私の○○ベスト3
Vol.45 柳井政和 私の、最近読んでよかった非小説 ベスト3
第1位 テトリス・エフェクト 世界を惑わせたゲーム(著:ダン・アッカーマン、訳:小林啓倫)
第2位 それは『ポン』から始まった(赤木真澄)
第3位 新聞「ゲームマシン」アーカイブ(アミューズメント通信社)
拙著『レトロゲームファクトリー』(新潮社)は、レトロゲームの移植会社を舞台にした小説です。私自身は、子供時代のゲームに影響を受けて、個人でゲームを開発しています。というわけでゲーム成分多めで、最近読んでよかった非小説を挙げます。
■ 3位 新聞「ゲームマシン」アーカイブ
1974年に創刊したアミューズメント業界紙「ゲームマシン」。このPDFが2019年から順次公開されている。これは当時の業界の様子を知ることができる貴重な資料だ。そして、掲載されている広告が物凄く面白い。
当初はTVゲームではなく、スロットマシンやメダルマシンの広告が中心だった。そして徐々に白黒のTVゲームが出てきてカラー化に向かう。黎明期の各社が、どの商品に力を入れていたか。どういったゲームが受けていたのかが如実に分かる。大量の広告が載った業界紙は、その原稿部分とともに想像力を刺激してくれる。
■ 2位 それは『ポン』から始まった
混乱した社会から、新しい市場が作られていく様子は、どの業界の話でも面白い。それが、自分が関わっている業界ならなおさらだ。今は当たり前のコンピューターゲーム。本書は、その黎明期をまとめたものだ。アナログのピンボールから始まり、徐々にゲームは電子化されTVゲームが登場する。
アメリカや日本でのTVゲーム市場の勃興。セガやナムコや任天堂などの当時の様子。戦後日本の復興や、海外とのやり取り。密接に絡み合う、伏線のような人間関係。当時は市場が小さく、多くの人がつながっていた。それらの業界人たちが、ビリヤードの球のように衝突していく様は、本当に面白い。筆者は、上記「ゲームマシン」を手掛けていた赤木真澄氏だ。
■ 1位 テトリス・エフェクト 世界を惑わせたゲーム
ノンフィクションである。まるでスパイ小説のようである。冷戦期のソ連で開発された、異常な中毒性を持つゲーム『テトリス』。その商業利用権を得るために、西側の様々な企業が暗躍する。
当時のソ連は、自由に行き来できる国ではなかった。また、ゲームの権利という概念もなかった。その社会主義の国の研究所には、パジトノフという男がいた。閉ざされた社会で彼は、抑えきれない創造力を爆発させて『テトリス』を開発した。
権利を狙う企業のひとつ任天堂は、ゲームボーイに『テトリス』を載せるために一人の男を送り出す。ヘンク・ロジャース。『ザ・ブラックオニキス』というゲームの開発者であり、異国で事業を興せる冒険者のような男。彼は以前、その剛腕でファミコンに参入した。ヘンクは単身ソ連に渡り、協力者を得て、共産党との交渉を始める。
本書は『テトリス』を巡る権利争奪の話である。また、二人のゲーム開発者が、高い壁を越えて出会う話でもある。国家の壁は、人間の創造力を止められない。閉ざされた世界でも人は何かを作り、その影響が世界に波及して友情を生む。本書を読んでいるあいだ、私はページをくる手が止まらなかった。
やない・まさかず
1975年、福岡県生まれ。熊本大学理学部卒。ゲーム会社勤務を経てクロノス・クラウン合同会社を設立。ゲームやアプリケーションの企画・開発、プログラミング系技術書などの執筆を行う。2016年、松本清張賞最終候補作を改題改稿した『裏切りのプログラム ハッカー探偵 鹿敷堂桂馬』で小説家デビュー。他の著書に『レトロゲームファクトリー』などがある。