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私の○○ベスト3
Vol.44 篠たまき どうにも忘れ難いネット取引 ベスト3


1位 「犯罪じみた商品が届いた」
2位 「取引相手が元カレ疑惑」
3位 「『まさかこれを買う人が』だと?」



拙著『やみ窓』(角川書店)の主人公・柚子は、異界の者どもが捧げる品々をネットオークションで売りさばいて糧としている。
これを読んだ友人達が一様に「著者の日常が出ていて笑った」とのたもうた。シリアスな怪談小説のつもりが「笑った」はないだろう。と思ったけれど、私がネットオークションやフリマアプリで頻繁に売買をしているのは事実である。
なので、過去の忘れられない取引ベスト3を晒してみたい。

■3位 「まさかこれを買う人が」だと?

フリマアプリに排泄の歴史に関する絶版本が出品されていた。
喜んで購入したら出品者の方が添えてくださった感謝のメッセージが、
「まさかこれを買う人がいるとは思いませんでした! ありがとうございます!」
いや、いるんですよ、その「まさか」が。
なんでも出品した方は、卒論のために買ったもののタイトルと装丁が過激で置き場に困っておられたとか。
本は望まれて私の手に渡り、出品者の方は持て余していた品をお金に換えた。
「まさか」は心外だったけど、人も物も三者三様に幸せな取引だったと思うのだ。


■2位 取引相手が元カレ疑惑

数年前のネットオークションで出品者からのプロフ入りメールを見て私は固まった。記された氏名は元カレのもの。珍しい姓名で他人とは考えにくい。しかも住所はチャリ圏。人様がドン引きする経緯で別れた相手だ。さすがにびびって、悪いこととは知りつつ偽名を使ってしまった。
凄まじい偶然にしてもこんなことも起こりうる。ぬくぬくと売買に興じていた私が、ネットの怖さを思い知らされた取引だった。
数年たってあの時の気持ちも風化して、今では笑い話になって残っているだけなのだけれど。


■1位 犯罪じみた商品が届いた

フリマアプリの匿名配送で届いた大きな荷物。品名欄に黒々と記された文字は「少年」。
人身売買をした覚えはない。生身の少年なぞ飼う趣味はない。みつしり箱詰め少年だったら怖い。
おそるおそる梱包を解いたら、中は「絶版の少年まんが集」だった。これなら確かに買っている。
犯罪者にならずにすんだ。生きた少年の世話も、死体の処理もしなくてすんだ。
貴重なまんがと飲み会のネタを一度に手に入れられるなんて、考えてみれば幸運だ。
あの時の自分の慌てっぷりを思い出すと今も笑ってしまう。そして人にも話す。些細な書き間違いとはいえ、忘れられない思い出を残してくれた取引なのだ。

何かと問題も多いネット売買だけれど、基本的に人や物を幸せにしてくれるツールだと思う。欲しいものをお安く入手できるし、いらないとされた品物達も新しい持ち主を得て活かされるのだから。
取引を通じて小さな笑いやドラマが発現するのも、またおもしろい。
だから今もささやかに、ポチポチと出品と購入を繰り返す私なのだ。





しの・たまき
秋田県出身。2015年『やみ窓』で第10回『幽』文学賞短篇部門大賞を受賞、同作を含む連作短篇集『やみ窓』でデビュー。他の著書に『人喰観音』がある。