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わたしのすみか
第9回 仕事場、隠れ家、趣味の部屋  伊岡 瞬

わたしの仕事場(書斎)があるのは、けっこう年季の入ったマンションである。

 この物件の来歴について詳細を書くと、だらだら長くなってしまうだけで、読んでもたぶん面白くない。

 ごく簡潔にまとめると、①以前ここに家族と住んでいた。②引っ越しにあたり売りに出したが売れず、③どうしたものかと思い迷っていたが、④どのみち仕事部屋は必要なので、だったらここで1人ぽつんと仕事を──。という経緯で今日に至る。

 ちなみに、家族は(決して不仲のためではなく)別な場所に住んでいたり、あるいは独り立ちして、ここにはいない。そんなわけで、古いながらも4LDKマンションが「わたしのすみか」である。

 現住しなくなったおかげでリフォームしやすくなり、そこそこに手を入れた。すると、けっこう快適になって、仕事場兼隠れ家兼趣味の部屋となった。

 好きなだけ使えるのだが、あまり広いと落ち着かない。わたしが書斎として使っている部屋はほぼ6畳である。もと畳だったのをフローリングに変えた。



最大のこだわりは、あまり手近に本を置かないこと。背後から大量の本が迫っていると、重圧で気が滅入る。どうせしょっちゅう手にする本の数など限られている。

 ぎりぎりに絞った、辞書・図鑑類、ノンフィクション系、エッセイ系、現在読書中、某国家機関に関する書物、趣味の本、などが、図でいえばⓀⓁⓂあたりに格納されている。

 ということで、もう少し具体的な解説を、見取り図のアルファベット順に簡潔に。

Ⓐメインの机:白い合板にスチールの足がついただけの極限までシンプルな造りだが、上に乗ってもぐらぐらしないほど頑丈にできている。たぶん、死ぬまで使う。Ⓑサブ机:後から買い足したが、あつらえたようにメインと高さも質感も合っている。この2つの机が「作業台」となる。ちなみに机に載っているのは、ディスプレイ、キーボード、数十本のペン、その他細かい文具類。とくにペンは、使いたいときにすぐに見つからないとダメなので、同じ種類のボールペンを少なくとも10本、多いものは30本ぐらい買ってある。とにかく雑然としていて、空いたスペースはランチョンマット1枚分ぐらいしかない。
Ⓒ椅子:一番重要視したのは、リクライニングした時のヘッドレストの感触。
Ⓓラック:メインのデスクトップ型PCと、モノクロレーザープリンター。Ⓔ~ⒼB4深型9段書類ケース:書類・文具・パンフレットなどを収納。上に、若干の観葉植物、カラープリンターなど。Ⓗ~Ⓙ同:こちらの上には、さらにA3型書類ケースを載せ、その中に「箸置きコレクション」、さらにその上にはウルトラ怪獣などの小さめの人形。
Ⓚ収納ラック:各種ファイルの置き場。上に分類不能な小物がたくさん。Ⓛ本棚。Ⓜ押し入れを改装した収納スペース。ちょっとした工事ができる程度のDIY工具などが入っている。
Ⓝハンガー・収納。Ⓟデスクトレー山積み場:各地で地崩れがおきる。Ⓠ自作のメモボード。Ⓡ引き戸:フルオープンになる。Ⓢリビング。Ⓣラック:別項。
Ⓤベランダ:風の具合を見るために、背丈ほどのオリーブの鉢植えを置いてある。

さて、もっとだらだら書きたいが、残り枚数が少ない。

Ⓣのラックについて。(画像参照)



リビングに置いた白いラックは、観葉植物とリクガメを効率的に収納するために自作した。(ちなみに工作は得意で趣味でもある。かつてはウッドデッキを作ったこともある)

 このラックの特徴としては、下段の「カメハウス」をぎりぎりカバーできるサイズで、各段の棚板は、たとえば左手のエアコンのホースを避けたりしつつ、各段すべて奥行きが違っている。そして可動式になっている。(つまり各段の高さが変えられる)

 *観葉植物について:ここに見えているのは、小ぶりな「塊根植物」など。一見サボテンのようだが、サボテンはたった1種しかない。ひからびた大根を逆さに植えたようなものが気に入っている。リビングの反対側には、最近はまっているアガベやアロエなどの「葉先の尖った系」があるのだが、それについては次回に(嘘)。右下のサーキュレーターは植物用。奮発して舶来品。

 *リクガメについて:ちらっと写っているが、ヒガシヘルマンリクガメ(雌)と同居している。これが想像以上に人間臭くて楽しい。人の声を聴き分ける(わたしの声には無反応のくせに、優しくしてくれる家人の声を聴くと、近寄ってくる)。あくびもするし、気が向かないとこちらに尻を向けてふて寝する。小松菜が主食だが、3日ぐらい経って鮮度が落ちるとそっぽを向いて食べない。しかたないので、人間がおひたしにして食べる。

 最後にもうひとつ。書斎の見取り図にⓄが欠落していることに気づいた人は観察力が鋭いですね。




いおか・しゅん
1960年、東京都生まれ。2005年『いつか、虹の向こうへ』(応募作「約束」を改題)で第25回横溝正史ミステリ大賞とテレビ東京賞をW受賞して作家デビュー。14年に刊行した『代償』は累計50万部突破のベストセラーに。他の著書に『瑠璃の雫』『教室に雨は降らない』『痣』『悪寒』『本性』『冷たい檻』『不審者』などがある。