24年11月の新刊 小原晩著『ここで唐揚げ弁当を食べないで下さい』刊行記念
『ここで唐揚げ弁当を食べないでください』を読んで 蓮見 翔(ダウ90000)
『ここで唐揚げ弁当を食べないでください』書店でタイトルだけ見てとりあえず買いました。読んだのは買ってから半年くらい経ってからで、引っ越し作業中に見つけて買ったことを思い出し、このあと捨てる椅子に座って読みました。自分の今までの生活が周りに散らばってたり仕舞われてたりするタイミングで読めたのがすごくラッキーな本だな、と思いました。(ちょうど作中に出てくる街に住んでたのもある)
人混みを歩いている時とか遠くにでっかい団地が見えてる時に、人生の数の多さに気付かされ、知りたくなることがあります。ほんとなら急に呼び止めたり、一部屋ずつインターホン押して聞いていきたいけどそうはいきません。でも本当はさっきすれ違った人の人生もきっと壮絶だったり劇的だったりしているはずで、でも仮に聞けたとしても本人が本人の魅力に気づいてなかったり、逆に周りが冷めるほど大袈裟に話し始める可能性もあって。他人のありのままの人生を覗き見できることって実はほとんどないんだと思います。事実を事実のまま書くのってすごく難しくて、色をつけたり隠したくなるし、何よりそのまま書いても全然面白くないことの方が多いので。
でもこの本は、すれ違ったことがありそうな人の人生が、おそらく等身大で書かれています。なのに面白いです。朝起きてたまに起きれなくて、働いて、友達と会ってご飯を食べてお酒を飲んで、誰かと出会って誰かと別れて、眠る。ほんとはみんなそれだけで、みんなそれが好きで、でもそこにある小さく感情が動く何かを結構見落としている。何にもいいことないなって思ってる人とか読んでみてください。あ、これ確かにいいことだわって気づけるものがたくさん詰まってます。僕はこの本を読んでから、外を歩く時に楽しいと思える瞬間がちょっとだけ増えました。
日常の中にある幸せや怒りを記憶して言葉にする能力が高い人が、本を書く職業を選んでくれたことが本当に嬉しいです。人を好きになるまでを、好きになったと書かずに言葉選びと順番だけで時間と感情が伝わるように書いてる人、なかなかいないと思います。めちゃくちゃシャイなのになんとかして自分の話をしているみたいなことなのでしょうか。実のところはわかりませんが、おかげさまで僕はインターホン押さずに済んでます。
蓮見 翔(はすみ・しょう)
1997年、東京生まれ。日本大学芸術学部映画学科卒業。
ダウ90000主宰。脚本家。演出家。
第2回演劇公演「旅館じゃないんだからさ」、第5回演劇公演「また点滅に戻るだけ」では、岸田國士戯曲賞の最終ノミネートにも残り注目を集めるほか、各メディアで活躍の幅を広げている。