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『半乳捕物帳』刊行記念対談 花房観音×一徹
イケメンAV男優が身につまされた、痛快&脱力の艶笑時代小説

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『半乳捕物帳』刊行記念対談

女性に絶大な人気の“エロメン”AV男優一徹と、“性愛小説の女王”の異名を持つ花房観音が初対談! 2017年12月に刊行された『半乳捕物帳』について語り合いました。

構成/門賀美央子 撮影/泉山美代子

●ふたりで企画した京都バスツアー

花房:一徹さんと初めてお会いしたのは、確か代々木忠監督のAVシリーズ「ザ・面接」のイベントでしたよね。でも、その時は本当に顔を合わせただけで。

一徹:その後間もなく女性向けAVの専門レーベルであるSILK LABOの専属になってしまったので、ご一緒する機会がなかなか持てなくなりました。

花房:私が好むタイプの作品とは全く違う世界で活躍されていましたから。ところが、何がどう誤解されたのか、私が一徹さんを嫌っているという噂が流れて。

一徹:嫌っていましたよね?

花房:嫌ってないって! 何回も言っているけど、単に興味がなかっただけ。

一徹:もっとひどいじゃないですか(笑)。

花房:だって、SILK LABOの路線は私の関心外だし。でも、どうして嫌っていると思ったの?

一徹:Twitterで「色気のあるいぶし銀の男優はグッとくるけど、一徹さんみたいなさわやか系はいまいち」というようなことを呟いていらっしゃったのを見て、嫌われたと解釈したんです。

花房:それは単に若いイケメンが苦手というだけの話で、一徹さん個人に対する感想ではないから!

一徹:後にそれを伺って安心したのですが(笑)。

花房:でも、嫌われていると誤解しながらも、私の『おんなの日本史修学旅行』は読んでくれていたんですよね。あの本に興味を持つということは旅行が好きなんですか? テレビでも「一徹温泉」という旅番組をやっているぐらいだし。

一徹:いえ、あんまり好きじゃないです。どっちかというと引きこもっていたい方で。

花房:ならまたどうして(笑)。

一徹:当時、新宿で定期的にやっていたイベントが屋内ばっかりだったのもあって、たまには外に出てみたくなったんです。僕が一方的にしゃべるよりも、誰かおもしろい人をナビゲーターに、みんなで一緒にあちこち巡る旅をできたらいいな、と。そんな時にあの本を読んで、これだ! と思いました。ただ、専属中はなかなか実行できずにいたので、めでたくフリーになった2017年、積年の夢を叶えようと思いたち、あちこちで「やりたい!」と言って回っていました。

花房:そしたら、一徹さんのファンの方が「花房さんと京都ツアーをやりたがっていますよ」と教えてくれたので「そういうことならいつでも」とツイートしたんですね。そこから、お互い連絡を取るようになって、その夏、開催の運びになった、と。

一徹:僕が出したリクエストを元にコースを組んでくださって、その上当日はバスガイドまでしていただいて。その節は本当にありがとうございました。

花房:正直、結構大変だった。そういうわけで、ツアーでたっぷり恩を売ったから、今度は私が自著の宣伝に一徹さん人気を利用してやろうと考え、本日対談をする運びとなりました。

一徹:僕で力になれるんでしたら(笑)。

花房観音

●男優が身につまされる場面

花房:読んでみて、感想はどうでした?

一徹:時代小説だけど全然難しくなく、気楽に楽しめました。主人公のお七ちゃんが半乳姿で啖呵を切るシーンは痛快ですし、手下の金玉コンビや童貞将軍などなど、脱力ものの脇役たちも愉快でしたね。ただ、僕の場合、なんというか色々と身につまされるところが……。

花房:たとえば?

一徹:敵役の丈円って、僕と同じくAV男優をしている大島丈さんがモデルですよね?

花房:そうです。声が良くて、女性の目をじっとみて話すフェロモン男。

一徹:その丈円さんが、江戸市中の女性たちを誑かすために開く握手会やライブイベントの場面で「ん? なんか聞いたことある話だな、これ」って(笑)。

花房:だって、男優イベントがモデルだし(笑)。

一徹:モデルになるのはうれしいけど、悪役なのが……。そもそもこの話はどうやって思いつかれたのですか?

花房:これもやっぱり発端はSNSでした。二年ほど前、ある編集部から『鬼平犯科帳』のような時代小説を書いてみませんか、というオファーをもらったのでネタを考えていたら、捕物帳といえば岡本綺堂の『半七捕物帳』……ん? 半七……半乳! と「半乳捕物帳」なる言葉が降臨したんです。途端、自動書記のように手が動き出して、半乳の女の子が十手を持っている絵を一気に描き上げていました。それが我ながらあまりにバカバカしかったので、写真を撮ってSNSにあげたら無茶苦茶反応がよくて。

一徹:わかります。すごいインパクトですから。

花房:とはいえ、私としては冗談以外の何ものでもなかったんですよ。それなのに、最終的にはこれが本になり、オファーが来た方は全然違う話になりました。

●女性も主体性に性を楽しんで

一徹:でも、この冗談を本にしようとした編集者の気持ちはわかる気がするなあ。このお話って艷笑譚ではあるけれども、少しもジメジメしていなくて、むしろスカッとするんですよね。女性が読んでもおもしろい、というか、女性の方が楽しめるかもしれません。

花房:この話の根底には永井豪の漫画があります。私は永井さんの『まぼろしパンティ』や『けっこう仮面』など、女の子が肌を晒して悪と戦う勧善懲悪ものを読んで性の目覚めを迎えました。当時、これらの漫画はPTAから目の敵にされていましたが、とある記事で永井さんが「女性が自らの健康美を武器に戦って何が悪いんだ」と反論していて、まったくその通りだと納得したんです。女性は長らく、性に対して積極的なのはいけないことだと教えられてきました。男性にしてみれば、女性をコントロールするのにその方が好都合ですから。私は20代からAVを好んで見ていましたが、ずっと後ろめたい気持ちを抱えていました。女の癖にこんなものが好きな私は変態なのではないか、とか。AVを借りたり、エロ本を買ったりするのはもう決死の覚悟でしたよ。

一徹:今はネットのおかげで、気軽に性的なコンテンツに触れられるようになりましたよね。それに、男が淡白になっているのもあって、女性が主体的に性を楽しむ時代になりつつあるように思います。

花房:そうそう。主体性がポイントです。一徹さんのファンも、みなさん屈託なくとても幸せそうでしょう? 女性が性に対して素直に、前向きになることが許される時代になったというのは感じますね。20年前だと私の小説ですら厳しかったはず。

一徹

●セクシーだけど無垢なヒロイン

一徹:第二章「吉原初恋の巻」に出てくるぱいずり花魁などは、「性に主体的な女性」を象徴する存在かもしれません。

花房:彼女は自らの意志で吉原にいますからね。身を売る女性は全員が苦しみ、不幸になる、こういう発想をしている女性も多いですが思い込みですよ。もちろん、嫌々だった人は絶対にいるけども、状況を享受していた人もいたはずです。

一徹:「吉原初恋の巻」はまさにそういう話でしたよね。

花房:とはいいつつ、主役のお七は処女なんだけど(笑)。

一徹:そのせいで丈円の魔手に危うくかかりかけてしまうわけですが、どうして処女設定にしたんですか?

花房:セクシーだけど無垢っていう、少年漫画的なヒロインにしたかったからです。少女性が欲しかったというか。本作は私のこれまでの小説に比べたら情念的な突き詰めはなく、とにかくあっけらかんとしているので、人によっては物足りなく感じるかもしれません。でも、今回ばかりは徹底した馬鹿馬鹿しさを楽しんでいただけたらと思います。馬鹿馬鹿しさはエンターテインメントの極致ですから。

一徹:僕としては丈円とお七の行く末が気になるので、ぜひ続篇を書いていただきたいと思っています。

花房:これが売れたら書けます。 だから、一徹さんががんばってPRしてください!

花房観音×一徹

はなぶさ・かんのん
兵庫県生まれ。京都女子大学中退後、映画会社、旅行会社などを経てバスガイドを務めるかたわら小説を執筆。2010年、第一回団鬼六賞大賞を『花祀り』で受賞。著書に『女の庭』『楽園』『指人形』『色仏』『鬼の家』『くちびる遊び』ほか多数。実業之日本社刊行の著書に『萌えいづる』『寂花の雫』『好色入道』。

いってつ
1979年生まれ。2004年、AV男優としてのキャリアをスタート。09年、an・anのセックス特集で一躍女性の支持を得る。12年、女性向けAVレーベルSILK LABO専属になる。17年に専属を卒業。 写真集に『いってちゅ。』『Caramel』『SHARE HOUSE+YOU』『光源』『めぐる。』、著書に『恋に効くSEXセラピー』がある。

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