私の○○ベスト3
Vol.50 青木杏樹 営業マン時代を支えてくれた心理学者の言葉 ベスト3
1位「どんな仕事でも十分なコミュニケーションをとる」ロバート・ボルトン
2位「自分を信頼し尊重する」ナサニエル・ブランデン
3位「自分のタイプを理解し発達させる」イザベル・ブリッグス・マイヤーズ
わたしは落ちこぼれ営業マンだった。
入社して一年間は契約がまったくとれず営業成績は常に最下位だった。上司には毎日のように怒鳴られ、先輩は冷たかった。そんなわたしが縋ったのは学生時代に買いあさった心理学の本である。
失敗と挫折を繰り返し、翌年の夏、ついに営業成績トップになった。
落ちこぼれだったわたしを変えてくれた言葉をランキング形式で紹介していきたいと思う。
◆第3位 「自分のタイプを理解し発達させる」イザベル・ブリッグス・マイヤーズ
2019年末に出版した『フェイスゼロ とある殺人の行動心理記録』(KADOKAWAメディアワークス文庫)でも取り上げたが、マイヤーズは学位を持たない心理学者であったため、その仕事は心理学界では冷たくあしらわれた。当時のわたしは低学歴であることに引け目を感じていた。しかし彼女は『人間のタイプと適性』(邦訳・日本リクルートセンター出版部)を通じてそれを否定してくれた。
◆第2位 「自分を信頼し尊重する」ナサニエル・ブランデン
わたしは自己評価の低い人間だった。いつも猫背で下ばかり見て歩いていたし、褒め言葉をお世辞と捉えて素直に受け取ることができなかった。その自信のなさとねじ曲がったプライドを変えてくれたのが『自尊心があなたの人生を切り開く』(邦訳・騎虎書房)だ。わたしは自分を褒めることからはじめて、褒められれば素直にありがとうと応えることにした。
◆第1位 「どんな仕事でも十分なコミュニケーションをとる」ロバート・ボルトン
人間の性格は変わらないし、理解し合えないと思っていた。上司は自分の地位を守ることと数字を出すことがすべて。先輩は新人の躍進を妨げる存在だとも感じていた。『ピープル・スキル 人と“うまくやる”3つの技術』(邦訳・宝島社)を読んで、ふと気づいた。そもそも仕事は個人のものなのだろうかと。上司はこういうもの、先輩はこういうもの、と勝手に決めつけて、わたしは彼らがどんな人間なのか知ろうともしなかった。個人が会社を支えるのではない、大勢の人間の努力が会社を支えるのだ。わたしは積極的に声をかけ、補い合って仕事をすることを覚えた。
わたしたちはひとりで頑張りがちだ。
営業成績トップの結果は、わたしのちいさな変化と、周りのおおきな協力のお陰だった。
作家になったいまも「本はひとりでは売れない」と自分に言い聞かせている。
あおき・あんじゅ
新潟県糸魚川市出身。SF研究家・星敬に師事し、2018年『ヘルハウンド 犯罪者プロファイラー・犬飼秀樹』(KADOKAWAメディアワークス文庫)でデビュー。犯罪心理学や哲学を活かしたエンタメ作品を執筆している。2021年、「名もなきアンサンブル」で、第19回北区内田康夫ミステリー文学賞審査員特別賞を受賞。