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私の○○ベスト3
Vol.68 くわがきあゆ 私の思い出深い空港ベスト3


第1位 パリ シャルル・ド・ゴール空港(フランス)

第2位 バルセロナ エル・プラット空港(スペイン)

第3位 ローマ フィウミチーノ空港(イタリア)



 ヨーロッパ旅行が趣味で、格安の航空券やツアーを見つけて出かけている。
 旅の中で印象に残っている空港を挙げたい。


第3位 ローマ フィウミチーノ空港(イタリア)

 母と出国審査の順番待ちをしていた時のこと。
 「ひゃあ」という声がしたので隣を見ると、母が白い粉まみれになっていた。前方で出国を拒否された男性二人組が、去り際に放り投げた袋の中身が降りかかったらしい。あの白い粉が何だったのかは未だに不明である。


第2位 バルセロナ エル・プラット空港(スペイン)

 バルセロナ滞在中にスリ被害に遭ったので、帰国時に空港内の警察で盗難証明書を出してもらうことになった。盗まれたのはほぼ全財産の入った財布である。
 空港内には、市警察、州警察、国警察の窓口があり、スリ被害は市警察に届ける。近づいただけで、「タックスフリーはあっちだよ」と門前払いされそうになる。よほど間違いが多いらしい。
 盗難証明書の作成にはかなりの時間がかかった。担当の警察官に、被害に遭った場所と日時、当時の状況、犯人の人相などを細かく聞かれるのだ。捜査してもらえるなら、と私も一生懸命に答えた。
 必要事項の確認がすべて終わった後、その警官が、
「もしあんたの財布が見つかったら、俺が日本にまで持っていってやるよ。ハハハ!」と笑いながら言った。
 あ、財布捜す気ないんやな、と気づいた。


第1位 パリ シャルル・ド・ゴール空港(フランス)

 学生時代、格安航空券でパリに行った時のこと。帰国便に乗り遅れた。安ホテルが安タクシーの手配時間を間違えたのだ。
 空港に着いたのは帰国便の離陸15分前だった。それでも何とかならないかと、空港内を走った。履いていたハイヒールを脱ぎ、裸足で全力疾走した。空港の床は薄汚れたカーペット敷きだったので、足裏には優しかった。しかし当然、搭乗には間に合わず、飛行機は行ってしまった。
 異国の空港に取り残され、しばし呆然とした。乗り遅れた格安航空券はただの紙切れになり、新たに正規で航空券を買い直して帰国するしかなかった。その額、約30万円。半泣きになった。足下のカーペットが無性にカビ臭い。
 泣きそうになりながらも、空腹を覚えた。とにかく何か食べて落ち着こう。昨日、マカロンを買ったことを思い出し、袋を取り出して開けた。しかし、その中にマカロンはなく、色とりどりの粉だけが入っていた。さきほど空港を走り回った衝撃で、あの繊細なお菓子はすべて粉砕されてしまったのだった。ただもう足下のカーペットがカビ臭い。



くわがきあゆ
1987年生まれ、京都府出身。第8回「暮らしの小説大賞」を受賞し、『焼けた釘』で2021年にデビュー。2022年、『レモンと手』で第21回『このミステリーがすごい!』大賞・文庫グランプリを受賞。同作を『レモンと殺人鬼』に改題し、2023年4月に刊行。