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12月の文庫新刊『仮面病棟』によせて
閉ざされた空間 知念実希人

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閉ざされた空間は多くの人を魅了する。

私は常々そう思ってきた。そのことは、エドガー・アラン・ポーが1841年に世界初の推理小説とも言われる『モルグ街の殺人』で密室殺人事件の謎を描いてから、すでに170年以上が経っているというのに、いまだに「密室の謎」が推理小説の中で重要なジャンルに位置づけられていることから明らかだろう。また同時に、アガサ・クリスティの『そして誰もいなくなった』に代表される、嵐の山荘や絶海の孤島等の外界からの往来が断たれた状態で事件が起こる、「クローズド・サークル」と呼称されるジャンルも「密室もの」と同様に根強い人気を誇っている。

小説の世界だけでなく、映画の中でも閉ざされた空間でストーリーが展開される名作は多く作られている。『CUBE』や『SAW』などのソリッドシチュエーションサスペンスがその代表だが、見方を変えればテロリストによってナカトミプラザビルに閉じ込められる『ダイ・ハード』や、12人の陪審員が一つの部屋でひたすら議論することで話が展開される『十二人の怒れる男』なども、「閉ざされた空間の魅力」を存分に味わうことができる作品だと思う。

多くの人々が、なぜこの閉ざされた空間で起こる物語に惹かれるのかというと、個人的には「制約が多いから」だと思っている。閉ざされた空間の中では、基本的に読者(または視聴者)が知らない外部からの影響を受けることなく、限られた人数の登場人物たちが事件に巻き込まれていく。そのことは、ストーリーに入り込む敷居を下げ、読者(または視聴者)がよりリアルに、そこで繰り広げられる事件を疑似体験することを可能にする。

さて、前置きが長くなってしまったが、私の新作『仮面病棟』も閉ざされた空間で起こるサスペンス小説となっている。

とある小さな療養病院に、バイトの当直医として主人公が勤務していると、ピエロのマスクをかぶった男が病院に押し入り、籠城する。拳銃を手に近くのコンビニで強盗をはたらいたその男は、逃亡中の人質にするつもりで撃ってしまったという若い女の治療を主人公に命じた。

ここまで読むと、よくある籠城犯とそれを説得する交渉人の物語かと思われるかもしれないが、そんなことはない。警察などの外部からの因子は(ほとんど)事件に影響を与えることなく、密室と化した病院内で、なぜか警察への通報をかたくなに拒む院長、怪しい行動を見せる強盗犯、治療した女性とともにどうにかして病院を脱出しようとする主人公。それぞれの思惑が交差しながら、物語は加速しつつ予想外の方向へと進んでいく。

一度読みはじめたら物語に入り込み、最後までページをめくる手が止まらなくなるような一冊に仕上がっていると自負している。

ぜひ『仮面病棟』を手にとって、閉ざされた空間で繰り広げられるサスペンスの魅力を堪能していただきたい。

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