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いくら永劫回帰型キャラクターたちといえども中味はどんどん変わってゆかざるを得ない件   西澤保彦

12月の新刊 シリーズ最新作『逢魔が刻 腕貫探偵リブート』刊行に寄せて
いくら永劫回帰型キャラクターたちといえども中味はどんどん変わってゆかざるを得ない件 西澤保彦

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まさか自作中に、スマートフォン・アプリを登場させる、なんて日がやってこようとは……いやはや、我がことながら、ただもうびっくり、びっくり。なんの話かといいますと、拙著<腕貫探偵>シリーズの最新刊『逢魔が刻 腕貫探偵リブート』であります。同作に収録されている「マインド・ファック・キラー」は、異国人同士をランゲージパートナーとして引き合わせるスマホのマッチングアプリを介して知り合った男女グループ内で起きる連続殺人事件を描いている。

詳細はぜひご一読を賜りたいのですが、ここで憶い出すのは記念すべきシリーズ第一作「腕貫探偵登場」で、同作の主役である某男子大学生は「いまどき時代錯誤なくらい厳格な父親」に禁止されているという理由で、なんと、携帯電話を持っていなかったりする。驚きますでしょ? いまどき、いくらなんでもあり得ない事態だけれど、なにしろ収録されているシリーズ第一巻『腕貫探偵』の単行本(実業之日本社)は二〇〇五年七月刊行。いまから十四年も前です。当時の一般的な大学生間の携帯電話普及率がどの程度だったのかは不勉強にして知りませんが、おそらくは所有していないほうが既にして少数派ではあるまいかとの懸念があったのでしょう。作者としては安全策をとって、アナクロな頑固親父の存在という、ちょっと苦しい言い訳で理論武装していたわけです。

それが、いまやスマホが当然の時代。ガラケーですら作中に登場させる際には、おっかなびっくりだった頃とは、まさに隔世の感。とはいえ、わたしもようやくスマートフォンに切り換えたものの、実生活で利用しているのはラインくらいで、多種多様のアプリについて細かい描写ができる自信はありません。日進月歩のSNSなどの新しいソーシャルメディア、コミュニケーション・ツールの作中での取り扱いに関しては、まだまだ手探り状態が続きそうです。

こうした問題は、なにも小道具に留まらない。十五年近くも同じシリーズを書き続けていると、テクノロジーの進歩やライフスタイルの変化など、パラダイムシフトによる作中キャラクターたちへの影響は如何(いかん)ともし難い道理です。だいたい作者自身、人間である以上、日々変化を遂げているんだし。フィクション内での人物造形は不可避的に変容する。それに合わせて彼ら彼女たちも年齢を重ねるのならば話はまた別だけれど、往々にしておとなはおとな、子どもは子どものまま、というのがシリーズ・キャラクターたちの宿命なわけです。

本シリーズもまた然(しか)り。第一巻の後、続編の『腕貫探偵、残業中』、番外編の『必然という名の偶然』、長編版『モラトリアム・シアターproduced by腕貫探偵』、主役一旦退場かと思わせるキャッチィなタイトルの『探偵が腕貫を外すとき 腕貫探偵、巡回中』、そしてやっぱりの速攻復帰編『帰ってきた腕貫探偵』と、六冊も書き継いできてもなお腕貫さんは年齢不詳の公務員のまま。もちろんユリエも華の女子大生のまま。

七冊目の『逢魔が刻』の第一話では祖母の命令でお見合いなんかしてしまうユリエですが、それでも彼女がいつまで経っても二十歳そこそこの娘のままという、永劫(えいごう)回帰型の設定は変わらない。でも一話ごとに微妙に、そして確実に中味は変わってゆくんですね。彼女の取り巻きたちも数が増えてゆくのでそれぞれの関係性の多様性によってユリエの造形も膨らむいっぽう。そういえばお見合いした後、彼女が友人たちにメールを一斉送信することを示すくだりが出てきますが、このときはまだ作者がスマホではなかったことが丸判りです。いまならグループラインにする場面ですが、それはともかく。

いつまでも変わらないようでいて、一冊ごとに微妙に、ときに激しくゲシュタルト・チェンジしてゆく腕貫さんとユリエさんを今後ともどうかよろしくお願いいたします。

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本作品はこちらからためし読みが出来ます。
https://bpub.jp/web_viewer?cid=GKNB_BKB0500000516426_75