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10月の文庫新刊『さくらだもん! 警視庁窓際捜査班』刊行に寄せて
はじまりは、編集長 加藤実秋

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「――なので加藤さんには、よりキャラクターに特化したものを書いていただきたいと思ってるんです。うちの編集長のSも同感で、『たとえば、〝桜田門のさくらちゃん〟みたいな』って言ってました」

「さくらちゃん!? なにそれ」

それがすべてのはじまりでした。今から四、五年前になるでしょうか。担当編集者のUさんとの、最初の打合せでの会話です。

その時はUさんが「なんかよくわからないんですけど、そう言ってました」と、ちょっと恥ずかしそうに答え、私が爆笑してお終い、だったのですが、「桜田門のさくらちゃん」というフレーズのインパクトは大きく、後日他社の編集者と会う度に、「そうそう。実業之日本社のSさんが~」と話題に出したところ、揃って「なんですか、それ!?」と大ウケ。だんだん「これって『つかみはOK』ってやつ? この企画、イケるかも」と思うようになったのです。しかし当時は具体的なキャラクターや設定などは浮かばず、あっという間に数年が経過してしまいました。

そして、一昨年の冬。自宅で、たぶん掃除中だったと記憶しています。「インディゴの夜」や「アー・ユー・テディ?」など、他の作品の時と同じ様に「そうだ! 警視庁の事務職員ってどうだろう」とアイデアが降って来たのです。すぐさまパソコンに走り、思いの丈を書き綴った、というより書き殴ったメールをUさんに送りました。あの時は夢中でしたが、音信不通だった作家からいきなりハイテンション、しかも長文のメールが届いたのですから、Uさんはさぞや戸惑われたと思います……。

しかし、さすがは実業之日本社。すぐに準備を整えて下さり、数回の打合せを経て、噂の編集長(当時)Sさんにもお目にかかり、昨年の秋から「桜田門のさくらちゃん」の連載がスタートしました。

「初の(作者的には)本格警察小説」、また前々からの「短いものを書いてみたい」「謎解きやトリックにも挑戦したい」という構想にチャレンジしたこともあり、悩んだり苦しんだりもしましたが、なんとか全六話を書き上げられました。

そしてタイトルを「さくらだもん!」に改め、ほんわさんの飛びきりキュートなイラスト、西村弘美さんの超クールな装丁も得て、この度めでたく文庫刊行! となった次第です。

デビューして十二年。二十冊ほどの作品を世に送り出しましたが、ここまで「初めて」尽くし、また、いきさつはかなりイレギュラーではありますが、構想に時間をかけた作品はありません。それだけに読者のみなさんがどう受け取られるか皆目見当が付かず、不安だったりもします。

でもその度に、さくらちゃんが「考えても仕方ないし、甘いものでも食べれば?」と囓(かじ)りかけのまんじゅうを差し出し、元加治(もとかじ)くんは「その気持ちの揺れ方に、『大人』としての力量が現れる」と講釈をたれ、正丸(しょうまる)さん、秋津(あきつ)さんは、熱くて濃いお茶を淹れてくれているような気がするのです。

※本エッセイは月刊ジェイ・ノベル2015年11月号掲載記事を転載したものです。

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