合いなんです。友人何人かでスーパーに行ったときに、店内で迷子になっている男の子がいた。そうしたら似鳥さんはためらいなく「どうしたの? 大丈夫?」と男の子に声をかけすぐさま「お母さーん!」と周囲を探し始めた。対応が本当に早くて。似鳥作品に登場する正義感と行動力がある男前は、まさに似鳥さんなんです。
似鳥:一時期学童保育で働いたことがあるので、非常に慣れていまして。
Q:一日の執筆時間はどのくらいですか? どこで書いていますか?
似鳥:私は9時に仕事を始めて、18時にはいったん終了。勤め人とほぼ同じです。書いているところを見られると恥ずかしいので、自宅です。一度、デパートの駐車場に車を停めて集中して書いていたとき、無意識にのけぞったり転がったりしていたようで、通行人にギョッとされました。
芦沢:私は朝が早くて、3時に起床して執筆します。7時ごろに家族が起きてきたら中断して、また夕方まで机に向かいます。出産を機に、机の前に座ったら瞬間的に切り替えられるようになりました。
wataboku:僕も寝るのは早いです。今フリーになったばかりなので、ペースを作っているところです。
Q:似鳥さんに質問です。市立高校シリーズの続きはいつ出ますか?
似鳥:東京創元社というところは、著者を急かさないことで有名でして。その中でもとくに急かさなくて有名なK原さんをして、「そろそろどうですか」と言わしめています。私も次を書きたくて仕方ありません。いつとお約束できませんが、楽しみにお待ちください。
Q:執筆中に煮詰まったときはどう気分転換しますか?
似鳥:気分転換は特にしません。
wataboku:煮詰まったときは描きません。お酒を飲んだり。別のことをしますね。
芦沢:電動自転車の電気をオフにして、負荷がかかる状態にして自転車で走ります。あの重いけれど進む感じが、思考するときに合っているような気がして。
Q:タイトルやキーフレーズなど、着想のきっかけはありますか?
似鳥:さきほどのトリックの話と同じで、他人のタイトルを見て……(笑)。絵が好きなので、絵画のタイトルからヒントを得ることもあります。『名探偵誕生』や『戦力外捜査官』は、仮タイトルがそのまま本タイトルになりました。
(似鳥注:いずれも担当編集者の提案。そういう時は売れる。編集者ってすごい。)
芦沢:私は、最初はあえてタイトルをつけず書き進め、原稿が9割方仕上がったあたりで、「これだ」というタイトルが浮かびます。読者にとって、タイトルは最初に目に入るもの。物語の1行目のような存在です。同時に、読み終わって本を閉じたときに目に入るものでもある。1行目として読んだときと、最終行として読んだときで、違う景色が見えるように、といつも考えています。
Q:登場人物にモデルはいますか?
似鳥:まるごとのモデルはいません。友人の会話をセリフのモデルにすることはあります。
wataboku:昔の友人を参考にして描くことはあります。
Q:ミステリーに登場するとしたら、どんな役回りがいいですか?
似鳥:殺される人と、犯人にはなりたくありませんね。殺人鬼がいるところになんか居られるか! と言って一人で過ごしそう。
芦沢:そして殺されるパターン(笑)。
似鳥:芦沢さんは生き残りそうですね。
(似鳥注:どこにでも飛び込んでいって危機に遭うけど悪運が強く生き残る、気がする。主人公ということだろうか。)
Q:小説で書きたい異性のタイプは?
似鳥:『名探偵誕生』の千歳お姉ちゃんが、まさにそのタイプです。
芦沢:すごくダメだけど才能のある男性。いま恋愛ものとして書いています。
Q:お互いの作品で好きなものは?
似鳥:『許されようとは思いません』。近年なかなかないハイクオリティな短編集です。米澤穂信先生の『満願』に匹敵する。
芦沢:私は『彼女の色に届くまで』が好きです。
似鳥:ありがとうございます。これも才能のある人とない人の話なので、『名探偵誕生』の姉妹編ともいえるかもしれません。
Q:ご自身に名探偵の要素はありますか?
芦沢:似鳥さんは、いつも推理してますよね。歩いているときも「なんでこんなところに電柱があるんだろう」とか。
似鳥:以前、芦沢さんのお宅にミステリー作家6人が集まったときに、お子さんの靴下が片方なくなったことがありました。そのときに全員で行方を推理したけれど、全員外れた(笑)。私自身、残念ながら名探偵の要素はないかもしれません。 (似鳥注:雁首揃えて「子供の手の届く高さだから」「物音はしなかった」などと推理を交わしたのに、その子の服の中から出てきた。全員失格である。)
Q:似鳥さんへの質問です。本文に注をつける基準はありますか?
似鳥:完全に気分ですね。「おっぱい星人」の注は今回で二度目かも。
Q:春から職場が変わり、長時間労働でつらい日々です。なにかアドバイスお願いします。
芦沢:つらいと口にすると「他の人はもっとつらい」と言われたりすることがあるかもしれないし、真面目な人ほど自分でもそう思ってしまいがちですよね。でも、あなたが今つらいと思っているのなら、誰になんと言われようと、それが事実。「この程度でつらいと思っちゃダメ」なんてまったく思わなくていいんです。できるだけ自分で自分を褒めてあげてほしい。つらいですよね、長時間労働は。
似鳥:多忙でもつらくても頑張ってしまう方は、その真面目さだけで職場の財産です。あなたが頑張りすぎて動けなくなったら、職場にとっても損失です。職場のためと思って、適度にサボるのが大事。サボるのも自分を褒めるのも、メンテナンスのひとつだと思って……。
Q:人生の目的は何ですか。そのために今何をしていますか。
似鳥:生きているうちに、できるだけ色々な経験をしたい。人間は知覚が発達していて優れた能力を持っている。その人間の形でいられるのはたかだか数十年ですので、その間は人間でなければできないことをたくさんやりたい。そのために、なるべく色々な所に出向き、人と会うように心がけています。
wataboku:直接の答えになっていないかもしれませんが、人生でいちばん楽しいのは絵を描くこと。自分の人生から切り離せないです。
芦沢:私も小説を書くのが楽しい。目的ではなく手段に近いですね。私自身小説をたくさん読んで救われてきたので、どの作品も、生きづらさを抱えている方を肯定したい、という思いで書いています。
Q:日本語のプロとして、ら抜きことばをどう思いますか?
似鳥:地の文でら抜き言葉を使うことはありませんが、特定の人物のセリフで使用することはあります。
芦沢:私も同じです。本来は「○○している」が正しいですが、「○○してる」も登場人物らしさが出る場合は使います。
Q:執筆は手書きですか? パソコンですか?
似鳥:私はパソコンの一太郎で書いています。
芦沢:手書きでノートに一気に書き、パソコンで清書することが多いです。
Q:好きな作家は?
似鳥:一番影響を受けて大好きなのは星新一先生と筒井康隆先生です。デビュー後はやはり米澤穂信先生はよく読んでいます。書くのに詰まると、村上春樹先生を読んでから村上春樹のつもりで書いています(笑)。
芦沢:たくさんいますが、最近衝撃を受けたのは「オール讀物」2017年11月号に掲載されていた宮部みゆき先生の「絶対零度」という杉村シリーズのひとつ。私は、ふつうの人が罪を犯してしまう動機に興味があって書いていますが、「絶対零度」ではその部分はほとんど描かれていない。あえて犯人に寄り添わない矜持のようなものを感じました。私は今後も基本的には人物に寄り添うような小説を書いていくと思いますが、意図的に描かない、ということもやってみたいです。
似鳥鶏(にたどり・けい)
1981年千葉県生まれ。2006年『理由あって冬に出る』で第16回鮎川哲也賞に佳作入選し、デビュー。同作品を含む〈市立高校〉シリーズ(創元推理文庫)、〈楓ヶ丘動物園〉シリーズ(文春文庫)、ドラマ化された〈戦力外捜査官〉シリーズ(河出書房新社)、〈御子柴〉シリーズ(講談社タイガ)がいずれもロングセラーに。このほかの著書に『一〇一教室』(河出書房新社)、『レジまでの推理 本屋さんの名探偵』『100億人のヨリコさん』(ともに光文社)、『彼女の色に届くまで』(KADOKAWA)など。
芦沢央(あしざわ・よう)
1984年東京都生まれ。2012年『罪の余白』で第3回野性時代フロンティア文学賞を受賞してデビュー。同作が2015年に映画化され話題に。また、2017年には『許されようとは思いません』が第38回吉川英治文学新人賞の候補、2018年には「ただ、運が悪かっただけ」が第71回日本推理作家協会賞短編部門の候補になった。他の著書に『悪いものが、来ませんように』『今だけのあの子』『いつかの人質』『雨利終活写真館』『獏の耳たぶ』『バック・ステージ』がある。6月22日『火のないところに煙は』が新潮社より刊行。
wataboku(わたぼく)
2015年よりSNSなどで作品を発表し始める。2016年、初の画集『感0(かんぜろ)』を刊行、表参道ROCKETで初めての個展を開催。2018年にかけて、バンコク、シンガポール、ジャカルタなどアジア各地を巡回し大きな反響を呼ぶ。池田エライザや欅坂46のビジュアルワークなどでも知られる、いま注目のデジタルアーティスト。