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私の○○ベスト3
Vol.48 キタハラ  僕の「学生時代に薦められて読んだ本と、その思い出」ベスト3


1位 ミランダ・ジュライ『いちばんここに似合う人』
2位 丸谷才一『思考のレッスン』
3位 佐藤泰志『佐藤泰志作品集』



 人に薦められたものを読むのは、面白い。これが僕に必要だと、あなたには思われるわけですね、なるほど……。いやそんな勘繰りなんてしちゃいませんよ。素直に、ありがたく思います。そういえば、学生の頃はよく、人に本を薦められた。

3位 佐藤泰志『佐藤泰志作品集』(クレイン)
 大学のゼミ教官に「読んでみたら? 佐藤泰志の文章が参考になると思う」といわれたのは『海炭市叙景』が映画化され、話題になるちょっと前だった。ついでになにを書いてもいまいち決まらず焦っていた頃だ。典型的な芸大生、文芸学科学生の悩みである。教官は僕の作品を読んでは「なにかが足りないな〜」といつもコメントした。その一言を聞くたびに正直困った。言語化できないなにか。しかも、指導を受けたからといって、習得できるわけではないもの。佐藤泰志の小説にはあって、あのときの自分にはなかったもののことを読み返すたび、考える。いま自分が書いているものにあるのか。まだ判断を保留している。

2位 丸谷才一『思考のレッスン』(文春文庫)
『思考のレッスン』は授業の推薦図書だった。ダメ学生だったもので、授業で取り上げられた箇所だけ読んで放っていた。本というのはどうも読むタイミングがあり、「創作を学ぶ学生に必要」と先生が薦めてくださっても、当の学生はまだその段階でなかったりする。通読したのはつい最近のことだ。最後の最後に、ある意味身も蓋もない、文章を書く上で大事なことが書かれていた。あの頃に読んでいたら、「当たり前でしょ」なんて放り投げていたかもしれない。いまはもう、そんなふうには切り捨てられない。

1位ミランダ・ジュライ『いちばんここに似合う人』(新潮社)
 好きになった人に、ミランダ・ジュライが面白かった、気に入ると思う、と黄色い表紙の本をプレゼントされ、恐縮して受け取った。すぐに読んで感想を送ればいいものを、ページを開くのを躊躇った。自分の趣味でなかったらどうしよう、とか、これを面白いだろうと薦めてくれたということは、この本は、相手による僕というものへの批評であり、挑戦状なのではないか、とかなんとか。ダサいどころかキモい。結局その人にはすぐ振られ、小説の感想を伝えることができなかったのが悔やまれる。そのかわり、誰彼かまわず「面白かった」とミランダ・ジュライを薦めた。けれど雑に置きっぱなしにしたりしているうち、布教用とごっちゃになり、貰った本がどれだったか、わからなくなってしまった。
「あなたにおすすめ」といわれるのは嬉しい。どれも特別な一冊になってしまう。




きたはら
『熊本くんの本棚』で第4回カクヨム Web小説コンテストキャラクター文芸部門大賞を受賞。著書に『熊本くんの本棚 ゲイ彼と私とカレーライス』(KADOKAWA・第10回Twitter文学賞国内編第3位)、『京都東山「お悩み相談」人力車』(PHP文芸文庫)がある。