似鳥鶏VS.額賀澪! 勝負を決めるのはあなた!
【〆切まであと30分 即興小説バトル】執筆作品
いま注目の作家ふたりが、即興小説でガチンコ勝負! くじ引きで決まったイラストレーション(画/wataboku)を見て、30分で小説を描きます。最初は余裕のあったふたりも、タイムリミットが近づいてくると……!?
【投票方法】
1、こちらのバトル動画を視聴お願いします
「〆切まであと30分 即興小説バトル」
2、30分で書きあがった小説を読んでみてください(このページ)
3、直感で「いいね」と思った方に投票をお願いします
『名探偵誕生』公式twitter
※投票期間:2018年9月9日(日)23:59まで
投票の結果、勝った方の小説を朗読劇にしてyoutubeで公開します。
●似鳥 鶏
「机と僕のない世界」
絶対に大丈夫なはずの時間だった。午前四時十分。昼の人間たちは眠り、夜の人間たちは疲れている時間。人のざわめきも車の音もなく、ただ鳥だけが鳴き交わす時間。こんな時間になぜ起きているのだ。なぜ仁王立ちなのだと思った。だが彼女の背後でやかましく騒ぐ鴉は状況を無駄に禍々しく見せ、風の冷たさに震える僕を余計に怖じ気づかせる。彼女はおそらく僕の接近に始めから気付いていた。奇襲は失敗だ。もう隠れても仕方がない。それならせめて、この強張った体をなんとかしなくてはならなかった。声を、出さなくては。
「……ずっと立ってたの? ご苦労様」
余裕たっぷりに皮肉をぶつけたつもりだったが、風の音にかき消されて彼女まで声が届いたかどうかも分からない。
だが彼女は笑った。この距離でも分かった。むこうは余裕なのだ。
「一人で来たんだ」意外、と付け加えた。「誰もついて来てくれなかったの? 黒川君は? 水戸部さんは? 中垣内先生はどうしたの? あれほどこのルールに反対していたのに」
「うるさい。僕の決断だ」ようやくちゃんと声が出た。「机、返してもらうぞ」
「誰の?」彼女は、今度ははっきりと声をたてて笑った。「きみ、消されて困る存在なんて、この学校にいたっけ?」
「知らない」拳を握る。「でも、クラスのみんなの存在許可は返してもらう。とにかく、駄目なんだ。もとに戻らないと」
●額賀 澪
「あなたの残響」
「……予想以上に酷いな」
一ヶ月ぶりに足を踏み入れた学校は、予想以上に酷い有様で。正門をくぐった僕は、堪らず足を止めた。
校舎こそ無事だけれど、校庭の隅にどこかから流れ着いた瓦礫が山になって、正面玄関に続く煉瓦道は隆起していた。それは校庭を横切るように続いていて、大きな生き物の爪痕みたいだった。何だか匂いも違う。僕の通っていた工業高校は、こんな匂いじゃなかったはずだ。鉄とオイルと……大量の汗の臭いに満ちた場所だったのに。どうやら一度海水に浸かったせいで、匂いまで綺麗さっぱり変わっちまったらしい。
隆起した地面は、易々と跨げそうなところもあれば、跳び箱くらいの高さのあるものもあった。近づいたらそこからぼろぼろと崩れてそのまま奈落の底へ落ちていくような気がして、あえて避けて歩いた。
グラウンドを大きく迂回する形で校舎を目指していたら、妙な音を聞いた。がしゃん、がしゃん、という硬いもの同士がぶつかり合って、擦れ合う音だった。
校庭の隅、海水に浸かって、雨風にもさらされて、もう廃棄されるのを待つだけになった机や椅子が山になっている。
その上に、人がいた。しかも、僕がよく知る人だった。
「綾子先輩、何してるんですか」
ぽーんとボールを投げるみたいに、そう問いかけてみる。逆光の中で振り返ったその人はやはり綾子先輩で、僕を見るなり「あ!」と声を上げて、僕の名前を呼んだ。
「鷹ちゃん、ちょうどいいときに来た!」
まるで、何もかもなかったみたいに。あの日までの日常がずーっとずーっと続いていて、これからも続いていくみたいに。
「ねえ、私の机、絶対ここにあるの。探すの手伝って」
どうやら、片思いしている同級生から借りた大事な本が、机の中にあるはずなのだという。
きっと海水でふやけてぼろぼろになっているだろうに。ていうか、流されてどこかにいっちゃったかもしれないのに。
それでも、どうしても探したいらしい。
いろんなものが流されちゃったんだから、せめて、まだ間に合うものは取り戻したい。
先輩の気持ちがよくわかったから、僕は彼女の机を探すのを手伝うことにした。