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6月の文庫新刊『芸者でGO!』刊行記念対談 山本幸久×めぐみさん
「芸者の世界はおもてなしがお仕事です」

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山本幸久×めぐみ

賑やかな八王子の中心街からふらりと路地に入ると、昔ながらの黒塀の街が―。
芸者のお仕事をユーモア豊かに描いた山本幸久さんと本物の八王子芸者さんのどきどき対談が実現!
写真・泉山美代子 構成・文/ジェイ・ノベル編集部

八王子に芸者が!?

めぐみ:『芸者でGO!』とても楽しく読ませていただきました。「次はどうなるのかな」とついつい物語に引き込まれて、最後まで一気に読みました。ウチの妓(こ)たちとも「面白いね~」って(笑)。

山本:わざわざ読んでいただいてありがとうございます。八王子の芸者さんは地元密着型なので、すぐ隣にいるような普通の女の子が実は芸者だったというキャラクターで書いてみたんですが。どうしてもわからない部分は想像力で補って(笑)。

めぐみ:知ってる八王子の町の様子がいくつも出てくるし、身近に感じますね。

山本:僕自身は二十歳過ぎまで八王子に住んでいたんですけど、芸者さんが八王子にいらっしゃるのを認識したのは、実はつい最近なんです。
芸者のことはいつか書きたいと考えていて、渋谷に芸者がいると聞いたときは、円山町あたりを歩いたりしました。でも、結局それは別の小説(『渋谷に里帰り』)になり、その後、「月刊ジェイ・ノベル」の連載で、箱根の芸者を主人公にして書くことになりました。ただ僕自身が、箱根のことをよく知らなくて、本にまとめるにあたっては、どうしようかと悩んでしまって。そんなときに、JR中央線のポスターに八王子芸者の皆さんが出ているのを発見して「芸者さん八王子にいるんだ、実は地元にいたんだ!」と(笑)。さっそく舞台を八王子に変更して、内容もすべて書き直したんです。

めぐみ:最初の場面にも出てきますけど、お座敷遊びのツアー(モデルとなった八王子観光協会主催のミニバスツアー)にも以前参加されたんですよね。

山本:そうなんですよ。去年の梅の咲く頃に。取材と断ったわけじゃなく、普通の客として。実はそのときにめぐみさんともお会いして。
――お二人のツーショットのお写真もあります。

めぐみ:(写真を見て)えー!? ほんとだ、失礼しました(笑)。

山本:虎拳(ジャンケンに似た芸者遊び)も、お座敷の前に出て参加したりして……。芸者遊びって、これまでやったこともないし、読者の方もピンと来ないかなと思って、芸者遊び入門編のようなイメージで、第一章のツアーの場面を書いたんです。

めぐみ:へえ。そこから物語が生まれてくるんですねえ。

山本:なんで八王子に芸者がいるんだろうって、不思議には思ってたんですけど、芸者は東京では渋谷のほかに新橋、赤坂、神楽坂、向島、浅草、日本橋…あと大塚ですか。三多摩地域では八王子だけですが、一時期活気がなくなっていた八王子花柳界が近ごろまた盛り上がってきたのはすばらしいですね。めぐみさんのご尽力があってのことだと思いますが。

めぐみ:今八王子の芸者衆は十九人になりました。でも私自身、八王子のためとか、八王子の芸者界のために、という意識はまったくなかったんです。とにかく芸者になって、あれもしたいこれもしたいと思って、仲間を誘っているうちにいろんな子たちとの出会いがあって。その子たちが芸事が好きで、気立てもいいから、お客様にかわいがっていただける。そうすると、またお客様に呼んでいただけますし。八王子の花柳界の広がりは、その子たちのおかげです。

芸者の修業なう?

山本:客層はどういう方が多いんですか。

めぐみ:本当に幅広いんですよ。地元の商工会議所様やロータリークラブ様の会合のようなものから、町会とか個人のお宅まで。八王子だけじゃなくて、遠出で川越とか諏訪のほうまで出向くこともあります。

山本:個人の家もあるんですか?

めぐみ:ありますあります。ご接待とか法事とか。今、八王子の伝統の織物産業関係のお客様、最近はIT関係の方も増えてきたかもしれませんね。

山本:昔、八王子は「桑の都」と呼ばれてましたからね。今は一見さんでも芸者さんを呼ぶことはできるんですか。

めぐみ:そうですね。ただ最初にお座敷に呼んでいただくときは、できれば一対一ではなくお願いしています。こういうご時世で、不思議な方もいらっしゃる場合があるので(笑)。
お座敷の様子をブログやフェイスブックにアップされたりする方もいらっしゃいます。集合写真とか、撮っていただくのはいいんですけど、「お座敷なう」とか(笑)、インターネットで、様子が全部外に出たりすると、他のお客様にご迷惑をおかけすることもありますよね。時代の変化は仕方ないことですけど、ここはブレーキを掛けたい、という思いにかられることはあります。

山本:それはちょっと困りますね。芸者になるきっかけは、以前と今ではだいぶ違うんでしょうね。

めぐみ:芸者になろうとウチに来る子は、最近はインターネットで自分なりに情報を得て、他と比べたりしてから来るのが多くなりましたけれど。ユーチューブを見たとかね……。
私の頃はそんなものはないし、ただあこがれで(笑)。もともと着物とか和のものに興味はありましたけど、そもそも芸者さんがいることも知らなかったし、具体的に何をしていいのかはわからなかったです。普通のサラリーマン家庭ですし。料理屋さんでお運びのパートをしていたときに、当時の置屋の女将さんにスカウトされて芸者になったんです。
でも、芸者になってから「芸者さんってすごいんだ!」とわかって、それからは、いろんな習い事にのめりこんでいきましたね。

山本:芸者の習い事はどんなことを?

めぐみ:まず踊りですね。それから私は三味線に魅力を感じていたので、踊りと一緒に始めました。あとウチの場合は、必須科目としてお茶を習わせています。立居振舞いが学べますし。私は、鼓も、太鼓も、笛も習わなきゃといろいろ始めるうちに、(手を広げて)こんなになっちゃって(笑)。
つい最近入った、十六歳の女の子も仕込みっ子(芸妓の見習い)として修業中です。お茶の稽古から畳の歩き方、草履の脱ぎ方とか、基本的な所作をひとつずつ覚えてがんばっています。

山本:芸者さんって、出世をするというわけでもないですよね。日頃何を目標にして仕事をされているのかなというのは、書いていて気にはなってたんですけど。

めぐみ:一生好きな芸事を学べるということも、この仕事を続けていく大きい動機ではありますけど、おもてなしで喜んでいただけるお仕事ですし、二時間あまりの一期一会で、お客様に素敵な時間を過ごした、と感じていただくことが、私たちにとっては報酬とは違う喜びになってますね。
出世とは少し違いますが、芸者で五年以上働いて、三業組合(待合、置屋、料理屋)が認めれば、独立して置屋を持つこともできます。最近も、新しく部屋を持つことになった子がいます。でも、独立したらしたで苦労することも多いですけど(笑)。

夏の八王子まつりで大騒動!?

山本:芸者たちが八王子まつりに向けて準備をする場面が出てきます。巨大な山車や神輿が市内をめぐる賑やかな祭りですが、皆さんはいつ頃から参加されているんですか。

めぐみ:「宵宮の舞」はもう十三、四年になると思いますが、当初は失敗ばかりで。最初は三味線を弾く人もいないから、三味線の録音テープを流して、たった三人で踊っていたんです。そうしたら、途中で電気が切れて真っ暗になってしまって。見ているお客様が親戚一同入れて二十人くらいしかいなかったですけど、ゲラゲラ笑われてね(笑)。
町会の方とも相談して、次第に仮設舞台や、三味線や鳴り物を演奏するにわか山車をつくっていただくようになりました。でも、にわか山車だって、いっとう最初は、甲州街道に出たところで山車の車輪がパンクして傾いちゃって、「お前が重いからだ」なんて言われながら歩いてすごすご戻ったり(笑)。そんなことの繰り返しです。今はすごくたくさんお客様がいらしてくださるようになりましたけれど。

山本:祭りの当日、芸者さんは、伝統的な「手古舞」姿で、本格的な木遣りを唄っていらっしゃいますね。

めぐみ:手古舞姿の芸者がちゃんと木遣りを唄って山車の露払いをするのは、八王子だけなんです。せっかく手古舞姿をするなら、恰好だけではつまらない、本物の木遣りをやらなきゃということで、頭を見番に招いてご指導をいただいています。

芸者、やってみます?

山本:実家が落語好きで、僕も高校、大学で落語研究会をやっていて、その関係で三味線はやっていたんですけど、全然うまくならなくて。右手と左手を別に動かすということが苦手なんです。三味線ができる方はすごいなと。

めぐみ:私も全然、まだまだ三味線らしきというところです(笑)。

山本:小説では小唄の歌詞をいくつか出しているんですが、ネットとかで調べたり、ユーチューブで聞いたりして自分なりに解釈を加えて……小唄の譜面ってあるんですか。

めぐみ:長唄は譜面もあったり、口伝されたものを書き取ってますけど、小唄は売っているものもあんまりないんですね。そういえば、先生、(小唄を)やってみますか?

山本:いやいやいや(笑)。

めぐみ:せっかくですから。(三味線を手にして)なにからいきますか。

山本:いやいやいや(笑)。

めぐみ:では「よりを戻して」(第一章のタイトル)からいきましょうか。
  よりを~戻して
  逢う気はないか~
  未練でいうのじゃないけれど~
  鳥も枯れ木に二度とまる~
  ちと逢いたいね~
(一同拍手)
こんな歌です(笑)。

山本:本物を目の前にすると、冷や汗が出る(笑)。小説では章ごとに、小唄にからめた話をつくってみたんです。明るく前向きな話にしようと思って書き始めてみるんですけど、小唄ってちょっと悲しげな唄なので……。

めぐみ:小唄は恋の唄とか、お月様とか虫の音がとか、しんねりしんねりしちゃうのよね(笑)。先生、じゃあ都都逸でも歌いますか。

山本:教えてください(笑)。

めぐみ:それでは、「逃げたトンボ」。
  逃げた~トンボが~
  また来て止まる~
  忘れ~られな~い
  竿の味~
最後の五文字は意味をかけるんですよね(笑)、落とすというか。じゃあ、先生、いっしょにやってみますか。「逃げた~トンボが~」……先生暑いですか。クーラーつけますか。

山本:いや、冷や汗かいているだけです(笑)。
(その後、しばらく手ほどきが続く)

八王子「ゆき乃恵」にて

いつのまにか都都逸教室開講。すっかりめぐみさんペースで山本さんはタジタジ。

『芸者でGO!』を読んで八王子へGO!

山本:最近、毎日のように八王子の実家に帰ってるんですが、町全体がすっかり違う風景になっているのにもかかわらず、ポンと昔と変わらない人や物があったりするのが、タイムトラベルみたいで面白いというか。八王子はいま観光にも力を入れてますよね。

めぐみ:高尾山は来年、京王高尾山口駅も新しくなって、温泉施設もできます。私も生まれてこのかたずっと八王子ですし、これからもこの街での出会いに感謝しながら、仕事を続けていきたいと思います。外国人観光客も今後多くなりますし、お座敷にしてもいろんなことをいいかたちで残して、日本の楽しさを勉強して伝えていきたいですね。
『芸者でGO!』も八王子に芸者がいるってことを知っていただくいい機会ですし、今までお会いしていない若い世代の方が読んでくだされば、うれしいですね。
小説の中の芸者さんがこれからどうなっていくのか気になります!

山本:最後になると、だんだん愛着がわいてきて、別れがたいんですね。ほかの本でもそうですけど、ここから先になにかありそうという終わり方にしちゃうんです。なるべくみんな次のステップに進むようにしたいなと。

めぐみ:私も彼女たちに負けないようにまだまだがんばります。私、寿奈富さんみたいにお酒けっこういただくんですけどね、読んだ妓(こ)たちがみんな、寿奈富が私みたいだって笑っていました。でも最近は三次会は無理です(笑)。

(2014年夏 八王子「ゆき乃恵」にて)

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