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「猫と星と光。私の『好きなもの』がたくさん詰まった宝箱のような本」

村山早紀『街角ファンタジア』重版記念スペシャル鼎談
「猫と星と光。私の『好きなもの』がたくさん詰まった宝箱のような本」

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『街角ファンタジア』は「村山早紀史上、最愛の祈り」と称される珠玉の短編集。発売後約1週間で重版決定した本書は、美しく印象的なジャケットも注目の的です。そこで、著者の村山早紀さん、装画を担当したイラストレーターの三上唯さん(@mikamiyui_)、装幀家の岡本歌織さん(next door design)という、本作創生に尽力された皆さんを迎え、創作秘話や作品へのそれぞれの想いなどを大いに語っていただきました!

進行・まとめ/リッカロッカ  写真/国府田利光

写真左から順に、三上 唯さん、村山早紀さん、岡本歌織さん

◆「夢のタッグ」が組めた本

――『街角ファンタジア』発売から約1週間での重版決定、おめでとうございます! 大変嬉しいニュースでした! まずは完成した本をご覧になっての、皆さんのご感想はいかがでしたか?
村山早紀(以下/村山) 思ったとおり素敵な……どころではなく、想像以上に素晴らしい120点満点の本ができたので、これはもう三上さんと岡本さんのお陰だなあと、今しみじみ感動しています。
三上 唯(以下/三上) 私こそ、こんなに素敵なお仕事に誘っていただけて光栄です。自分の描いたイラストなので当然、絵そのものには見覚えがあるのですが(笑)、岡本さんのデザインで本の形になると、急に「ああ、これが『街角ファンタジア』なんだ」と実感が湧いて、すごく嬉しくなりました。
岡本歌織(以下/岡本) ブックデザインをしている以上、完成形は自分の頭の中にありますし、色校(※色校正/カバーや帯などのデザインデータを実際の紙に印刷し、色味などを確認する作業。ブックデザインの最終段階で、これをクリアすると実際の本の印刷に入る)で最終確認もしているのですが、やはり本の形になると胸にグッときますね。村山先生の作品にはこれまでも数多く参加させていただいているのですが、今回のご本は特に、三上さんのイラストの「光」が印象的で「(書店の)店頭映えするなあ」と感じました。
村山 岡本さんには、いつも本当にお世話になっております(笑)。
――イラストレーター、デザイナーの選定にも、村山先生が関わっていらっしゃる?
村山 はい。というかもう、ズバリ私が「三上さんと岡本さんで!」と担当編集さんにお願いした感じですね。今作においては、もう間違いなく最強タッグなんじゃないかなと。岡本さんのデザインには全幅の信頼をおいていますし、三上さんのイラストは、いつもXなどで拝見していて「素敵な絵を描かれる方だな、いつかお仕事でご一緒したいな」と思っていたので。
三上 編集さんからご連絡をいただいたとき、村山先生が私のイラストを気に入ってくださっていると聞きまして、とても嬉しくびっくりしました。これは期待に応えられるようないいイラストを描かなければ、と気合いが入りましたし、制作途中でデザイナーの岡本さんとも細かくイメージをご相談できて、楽しいお仕事でした。
岡本 村山先生は、いつもご自身の作品が本になるときのイメージを明確に持っていらっしゃるので、あとは「どれくらい先生の理想に近づけるか」というのを、関係者全員でさぐっていく感じですね。
三上 先生から直接、具体的なイメージをお伺いできるというのは、絵を描いていくうえでも、とてもありがたかったです。
村山 自作については、いつも自分自身が一番よくわかっているつもりなので、こちらから提供できる情報は、なるべく多く出していくスタンスなんです(笑)。

◆「こだわり」が作品世界を彩る

――最初のラフの段階から、この完成形の装画イメージが固まっていたのでしょうか?
岡本 「壮大さ」をキーワードに打ち合わせし、装画制作を開始していただきました。ラフの段階では採用されたバージョンのほかに、青系の別構図のものなどもあったのですが、最終的にはこの「マジックアワー」バージョンが採用になったんですよね。
村山 マジックアワーって、いいですよね。一日の終わりの魔法の時間。今回のイラストも、空の上の方から少し夜のとばりがおりかけていて、なんともいえない風情があって。
三上  そこはこだわりました(笑)。

村山 どのラフもとっても素敵で、実はかなり迷ったんです。でも、私の前作単行本(早川書房『さやかに星はきらめき』)のカバーが青系だったこともあって、そちらと反対色にしたら「もしも書店で並べて置いてもらえた場合、両方が互いを引き立て合うんじゃないかしら? そしたらたくさん売れるかも」なんて下心が浮かんでしまって(笑)。あとは刊行時期的に、クリスマスっぽい暖色系は読者さんの目をひくのでは? というひそかな戦略もあって、こちらのバージョンで仕上げていただくようにお願いしたんです。
三上 はい。方向性が決まったところで、今度は細部をどうするか決めていきました。ご依頼いただいた当初から「猫」「星」は絶対に外せない要素でしたので、そこは確定として、他の要素をどこへどう配置するかを色々と考えて。
村山 今回は1冊の本に5作品を収録した形ですので、それぞれのお話にまつわる要素をすべて入れていくと、かなりの量になってしまうんですよ。で、そこから1枚の絵に盛り込める要素をピックアップして仕上げていただいたのですが……完成したイラストを拝見すると、物語の世界が一枚の絵の中にしっかり描かれていて、「うーん、さすがは三上さん!」と唸るしかありませんでした。
岡本 表4(バーコードなどが印刷されているカバーの後ろ側)まで、物語の要素がしっかり入っていますよね。また通常の横長イラストですと、サイズの関係からそで(カバー両端の、書籍本体に折り返して内側に巻き込んでいる部分)まで絵が入らない場合も多いのですが、三上さんには今回、かなり横に長く描き延ばしていただいたので、そでまでぐるりとイラストを入れることができて、とてもかわいらしい仕上がりになったのではないかと思います。
村山 そうなんですよ。鳥や飛行機が飛んでいて、地上には灯台やクリスマスツリー、帯の下にある家々の灯りなども本当にかわいくてあたたかい雰囲気で、散らばる星々も吊り下げられたクリスマスオーナメントみたいで、もうずっと見ていられます。
三上 ありがとうございます! タイトルロゴがすごくかわいくて、私も感激してしまって……。「ファンタジア」の文字が山の稜線に沿うように置かれているのも素敵ですよね。
村山 そうそう! 「ジ」の濁点がお星さまみたいになっているとか、街角の「角」の右上あたりの色が星の光に照らされて薄くなっているとか、細かなこだわりがかわいらしくて、岡本さんらしいなと思いました。
岡本 ロゴは明朝体という書体をベースに、作品イメージに合わせて私のほうでいろいろと手を加えている感じです。たとえば、村山先生のおっしゃるように濁点部分の変更や、輪郭をわざと揺らしたり、文字の端にヒゲをつけたり粒を飛ばしたりという細工をほどこして、イラストとなじむように仕上げてみました。コンセプトは「オトナかわいい」「上品さをキープ」でしょうか。別丁扉(本文とは別の紙を使った書籍冒頭の扉部分)や各話の扉、奥付なども、かわいらしくしたのですが、いかがでしたか。
村山 完璧です。さすが岡本さんだ、と思いました。
岡本 デザイナー冥利につきます(笑)。

◆各話にこめた「想い」

――ここからは、村山先生への質問です。先生が『街角ファンタジア』を書こうと思ったきっかけはなんですか?
村山 まず、実業之日本社さんから「うちの文芸Webマガジンで連載してもらえないか」とご依頼いただいたのが最初なのですが、月1回連載ということで、じゃあ何を書こうか、と考えたんです。最近は国内外で気が滅入るような暗いニュースが多いですし、日々がせわしなく過ぎていくので、この小説を読む人たちの心も疲れていているのではないかと思いまして。
――はい。心、へとへとに疲れています……。
村山 ですよね(笑)。だから、読めば心が安らぐような、少しだけ気持ちが明るくなるような、でもリアル感はある不思議なお話を書きたいな、と。日常の中でふと出会える、それこそどこにでもある街の片隅で、ひそかに起きる奇跡とでもいうのでしょうか。ほかの誰にも気づかれないけれど、小さな奇跡が起きて、誰かの心が救われるファンタジーを書いてみようと思ったのが、きっかけですね。
――まさに『街角ファンタジア』ですね。
村山 そうなんです。連載を始めるにあたって、もうそのタイトルしかないと思いました。Web連載は、目的を持って購入された読者さんがいる雑誌連載と違って、通りがかった人がふと足を止めて読んでくれたりもするので、これもまた「街角」という言葉とうまくリンクしているなと感じましたね。あとは……これは媒体が紙かWebかはおそらく関係ないのですが、月イチで連載しているとXなどでリアルタイムで感想をいただく機会も増えて、そういう点でも楽しかったですね。やっぱり作家が小説を書いているタイミングと、本になって読者さんに読んでいただくまでの間には、通常はかなりタイムラグがあるものですから。連載してその間にも感想が聞こえてきたりすると、すごく嬉しいんですよ。ほめてもらえると頑張れる。次のお話はまた違うテイストで投げてみて「これどうかしら?」と読者さんとキャッチボールができている感じって、ワクワクするんですよね。これはきっと私だけでなく、創作者全般にいえることだとは思うんですけれど。
――今作の執筆時に起きた「ちょっとした特別なこと(=ファンタジア)」はありますか?
村山 そうですね、今回は私の中での特別なチャレンジのようなものが、実はふたつほどありました。ひとつは、3話めの「閏年の橋」で、イヤミス作家目線の物語に挑戦したことです。私、イヤミスを読むのは面白くて好きなのですが、自分では書いたことがないんですよ。それで今回、「閏年の橋」の主人公である清花に「憑依」して、イヤミス作家になりきってみたつもりなんですが……やっぱり難しかったですね。私には後味の悪い話は書けないなと思いました。作中の対比として「ほっこり系」という言葉が出てくるのですが、自分もどちらかといえば「そっち側」の作家なので(笑)。改めて私にはイヤミスは書けないのだなあ、と実感してしまいました。ただ、清花の作家としての悩みですとか、「基本的に自分の家の中だけで完結する生活」というのは、同じ職業作家としての「あるある」部分ですので、なかなかリアルな感じが出ているのではないかと思います。
――なるほど。それがひとつめのチャレンジなのですね。すると、もうひとつは……?
村山 5話めの「一番星の双子」に、人面瘡(じんめんそう)を出したことですね(笑)。作家人生初の人面瘡登場作品です。
――まさかの人面瘡!(笑)
村山 昔から妖怪や怪奇現象のたぐいが大好きで、中でも人面瘡には特別な思い入れがあったんですよ。たしか高階良子先生の、かなり古い作品だったと記憶しているのですが、女の子の体に人面瘡ができて喋る、という怖い漫画がありまして。そこで初めて人面瘡というものを認識したんですが、読んだ時の衝撃が尾をひいて「いつかは私も人面瘡が出てくるお話を書いてみたい」と、ずっと狙ってはいたんです。ええ、子どもの頃から。でも私の作風的に、ちょっと登場させる機会に恵まれなくて……。
――それは……普通はなかなか登場しないと思います(笑)。書いてみていかがでしたか?
村山 すっっごく、楽しかったです! 女性の膝に、女の子人格のおしゃべりでかわいらしい人面瘡がいるなんて、もうそれだけでインパクトがあるでしょう? 怖いのにどこか妙に面白い。魅力がありますよね。バディ物っぽくもあったり。

◆キーアニマルは「猫」

――『街角ファンタジア』に収録されている5作品には、すべて猫が登場しますね。
村山 はい。猫がキーパーソン、いえキーアニマル……マスコットアニマルかしら? 猫が好きなので、私の作品にはよく猫が登場するのですが、今回は執筆依頼をいただいた段階から、担当編集さんに「毎話、猫を登場させてください」というオーダーをもらっていましたので、すべてのお話に、かなり大切な役割を担って猫が登場するんです。
岡本 カバーにも必ず猫を、というオーダーでしたものね。
三上 そうでした。私も猫が大好きなので「おまかせください」という感じでしたが……。
村山 もちろん、それを存じ上げているので、こちらも「お願いします!」だったのですが(笑)。今作の猫たちは水先案内人というか、主人公たちの近くにいて、「不思議」と「現実」をつないでいるというイメージなんですよ。ふたつの世界の間に立つ者というか。
三上 すごくわかります。
岡本 猫といえば三上さんのイラストには、たしか仕上げの少し前くらいまで、表1左下の猫はいなかったんですよね。
三上 はい。右上で星に乗っているハチワレ猫だけでしたね。でも最後に、ここに大きめの猫さんがいたほうがいいなと思って……。
村山 私も、最終決定イラストを拝見したら、大きな後ろ姿があって驚いたんです。もうこの子の存在なしにはカバーを語れないっていうくらい大正解でしたね。
三上 喜んでいただけてホッとしました。
村山 なんだろう……三上さんのイラストを見ていると、優しくてあたたかくて、なんだか泣きたくなるような甘いにおいがしてくるんです。できたての焼き菓子のにおいというのかな。バニラとか、カステラとかそういうイメージがありますね。
岡本 わかります。焼きいものような……こう、皮のところが香ばしく焦げているような、懐かしくて愛しい空気が漂っていますね。
村山 焼きいも! なるほど、それもしっくりきちゃいました。甘くてあたたかい蜜いもですよね、きっと(笑)。イラストには食べ物は描かれていないのに、とにかく甘くて美味しそうなんですよ。
三上 焼き菓子、焼きいも……わぁ素敵な表現! とっても嬉しいです。

◆それぞれの「お気に入り」は?

――『街角ファンタジア』の5つの物語の中から、皆さんのイチオシ作品をひとつ挙げるとすると、どれでしょうか。
村山 おふたりのそれは、ぜひ聞いてみたかったんです。でも私が答えるとなると……うーん、どれかひとつに絞るのは難しいですね。5つともかわいい我が子ですので、みんな違って、みんないいんですよ。だから「全部『推し』です」と言わせてください。
三上 私は、「初めて読んだ村山先生の小説」という意味でも、1話めの「星降る街で」がとても心に残っています。先生の紡がれた5つのお話は、すべてに重みがあって、胸をぎゅっと掴まれるような、でもときどき会話やつぶやきにクスッと笑えるような、強くてやさしい物語ばかりで……繰り返しになってしまうのですが、このチームに参加できて本当に幸せでした。
岡本 実は私も「星降る街で」がイチオシなんです。この話が最初にあることで、『街角ファンタジア』の世界観がパッと見えた気がしたので。今さらですが、いつも素敵な物語を私たち読者に与えてくださって、ありがとうございます。
村山 わ、過分なお言葉をいただいてしまったわ。今後も精進いたします。
――最後にファンの皆さまへ、村山先生からひとこといただけますでしょうか。
村山 猫と星と光。私の「好きなもの」がたくさん詰まった宝箱のような本に、三上唯さんと岡本歌織さんが綺麗なドレスを着せてくれました。たくさんの素敵な本が並ぶ書店さんの店頭でも、ひときわ輝いて見える『街角ファンタジア』、クリスマスのおともにも最適ですので(笑)、書店さんで出会えたら、ぜひこのキラキラした「宝物」を持って帰っていただきたいな、楽しんでいただきたいなと思っています。どうぞよろしくお願いいたします。
――本日はありがとうございました!
(2024年11月  東京都内にて)

●プロフィール

村山早紀

村山早紀(むらやま・さき)
1963年長崎県生まれ。学生時代から新人賞への投稿を続け、卒業後、デビュー。1991年第15回毎日童話新人賞最優秀賞受賞。刊行された同作『ちいさいえりちゃん』にて、1994年第4 回椋鳩十児童文学賞を受賞。2017年『桜風堂ものがたり』、2018年『百貨の魔法』にて、本屋大賞にノミネート。児童文学「シェーラひめのぼうけん」シリーズなどから、50万部突破「コンビニたそがれ堂」シリーズなど大人向けファンタジーまで、多くの作品を手がける。著者Xアカウント/@nekoko24

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