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私の○○ベスト3
Vol.33  相沢沙呼 私の好きな「カードマジック」ベスト3

第1位『Triumph』

第2位『Any Card at Any Number』

第3位『Out of This World』



僕は十代の頃から奇術が大好きで、小説を書くことと同じくらい長い時間、観たり演じたりを繰り返して来ました。
 今日はカードマジックにジャンルを絞って、その魅力的な現象と逸話をご紹介できればと思います。


●3位『Out of This World』

 あなたは、マジシャンから良く混ぜられたカードを一組、渡されます。
「これからカードを裏向きのまま一枚ずつ手にとって、そのカードのマークが赤だと思ったら右に、黒だと思ったら左に配ってください」
 あなたは自分の直感に従い、カードを一枚ずつ配っていきます。右、右、左、右、左、左、右……。
 配り終わったあと、カードを表にして結果を見てみると……。
 あなたの直感通りに、すべてのカードが、赤と黒、綺麗に分けられているのです。

 Paul Curryというマジシャンが1940年ごろに発表したカードマジックです。なんといっても、タイトルが素敵ですね。
 その素晴らしい原理と現象から、逸話がたくさんあります。有名なのは、かつての英国の首相チャーチルが、このマジックを観たときに七回も繰り返しリクエストした、というものでしょうか。
 僕も以前、パーティで北村薫先生にこのマジックが観たいとその場でリクエストを頂き、演じたことがあります。
 やはり、不思議に魅了される人たちを惹きつける現象なのでしょう。


●2位『Any Card at Any Number』

 机の上に置かれた一組のトランプ。マジシャンはあなたに、なんでも好きなカードを一枚と、1から52までの好きな数字一つを問いかけます。
 たとえば、あなたがハートのQと22と答えたとしましょう。ケースから取り出したトランプを、あなたは一枚ずつテーブルに配っていきます。1枚、2枚、3枚……、そして22枚目……。そのカードの表を見ると、なんとそれは、あなたが答えたハートのQなのです。

 観客自身がカードを配るにもかかわらず、観客が選んだ枚数目から、やはり自由に観客がリクエストしたカードが現れる。
 英国のメンタリスト、David Berglasがこのマジックを実演したといわれていますが、その手法は秘密のまま……。
 このあまりにも不思議なプロットは多くのマジシャンを魅了しました。しかし、完璧に実現する方法がなく、あちらを立てればこちらが立たずで、多くのマジシャンがこのマジックの実現に悩まされながら、自分なりの案を発表し続けています。まるで数学の問題のようですね。
 ミステリ作家としては、Berglasがこれをどのように演じたのか、その謎を解いてみたい気持ちも、ほんの少しありますが……。


●1位『Triumph』

 あなたはトランプのカードから一枚のカードを抜き出し、憶えます。スペードのAだとしましょう。
 それを山札に戻したあと、マジシャンはトランプを二つに分けます。片方は表を向いていて、もう片方は裏向きになっています。
 マジシャンは、それらを一緒にして混ぜてしまいます。つまり、表と裏がぐちゃぐちゃになった状態です。
 ところが、マジシャンがおまじないをかけてからトランプをテーブルに広げると、すべてカードは綺麗に裏を向いています。
 ですが、たった一枚、あなたが選んだスペードのAだけが、中央で表向きなのです……。

 マジックの神様と言われるDai Vernonが生み出した傑作です。
 とてもビジュアルで不可思議なこの現象は、僕の文章ではその魅力を十分に伝えられません。
 皆さんがどこかで直接、このマジックを目にする機会があることを祈ります。
 僕は十代の頃、このマジックにたいへん衝撃をうけて、マジックを学び始めました。
 そして、このマジックの衝撃から生まれた小説が、僕のデビュー作である『午前零時のサンドリヨン』でした。
 相沢沙呼の起源ともいえるマジックかもしれません。




あいざわ・さこ
1983年、埼玉県生れ。2009年、『午前零時のサンドリヨン』で第19回鮎川哲也賞を受賞し、デビュー。少年少女の繊細な心情を描く次世代のミステリ作家として、若者を中心に強い支持を受ける。他の著作に『マツリカ・マハリタ』『卯月の雪のレター・レター』『小説の神様』『medium 霊媒探偵城塚翡翠』などがある。