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小野寺史宜 最新刊『タクジョ! みんなのみち』……人生の機微を紡ぐ名手が贈る、味わい深い人間ドラマ!

小野寺史宜 最新刊『タクジョ! みんなのみち』……人生の機微を紡ぐ名手が贈る、味わい深い人間ドラマ!

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女性客が安心してタクシーに乗れるようにしたい……高間夏子は「タクシー運転手」のみちを選んで4年目を迎えた。お調子者のイケメン先輩・姫野民哉、同期の霜島菜由や永江哲巳、強面のベテラン道上剛造など、個性豊かな同僚に支えられ、公私にわたって様々な経験を積み、夏子は成長を続けている。コロナ禍でタクシー業界も苦境に陥るが、変わらずタクシーに乗ってくれるお客さんのため、夏子たちタクシードライバーは、たくましく、しなやかに、それぞれのみちを進んでゆくーー。

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★矢部太郎さん(芸人・マンガ家)から素敵なメッセージをいただきました。

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★刊行記念 著者インタビュー


小野寺史宜さんの新刊『タクジョ! みんなのみち』は、大学を卒業しタクシー会社に就職した26歳の女性ドライバーを中心に、その周囲の人々を描いた連作短編集。20代から50代までの6人が走るそれぞれの「みち」は、どこから始まりどこへと続くのか。物語が生まれるまでの道程を聞きました。

聞き手・文/藤田香織  撮影/永田雅裕

◆タクシーには乗らない作家が描くタクシー運転手

――いわゆる男性の多い職場で新卒の女の子が働く、というのであれば、他にもいろいろな業種があったと思うんですが、そもそもなぜタクシーだったのでしょう。

小野寺:まず、昔からタクシードライバーの話を書いてみたいなって気持ちがあって、じゃあ次の主人公で、ってなった時に「男性の話よりも女性のほうがいいのかな」と思うようになったんです。ちょうどその頃、タクシー会社が新卒女性を積極的に採用しているという話を耳にしていて、これはいけるかもと。

――小野寺さんは、あえて取材をせずに執筆されることが多いと伺っていますが、さすがにそうはいかなかったのでは?

小野寺:はい。都内のタクシー会社にアポイントを取ってもらって、実際に女性ドライバーの方からかなりがっつり話をきかせてもらいました。主人公より少し年上の方でしたけど、考えてみるとわからないことばかりだったので、取材なしでは書けない世界でした。

――読者としては、乗務員としてデビューするまでの過程から、仕事のサイクル、勤務中の休憩時間や営業範囲、洗車の実情にトラブル対処法まで、他にはない特殊な業種の裏側を知る、という意味でも「へえへえ!」が沢山ありました。

小野寺:僕はタクシーにほぼ乗らないので、ドアをどうやって運転手さんが開け閉めしてくれてるのかも知らなかったんですよ。年齢的にはバブル期の終わりぐらいに会社員になったんですけど、その恩恵は全然受けてなくて、極端なこと言ったら自分でお金払って乗ったことあるかな、ぐらい(笑)。

◆何も考えていなかった登場人物の過去

――今回の作品は、2020年に刊行された『タクジョ!』から連なる作品ですが、主人公だった高間夏子だけでなく、前作に登場した同僚5人の視点からも綴られています。

小野寺:『タクジョ!』の続編的なものを、と依頼されたんですけど、そのまま夏子の数年後を描くより、やっぱり何か変化を付けたくて。イメージとしては『片見里なまぐさグッジョブ』(文庫化の際『片見里、二代目坊主と草食男子の不器用リベンジ』に改題)と『片見里荒川コネクション』の関係性がありつつ、もう少し続編の印象を強く出したかったんです。それで、同僚たちを掘り下げてみようと思い立った感じですね。

――仲間のなかから誰を選ぶのかは、すんなり決まったのでしょうか。

小野寺:まずは、自分でも魅力あるなーと思っていた姫野民哉と道上剛造がマストで。

――超一流私大卒、前職は大手航空会社勤務、しかもイケメンな姫野。強面で、まことしやかに「その筋の人だった」と噂されていた道上。ふたりの過去は興味津々で読みました。姫野が空から陸へ移ってきた理由も、道上の肩にある入れ墨を消したんじゃないか疑惑の傷跡の真相も、しみじみ沁みるエピソードで。

小野寺:『タクジョ!』を書いたときは、続編を書くことを考えてなかったんで、姫野や道上の過去も具体的には考えてなかったんです。だから今回、読み返して確認しながら、こんなこと言ってる、ってことは何があった? と改めて肉付けしていきました。道上の傷跡は、なにをしたらそんな場所に熱湯をかけられるような状況になるのか、結構いろいろ考えましたね(笑)。彼の人生はそれで別に1本小説書けちゃうくらいの重さがある。



●物語を支えたもうひとつの柱

――個人的には、再婚して北海道へ引っ越していった川名水音の章も印象的でした。本州から出たことがない、と言っていた夏子も札幌へ行けて良かったです(笑)。

小野寺:飛行機にも乗れてね(笑)。話としては、何かひとつ、会社から離れた話を入れたかったので、ちょうどいいなって思って。読者の目線もちょっと変わりますし。あと、ドライバー以外の視点も欲しかったので採用担当の永江哲巳を入れて、最後に決まったのが霜島菜由でした。

――中途採用も多い業界ですが、夏子と同い年で新卒採用の同期ですね。

小野寺:夏子は、いろいろ困難はあってもドライバーとしての仕事自体に迷いはなく突き進んでいるけど、もちろんそんな人ばかりじゃないはずで。就職してみたものの、やっぱりドライバーには向いてなかった、駄目だったなっていうケースもある。菜由の視点からそこが描けたのは良かったですね。

――視点人物ではありませんが、6話すべてに登場する、転職組の刀根も気になるキャラクターでした。望んでタクシードライバーになったわけじゃないと、愚痴をこぼしながら働いている40代のシングルファーザーです。

小野寺:先に6人を決めて、その段階では刀根の発想はなかったんです。で、夏子は自分の章以外の5話にも出そうと考えていたんですけど、それ以外にもうひとつ、なにか全部を貫く存在が欲しいなと思って出したのが刀根。ネガティブで、めちゃくちゃ嫌なことしか言わなくて、だけど少しずつ変わっていく。刀根を描けたことで物語の軸がしっかりしたな、という実感がありました。

●運転手と、選べない乗客たち

――そうした6人それぞれの歩んできた道を振り返り、これから進んで行く道を示す一方で、お仕事小説ならではのタクシー業務自体も読ませます。今回は、前作から約3年後、夏子は23歳から26歳目前になり、ドライバー歴4年目を迎えています。

小野寺:最初は前作から1年後にしようかとも思ったんです。でも、コロナのことにまったく触れていなかったので、いろいろ齟齬が出てきてしまいそうで。だったら3年後にして、今年の状況に合わせたほうが良いかなと。3年ぐらい経つと夏子にも後輩ができたり、経験も増えて、ちょっと育った変化が見せられるし。

――ドライバーたちがどんな客を乗せて、密室となる車内でどんなやりとりをするのか。人、場所、会話、出来事、どこから決めることが多かったのでしょうか。

小野寺:道上剛造の章を、若いカップルのハルマとユラが、車内でケンカする場面から始めたのが自分では気に入っています。ここ、そんなに長くなくていいよな、と思いながらもどんどん書いちゃいました。夏子は初めて乗せる「有名人」は、あんまり派手なものにはしたくなかったっていう気持ちがあったかな。

――そんなに売れていないアイドルや女優でも成立しそうですが、お天気キャスターですね。

小野寺:お天気キャスターであるけれど気象予報士ではない、という存在がいいな、そこを活かしたいと思って。ちょうど仕事を終えた夏子が自宅に帰ってテレビをつける早朝に出演しているという設定でつなげられるなと。あとは最初の姫野の章で、人気のユーチューバーを出しちゃったから、あまり派手じゃない職業がよかったんです。

●お馴染み「おかずの田野倉」も登場!

――そのユーチューバー徳地萠亜は、『奇跡集』にも登場しています。ホワイトシチューうどんの裏話もあり、小野寺さんの小説を読み継いできている読者にはお楽しみポイントでもあります。

小野寺:ここまではっきりしたリンクは逆に久しぶりかもしれません。誰かの話に固有名詞が出てくるだけじゃなくて、ちゃんと本人が名乗って登場してますからね(笑)。

――お馴染みの固有名詞もチラホラと。

小野寺:最終話には、例によっていつも通り、砂町銀座商店街の「おかずの田野倉」も。人によっては「また田野倉出てくるのかよ」って思うかもしれないですけど、今回は割と必然だなと思ってて。僕が仕組んだわけじゃなくてたまたま、夏子たちが地理試験を受けに来た東京タクシーセンターが南砂町にあるんです。そこからの、姫野に関連する裏設定もあるんですけど、これは気付いてもらえるか、ちょっと微妙かも。

●リンクする世界はひとつ

――改めてお聞きしたいのですが、作品間にリンクを張られる理由は、読者サービス以外になにか思いがあるのでしょうか。

小野寺:結局、僕は世界はひとつっていうか、全部つながってるなと常に思っていて。
例えば8月に出した『レジデンス』は、これまでの作品と全然違うとか、ダークだと言われてもいますが、でもやっぱり同じ世界の話なんだって意識があるんです。それは見え方の問題で、自分がダークな時には世界全体がダークになってしまうだけのことで、こことあそこが別世界ではないんだと思ってる。分けたくないんですよね。

――『レジデンス』は、これがあの小野寺史宜なのか⁉ と衝撃を受けた人も多かったようですね。「あの」とは、「いい話を書く」という意味だと認識しているのですが、ご自身としてはどう受け止めていらっしゃいますか?

小野寺:自分でも不思議なんですけど。いい人しか出てこないとかまで言われることもあって、「そんなかな」って思います。いい人を書いてるつもりもないんですよね、特に。例えば20作出して、全部がその感じでいいわけはないという気がします。

――では最後に、次の作品の「いい話」度を教えて下さい。

小野寺:来年の2月に書下ろしで双葉社から単行本が出る予定ですが、『レジデンス』ほどは暗くないけど、『タクジョ!』よりはもう少しダークな感じです。主人公は小学校の先生で、辞めて警備員をしているっていう。

――以前、下書きは必ず手書きすると伺ったことがあるのですが、今も変わらず続けられているのでしょうか。

小野寺:そうですね。下書きは基本的に、一回丸々1冊分手書きで全部書きます。大体ノート3冊分くらい。それを見ながら、パソコンで本書きしていたんですけど、今書いてる来年8月発売予定のものは、それがさらに高じて下書きの下書きみたいなこともやっちゃってます。A4の紙で80枚、400字詰め原稿用紙だと300枚ぐらいになって、だから3回書いてることになる。でも、これが楽しい。まだ、書くことに飽きてないんですよね、全然。


(22年10月 東京都内にて)

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★書店員さんからの熱いエール、続々到着!

道で走り去るタクシーには人々の悲喜交交が詰まっているんだな…。これからその姿を見る度に、タクジョの物語を思い出してしまうかもしれません。
未来屋書店大日店 石坂華月さん

またあの夏子に会えた。うれしい!
辛いこと理不尽なこともあるけれど、人とのかかわりの中で懸命に生きている、その姿に胸が熱くなる。応援しているようで、本当はおもいっきり応援されていた。
ジュンク堂書店滋賀草津店 山中真理さん

リアルなコロナ禍でのタクシー業界の苦悩や不安も重くなりすぎず、同僚やお客さんたちとの会話も軽妙で最後までテンポよく楽しませていただきました。
文苑堂書店新湊店 鳥山さん

パワーアップしたタクジョは、まろやかな深みが出て、営業所の仲間たちと楽しい時間を過ごせるシリーズです! 思わず励まされ、心に爽やかな風が吹く物語。
うさぎや矢板店 山田恵理子さん

どんなにきつくても「好き」という気持ちは無限大!! 読みながら、まるでタクシーに乗って、ワクワクする場所に向かうような読み心地!!
紀伊国屋書店福岡本店 宗岡敦子さん

小野寺さんの作品は前から知っている「ひと」や「まち」が出てくるので、見つけるとうれしくなります。
SuperKaBos鯖江店 峯森和代さん

出てくる人それぞれが自分と向き合うなかで自分ができることひたむきにやる姿に心が救われました。
ビッグワンTSUTAYA さくら店 阿久津さん

車内で交わされる、運転手とお客さんとの軽妙かつ優しい会話に心が癒されます。
今井書店 浜崎広江さん

小野寺さんの作品はいつも身近。自分の住むこの街のどこかでありそうなお話。だから親近感も湧く。読んでいて楽しいです。
明屋書店厚狭店 小椋さつきさん

仕事に家事につかれた心に栄養をあたえてくれるエナジードリンクのような存在です。
宮脇書店ゆめモール下関店 吉井めぐみさん

みんなのみちにはきっといろんなみちがあって、歩きやすかったり、スキップしたくなったり、時にはとげとげで横みちにそれたくなったり…。でもそんな時、夏子のように前進できたら良いなあ!と思いました。
丸善広島店 中島さん

まさかのコロッケ! 最高〜!!
また東央タクシーの皆さんに会えて幸せでした! 
文真堂書店ビバモール本庄店 山本智子さん

年齢も性別も経験も就労背景も様々な仲間達が、様々に導かれるように働く姿が描かれていて、あたかも人の繋がりの万華鏡を覗いているかのようです。
明林堂書店南宮崎店 河野邦広さん

一期一会を大切に働くタクシードライバーのみんな、かっこいいよ!
うさぎや作新学院前店 丸山由美子さん

今回の会社説明会での高間夏子のスピーチ、めちゃくちゃかっこよかったです!! 私も説明会に参加している気分でタクシードライバーの仕事に興味が沸きました。
紀伊國屋書店イトーヨーカドー木場店 宮澤紗恵子さん


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★文庫『タクジョ!』作品解説


いま最も信頼のおける小野寺作品は決して裏切らない。 内田 剛(ブックジャーナリスト)

……タイトルとなる「タクジョ」は女性タクシー運転手のことだ。理系女子は「リケジョ」、歴史ファンの女性は「レキジョ」。女性の活躍が目立つ分野は押しなべて勢いがある。タクシーと女性、この二つの要素を物語の主軸にもってきた点が非常に心憎い。タクシーは誰にとっても身近であって同時に特別な存在であろう。徒歩や自転車でもなくバスや電車でもない。タクシーを利用する時には必ず理由がある。最寄り駅の電車の事故、体調不良での通院、手回り荷物の多い時、仕事の待ち合わせに遅れそうな時など。つまりはピンチの時に助けてくれる乗り物がタクシーなのだ。さらには運転手が女性であったらなんとなくホッとさせてくれるのではないだろうか。どうしても気持ちが騒めいた状況でタクシーに乗り込む機会が多いので女性特有のホスピタリティに癒されるのだ。

全文はこちらへ →https://j-nbooks.jp/novel/columnDetail.php?cKey=191

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★著者プロフィール

おのでら・ふみのり
1968年、千葉県生まれ。2006年「裏へ走り蹴り込め」で第86回オール讀物新人賞を受賞。08年、ポプラ社小説大賞優秀賞受賞作『ROCKER』(ポプラ社)で単行本デビュー。『ひと』(祥伝社)が2019年本屋大賞第2位に選ばれる。主な著書に『みつばの郵便屋さん』シリーズ(ポプラ社)、『人生は並盛で』(小社)、『まち』『いえ』(祥伝社)、『本日も教官なり』『レジデンス』(KADOKAWA)、『奇跡集』(集英社)、『ミニシアターの六人』(小学館)、『とにもかくにもごはん』『縁』(講談社)、『夜の側に立つ』『今夜』(新潮社)、『片見里荒川コネクション』(幻冬舎)など、多数。




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