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私の○○ベスト3
Vol.73 松樹 凛 私の犬映画ベスト3


第3位 「スペース・バディーズ 小さな5匹の大冒険」

第2位 「ホワイト・ゴッド 少女と犬の狂詩曲(ラプソディ)」

第1位 「でっかくなっちゃった赤い子犬 僕はクリフォード」



 動物が出てくる映画は良い。
 猫やネズミももちろん良いが、バラエティの豊富さという点ではやはり犬が一番だろう。作家という職業にはなぜか猫派の人が多いように思うが(気のせいかも)、映画に限って言えば私は断然犬派である。
 ということで、ここでは私の独断と偏見で選んだ犬映画ベスト3をご紹介したい。


第3位「スペース・バディーズ 小さな5匹の大冒険」
 5匹の子犬たちの冒険を描く「バディーズ」シリーズの2作目。うっかり宇宙船に乗り込み、5匹だけで月へと打ち上げられてしまった子犬たちの冒険を描いた本作は、徹底したご都合主義の連続にあふれている(でなければ、子犬だけで宇宙に行って帰ってこられるわけがない)。しかし、そこには間違いなくある種の軽やかさが宿っていて、重力に縛られた観客の心を解きほぐしてくれる。想像していたよりもずっと近かった夜空の月を、飼い主の少年とともに見上げるラストシーンの美しさが印象に残る名作だ。


第2位「ホワイト・ゴッド 少女と犬の狂詩曲(ラプソディ)」
 舞台は雑種犬の飼育に重税が課せられるようになった、ヨーロッパのとある国。別居中の父親に預けられることになったリリは、愛犬ハーゲンを父に捨てられてしまう。必死に愛犬の姿を探すリリだったが、執拗に野犬狩りを行う当局に追われたハーゲンは、裏社会の闘犬場へと流れ着き、獰猛な野性に目覚めつつあった。やがて闘犬場を脱走したハーゲンは、数百匹の犬たちを率いて人間社会への叛乱を引き起こすのだった……。
 独創的なストーリーもさることながら、やはり圧巻なのはクライマックスで描かれる犬たちの叛乱である。数百匹の犬の群れがブダペストの町を駆け抜けていくシーンの美しいこと! 市街地を大量の動物が闊歩する映画は名作と相場が決まっているが(例:『バットマン リターンズ』のペンギン軍団)、本作の犬たちには神々しさすら宿っていると言えるだろう。


第1位「でっかくなっちゃった赤い子犬 僕はクリフォード」
 タイトルを読んで字のごとく、赤い子犬のクリフォードがある日突然でっかくなっちゃうという、ただそれだけの話である。どのくらいでっかいかと言うとおおよそ4メートルほど。とにかくデカい。巨大化の理由を「たくさん愛されたから」の一言で済ませる潔さ、でっかい子犬が無邪気に大暴れする解放感、子供たちの等身大の大冒険、と全てが詰まったよくばり娯楽映画だ。この手の映画に不可欠な悪の巨大企業がちゃんと出てくるのも素晴らしい。私もこういう会社に転職して、無垢な瞳の子供たちからコテンパンにやっつけられたいものである。
 なお、本作は上記の通り超子供向け映画であるにもかかわらず、なぜかPG12指定となっているが、これは主役の子供たち二人が街中で無免許運転をしているせいとのこと。しかし、この無免許運転のシーンも爽快感に満ちた実に素晴らしいものとなっているので、是非とも見ていただきたい。




松樹凛(まつき・りん)
1990年生まれ。慶應義塾大学推理小説同好会出身。2020年〈飛ぶ教室〉第51回作品募集に佳作入選、21年に第8回日経「星新一賞」優秀賞を、同年「射手座の香る夏」で第12回創元SF短編賞を受賞。2024年に短編集『射手座の香る夏』(東京創元社)を刊行。