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私の○○ベスト3
Vol.32 朱川湊人 私の好きな、特撮トンデモ設定ベスト3

第1位「星との激突を避けるためには、地球を動かせ!」
第2位「恨まれている日本人」
第3位「最初の仮面ライダーの人体改造は、ナチスの手法か?」



物心つく頃に円谷プロのウルトラシリーズの直撃を受けた私は、以後“特撮もの”を偏愛する人生を送っている。完全に趣味の世界なので、それを愛する理由を説明することに大きな意味はない。あえて言えば画面のカッコよさ(このあたりは、もう子供と同じレベルですな)と、制作サイドの発想が大胆かつ自由奔放であるのが楽しいからである。
中には、情熱が熱すぎたのか、あるいは意図的に棘(とげ)を仕込んだのか、「子供向け特撮作品で、こんな設定をやっちゃうのか!」と驚くものがある。知っている方には今さらの話だが、特に私の好きなトンデモない設定、略して『トンデモ設定ベスト3』をご紹介しよう。


●第3位「最初の仮面ライダーの人体改造は、ナチスの手法か?」

『仮面ライダー』シリーズの第一作めは昭和四十六年の制作。我らの仮面ライダーや敵怪人は秘密組織ショッカーによって人体改造された超人という設定だが、第三話「怪人さそり男」の冒頭で、その技術は「ナチスドイツで研究されたという移植手術などの手法」という解説が入っている。若干ぼかし気味の口調ではあるが、かなり怖いことをサラリと言っているのがすごい。


●第2位「恨まれている日本人」

特撮番組の敵と言えば、異星人だったり、魔界のような異世界の住人であることが多い。しかし宣弘社制作の『アイアンキング』の初期の敵は、二千年前に大和政権に敗れた不知火一族で、大和民族を滅ぼし、積年の恨みを晴らそうと企む。その後に現れた第二の敵・独立幻野党は現行政権を倒して革命を起こすことが目標。また、川内康範氏原作の『愛の戦士レインボーマン』の敵は、戦時中の恨みを晴らすために日本人を滅ぼそうとする『死ね死ね団』。昭和の子供番組、恐るべし。


●第1位「星との激突を避けるためには、地球を動かせ!」

妄想の世界をリアルに見せてくれるのが特撮の面白さだが、東宝映画『妖星ゴラス』の妄想は、群を抜いてスケールが大きい。何せ地球に向かってくる黒色矮星(わいせい)との衝突を避けるために、南極に巨大ロケット噴射装置を作り、地球の方の軌道を変えようというものなのだ。普通は思いついても制作をためらってしまいそうなストーリーだと思うが、それを大マジメに作ってしまうのだから、特撮ファンはやめられない。昔の映画人は本当に偉大であった。

以上の三点は有名なものばかりで、私が偉そうに書くことでもない。にもかかわらず、今回のテーマに選んでしまったのは、けして十月に発売された文庫『私の幽霊 ニーチェ女史の異界手帖』で、ちょっとトンデモをやり過ぎたか……と、内心ビクビクしているからではない。
そういうことは、本当にない。





しゅかわ・みなと
1963年大阪府生まれ。慶應義塾大学文学部卒業。出版社勤務を経て、2002年「フクロウ男」でオール讀物推理小説新人賞を受賞し、デビュー。03年「白い部屋で月の歌を」で日本ホラー小説大賞短編賞、05年『花まんま』で第133回直木賞を受賞。近著に『狐と韃 知らぬ火文庫』『アンドロメダの猫』『わたしの宝石』『スズメの事ム所 駆け出し探偵と下町の怪人たち』など。